バイオリンのマメ知識
ビオラの名曲-室内楽編

バロック時代の初期から中期(1700年頃まで)にかけて、弦楽器のための室内楽や合奏曲は5声部からなり、中3声をビオラが担当するという作品が多く書かれていました。しかし、バロック時代後期になってから、オーケストラの弦楽合奏ではバイオリン2声、ビオラ1声、バス1声という4声が基本になり、室内楽でもバイオリンのためのソナタやトリオ・ソナタが流行したため、ビオラを活躍する室内楽は少なくなってしまいました。室内楽でビオラに再び焦点が当てられるようになったのは古典派時代以降です。

弦楽器、木管楽器、鍵盤楽器という変わった編成の作品で、「ケーゲルシュタット・トリオ」というニックネームで呼ばれることもあります。これは、モーツァルトが「ケーゲルシュタット」という、ボウリングに似た遊びに興じながら作曲したという言い伝えによります。モーツァルトは、友人だったジャカン家での音楽会で演奏するためにこの作品を書いたと言われています。おそらく、モーツァルト自身は、この作品でビオラを演奏したのでしょう。三つの楽器が美しい旋律を奏で合い、時には丁々発止のやり取りを展開し、まさにモーツァルトならではの音楽となっています。

ブラームスは、クラリネットとピアノのためのソナタを2曲(ヘ短調と変ホ長調)残しており、それらはビオラでもよく演奏されています。もともとは、マイニンゲン宮廷オーケストラのメンバーで当時随一の名人と言われていたクラリネット奏者、ミュールフェルトのために書かれました。しかし、クラリネットとビオラは音域も類似しているため、ビオラで演奏しても、まるでこちらのほうがオリジナルと感じられるほどです。特に、両作品に共通する、憂いを含んだほの暗いメロディは、ビオラの魅力が大いに発揮されるのではないでしょうか。

20世紀前半のドイツの作曲家パウル・ヒンデミットは、ビオラ奏者でもあり、ビオラのためのソナタを合計7曲残しています(うち、3曲はビオラとピアノのための作品)。ここでは、無伴奏ビオラのためのソナタから、1937年に書かれた最後の作品をご紹介します。このソナタはアメリカ旅行中、ニューヨークからシカゴへ向かう鉄道のなかで書かれました。四つの部分からなり、苦渋に満ちたモノローグから激しいポリフォニーまで、独奏楽器としてのビオラの特質が見事に活かされています。ヒンデミットは、この頃、ナチスの迫害によりドイツを追われ、結局彼はアメリカへの移住を余儀なくされてしまうのです。そうした精神的な不安がこのソナタにも現れているかも知れません。

ヒンデミット

ビオラ奏者でもあったヒンデミット