バイオリンのマメ知識
ビオラの名曲-協奏曲編

6曲からなる「ブランデンブルク協奏曲」は、バッハがバロック時代に知られていた様々なタイプの協奏曲を集めた曲集です。第三番は6曲のなかでも、最も古いタイプの協奏曲で特定の独奏パートを持たず、バイオリン、ビオラ、チェロがそれぞれ3パート、そして通奏低音からなります。3種類の弦楽器が時に調和し、時に対立し合いながら、バロック時代特有の「合奏協奏曲」の面白さが追求されていくのです。

1779年、23歳のモーツァルトが故郷のザルツブルクで書いたと言われています。作曲目的はわかっていませんが、おそらくザルツブルクの宮廷で演奏されたのでしょう。この作品では、ビオラに特殊な調弦法(「スコルダトゥーラ」と呼ばれます)が要求されていることに特徴があります。通常よりも半音高く調弦されるために、弦の張力が増して、より輝かしく、たくましい音をビオラが演奏できるのです。そのために、もう一つの独奏楽器であるバイオリンにもひけを取らずに、ビオラが縦横無尽に活躍します。友人たちとの合奏では、ビオラを好んで弾くこともあったモーツァルトですから、ビオラの魅力がバイオリンに勝るとも劣らないということを示したかったのかも知れません。

「イタリアのハロルド」は、ビオラの独奏パートをもつ標題付き交響曲です。イギリスの文豪バイロンの同名の小説に基づき、主人公のハロルドを表すのが、独奏ビオラというわけです。「管弦楽法の魔術師」という異名をもつベルリオーズらしく、絢爛豪華で創意工夫に富むオーケストレーションはもちろん、ビオラの新たな可能性をこの作品で切り開いています。ところが、この作品をベルリオーズに依頼したパガニーニは、なぜかこの作品の演奏を拒んだと言います。パガニーニはストラディヴァーリ製作のビオラを入手しており、もっと派手にビオラが活躍する協奏曲を期待していたのでしょう。ところが、ベルリオーズの作った作品は、ビオラの新たな魅力を引き出しつつも、協奏曲ではなく、交響曲だったのです。パガニーニの不満もわかりますが、彼のおかげで非常にユニークなビオラ独奏のための作品が世に残されることとなりました。

イギリス近代の作曲家ウィリアム・ウォルトンのビオラ協奏曲は、20世紀最高のビオラ協奏曲の誉れ高い名作です。ウォルトンは20世紀前半の名手だったライオネル・ターティスのためにこの作品を書きましが、1929年に初演された時に独奏を務めたのはヒンデミットでした。他のイギリス近代の作曲家と同様に、ウォルトンは気品溢れる旋律の美しさとロマン派の伝統を20世紀風に継承した作風を持っており、そのと特徴はこのビオラ協奏曲でもはっきりと示されていると言えましょう。

ウィリアム・ウォルトン

ウィリアム・ウォルトン