バイオリンのマメ知識
チェロの名曲-独奏曲編

チェロのための独奏曲は、同じ弦楽器の仲間でも、バイオリンほどは数多くありませんが、聴く者を捉えて離さない魅力に満ちた珠玉の名品があります。ここでは、18世紀と19世紀から1曲づつ、名曲をご紹介しましょう。

言わずと知れた、すべてのチェロ奏者のためのバイブル的な名曲。バッハは6曲の組曲によって、独奏楽器としてのチェロのあらゆる可能性を追求しています。前奏曲、アルマンド、クーラント、サラバンド、ジーグといった古典的な舞曲の配列に、メヌエットかガヴォットのどちらかを加えたという構成を採っています。バッハならではという特徴は、チェロ一本で、対位法的な音楽を生み出そうとしているところにあるでしょう。このような特殊な特徴をもつためか、バッハの死後、これらの組曲は忘れ去られてしまいましたが、チェロ奏者たちにとってたいへん重要なレパートリーであることを気づかせてくれたのが、20世紀最大のチェロ奏者、パブロ・カザルスだったのです。このカザルスの発見によって、レーガー、コダーイなど世紀前半から、ジョージ・クラムやペンデレツキなど世紀後半の例まで、20世紀の多くの作曲家たちは、無伴奏チェロのための作品に取り組み始めました。

ベートーヴェンのチェロ・ソナタは5曲ありますが、この「第3番」は、「運命」や「田園」などの中期の傑作が書かれた「傑作の森」の時期に作曲され、最もよく演奏される作品です。このソナタは、友人のグライヒェンシュタイン男爵に捧げられています。ベートーヴェンはチェロを愛好したこの男爵から支援を受けていたため、作品を捧げることで感謝の意を表したのでしょうか。第一楽章の冒頭、チェロのみで演奏される主題を聴けばわかるように、朗々と歌うような旋律と、華やかな技巧を駆使するパッセージが見事にバランスをとっています。ピアノもチェロと対等な立場で会話を繰り広げ、二重奏ならではの魅力を高めていると言えましょう。

メンデルスゾーンは、歌うような美しい旋律を多く残したことで知られていますが、彼の2曲のチェロソナタ(第2番はニ長調)にも、彼のメロディーメーカーとしての才能が全開です。特に第1番はその傾向が強く、第1楽章やフィナーレの第1主題などではうっとりするぐらいの魅惑的な旋律を聴くことが出来ます。メンデルスゾーンは優秀なピアニストだったためか、ピアノのパートは相当難しく書かれていますが、チェロのパートもピアノに負けずに、存在感溢れるものとなっています。

フェリックス・メンデルスゾーン

フェリックス・メンデルスゾーン(1809~1847)