バイオリンのマメ知識
あご当てはバイオリンの縁の下の力持ち?

バイオリニストは楽器本体を支えるのに、あご当ての部分にあごを当て、胴体を首で挟みます。あご当ては楽器をしっかりと支えるために不可欠な部分ですが、実はこれは1820年頃になってから発明されたものなのです。発明者は近代的なバイオリン奏法の確立に寄与し、作曲家でもあったルイ・シュポーアでした。シュポーアによる発明以前には、首のところで挟まず、肩胛骨の上に楽器を添えるだけだったので、安定感は悪いことこのうえなかったでしょう。
実際、あご当ての発明は演奏法にも影響を与えたようです。古典派時代までのバイオリン奏法では実施困難な指使い、ポジション移動、ヴィブラートが容易になり、表現もより多彩になりました。別の見方をすれば、あご当て以前に作曲された演奏の難しいフレーズは、あご当ての発明によって、演奏の容易なフレーズになってしまったとも言えます。何気ない発明が、演奏法のみならず、音楽観などにも影響を与えた例と申せましょうか。