バイオリンのお手入れ
必要に応じておこなうメンテナンス

実は、弦楽器の修理などの相談で件数が多いのは、楽器本体についてよりも、弓についての相談。そしてそのうち8割が毛替えの依頼なのです。弦楽器では、毛に松脂をつけることで弓が弦にひっかかるようにして演奏しているわけですが、毛の中に松脂の粒子がすべて入り込んでしまうと毛の表面がつるつるになってしまい、どんなに松脂をつけても弓が弦にひっかからなくなります。ですから、毛が弦にすいつかなくなってきたら、毛替えの時期です。目安を言えば、初心者の方なら半年から1年で替えるとよいでしょう。

弓のヘッド

ここが弓のヘッド。ヘッドの先に貼ってある白い部分がチップ。

また、毛は時期によって伸び縮みするので、これが問題になることもあります。乾燥する冬場は短くなって、ネジを緩めても緩みきらなくなったり、反対に、夏場など湿気が多い時期はだらっと伸びてしまい、ネジを締めても毛が張り切れなくなったりすることがあるのです。調整で済むこともありますが、交換してしまった方がいいことが多いようです。よい音色のためにも、定期的な交換をおすすめします。

そして、弓で一番大事なのは、ヘッドの部分です。よく見ると、一本一本形も大きさも違いますし、ここに作品の個性が出るのです。そして、ここに貼ってあるチップですが、これが割れることがけっこうあります。素材は骨とプラスチックで、プラスチックの方がやや割れやすいです。修理する場合は、新しいものに交換してニカワで留めます。
ちなみに、弓は繊細なので楽器のケースの中にしまいますが、この時、逆さまに入れている人が時々いらっしゃるので、ご注意ください。写真のように、弓を固定できる方にヘッドを向けてしまいます。反対にすると中でヘッドがカタカタ動いてしまい、よくありません。

バイオリンケース

弓をしまう時は、ヘッドが固定されるように注意。

この季節、湿気が気になる方は、ケース内をカラッと爽やかにしておくと安心して楽器を保管できます。ケースによっては温度計と湿度計が付いているものもありますが、ない場合は湿度計だけでも一つ入れておかれてはいかがでしょうか。その上で、湿度を調節するためのグッズを利用しますが、除湿専用のものと、湿気と乾燥の両方を防いでくれるものの2タイプがあり、お安いもので900円ぐらいからあります。除湿専用のものは、梅雨時など湿度が高い時だけ使いますが、乾燥も防いでくれるタイプのものは、1年中、常にケース内の湿度を適切に保ってくれます。

コンポジション

糸巻きを回りやすくするコンポジション

また、梅雨時は湿気を吸った木が膨張するため、糸巻きが回りにくくなることがあります。そんな時に力を発揮するのが、糸巻きをすべりやすくするためのコンポジションです。雨の多いシーズンには1本ご用意いただくとよいと思います。糸巻き全体ではなく、ペグボックスと接する部分にのみ塗りましょう。

バイオリンを目の高さまで持ち上げて、駒を真横から見てみましょう。真横から見たとき、テールピース側の駒の面が、表板に対して垂直に立っている状態が正しい駒の立ち方です。
駒は弦の力で表板に押し付けているだけなので、簡単に傾いてしまいます。そのままにしていると、駒の足が変形したり、駒自体が曲がったりしてしまうので注意が必要です。調弦をしたときにすぐに傾いてしまうような場合は駒が変形している可能性があるので、一度しっかりと専門家に見てもらってください。

もし、自分で駒の傾きを調整する場合は、次のようにします。

  1. バイオリンを横から見て、駒の垂直を確認します。
  2. 垂直がずれていたら、弦を少し緩めて、正しい状態にゆっくり駒を動かします。
    このとき、楽器を両ひざの上に乗せて、両手の手首から小指の付け根の部分をバイオリンのコーナーあたりに置き、楽器を固定します。そして、両手の人差し指と親指で駒の上を挟んで、ゆっくりと駒を動かすようにしましょう。
  3. 調弦して、もう一度駒の垂直を確認する。
    傾きが直るまで、これを繰り返します。初めて作業を行う場合は、扱いに慣れた人に立ち合ってもらいましょう。

魂柱は板の間に挟まっているだけなので、時に倒れてしまうことがあります。バイオリンの中で転がって、コロコロと音がするのですぐわかります。こんな時は、自分でなんとかしようとせず、迷わず専門家に頼んでください。魂柱は特別な道具を使って立てます(写真参照)。そして、一度立ててから、少しずつ少しずつ軽く叩き、加減しながら正確な位置にずらしていきます。これは、熟練した専門家でないと難しい作業です。しかも、魂柱が斜めだったり、位置がほんの数ミリずれていたりするだけで、楽器の響きは悪くなってしまうのです。

f字孔からのぞくと魂柱が見える

f字孔からのぞくと魂柱が見える

時々、「自分でやってみたいんだよ」という人がいますが、無理は禁物。自己流でなんとかしようとすると楽器を傷つけてしまうこともありますので、無謀なチャレンジはお控えください。

魂柱を立てるための道具

魂柱を立てるための道具

ペグが緩い時は、ペグボックスから取り出して、チョークを塗ってみよう

ペグが緩い時は、ペグボックスから取り出して、チョークを塗ってみよう

乾燥が激しい時期に多くなるトラブルといえば、まず「ペグが緩んで止まらなくなった」というもの。これは乾燥により木が縮んで、ペグが緩んだために起きる現象です。ひどい場合はペグがなかなか止まらなくなってしまいます。こういう時は、一度ペグを完全に緩めて弦を抜きとり、ペグにチョークを塗ると止まりやすくなります。その際、ペグ全体に塗りたくるのではなく、ペグボックスとの接地面にのみ塗りましょう。言うまでもなく、反対に湿気が多い時期になると木が膨張して、今度はペグが回りにくくなります。ですから、冬場に緩いからといって、むやみにペグボックスの穴やペグそのものを加工してしまうと、今度は夏場に問題が大きくなる可能性があります。ただし、中には単に乾燥の問題ではなく、古い楽器などで物理的な処理が必要なケースもあります。チョークを使ってもうまくいかない時は、ぜひ専門家に相談してください。

肩当てのゴムを取り換えるには、かなりの力が必要です。ゴムを入れるときに抵抗を小さくする方法は、まず、通す肩当ての足のうち、最も鋭角に曲がっているところに指などで1滴の水をつけます。水は、曲がったところ1箇所につき、表側と裏側の2箇所につけます。そして、ゆっくりとゴムをしごくようにして差し込んでいきます。はめた後、水がついているようであれば、布でふき取ってください。