バイオリンのマメ知識
コントラバスの名曲-協奏曲編
コントラバスを独奏に用いた作品は17世紀末ぐらいから書かれ始めましたが、独奏楽器として盛んに用いられる機会は現在にいたるまでそれほど多くありません。ここでは、歴史的にみてコントラバスが独奏楽器として注目を浴びた18世紀後半のウィーンとその周辺の作曲家の作品と、19世紀と20世紀の名コントラバス奏者の作品をご紹介しましょう。
C.D.v. ディッタースドルフ:「コントラバス協奏曲ニ長調」
ディッタースドルフ(1739~1799)はハイドンと同世代のオーストリアの作曲家で、モーツァルトとも交友関係があった人です。彼は、1760年代に当時のオーストリア帝国領にあったグロースヴァルダイン(現ルーマニア領オラデア)という街の宮廷楽師をしていました。そこの宮廷にはシュペルガーという名コントラバス奏者がおり、ディッタースドルフは彼のためにコントラバス協奏曲を作曲したのです。シュペルガー以外にも当時のオーストリアにはコントラバスの名人を多く輩出し、多くの作曲家が協奏曲を残しています。それらの作品は、現在「ウィーン式調弦」と呼ばれる特殊な調弦法(3度と4度の混合調弦)で演奏するために書かれており、ディッタースドルフの協奏曲もその調弦法によって初めて効果を発揮する技巧が使用されています。

C.D.v.ディッタースドルフ(1739~1799)
G. ボッテジーニ:「2台のコントラバスのための協奏曲ニ長調」
ジョヴァンニ・ボッテジーニ(1821~1889)は19世紀を代表する名コントラバス奏者でした。彼はオペラの指揮者としても著名で、ヴェルディの「アイーダ」はボッテジーニの指揮により初演されています。作曲家としてもヴェルディについて本格的な勉強をしたわけですから、ボッテジーニの協奏曲にもヴェルディをはじめとするイタリアオペラの影響が強く感じられます。「2台のコントラバスのための協奏曲ニ長調」では、超絶技巧を発揮させる華麗なパッセージはもちろん、オペラアリアのように美しく雄大な旋律を聴くこともできるのです。
S. クーセヴィツキー:「コントラバス協奏曲嬰ヘ短調」
セルゲイ・クーセヴィツキー(1874~1951)はロシア生まれで、アメリカで活躍した指揮者です。1924年から25年の長きにわたってボストン交響楽団の指揮者を務めるなど、20世紀前半のアメリカ音楽界を支えた指揮者の一人として知られていますが、キャリアの初期にはコントラバス奏者として活躍していました。彼は自らの演奏のために、コントラバスの独奏作品をいくつか残していますが、1905年にモスクワで初演されたコントラバス協奏曲は、彼の代表作と言えるでしょう。しかし、この協奏曲はピアノ伴奏譜は友人の作曲家グリエールが、オーケストレーションはトルミンが担当し、彼自身によって書かれた部分は独奏パートのみと言われています。第1楽章から第3楽章まで途切れずに演奏される作品で、第1楽章と、第1楽章の音楽が再現される第3楽章ではクーセヴィツキーの名人芸もかくやという技巧的なパッセージが印象的です。第2楽章ではロシア民謡風な旋律がコントラバスによって朗々と奏でられていきます。チャイコフスキー以来のロシアの伝統を感じさせる傑作と言えるでしょう。
楽器解体全書:バイオリンの目次
マメ知識
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- バイオリンの名曲-独奏曲編 I
- バイオリンの名曲-独奏曲編 II
- バイオリンの名曲-独奏曲編 III
- バイオリンの名曲-協奏曲編 I
- バイオリンの名曲-協奏曲編 II
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