社長メッセージ

[画像] 取締役 代表執行役社長 山浦敦

「強固な事業基盤の再構築」と
「未来を創る挑戦」をつなぎ、
ヤマハらしい価値創造を加速させます

中期経営計画「Rebuild & Evolve」(以下、中計)の1年目は、守りと攻めを同時に前進させる年となりました。
収益性の改善施策と成長投資を実行し、構造改革では具体的な進展が見え始めています。
2年目の2027年3月期は、少しずつ表れ始めた変化を成長へとつなげ、持続的な企業価値向上の実現を目指していきます。

経営ビジョンを、変革を動かす判断軸にする

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中計の初年度は、厳しい外部環境の中で、当社があらためて自らの事業基盤と成長の方向性を問い直した1年でした。収益性の改善は道半ばであり、ROEが資本コストを下回っている現実を、経営トップとして真摯に受け止めています。一方で、既存事業の収益力を立て直す取り組みと、ヤマハらしい新たな価値創造への挑戦は、着実に前へ進み始めています。私はこの1年を、単なる構造改革の初年度ではなく、ヤマハが次の成長に向けて自らを変え始めた年として捉えています。

2025年に刷新した経営ビジョン「音・音楽の力で、人々の個性輝く未来を創る」は、単なるスローガンではありません。この経営ビジョンの実現に向け、私たちは「技術×感性で磨く製品の本質的価値」「音・音楽の愉しみ方を広げる体験価値」「音・音楽による社会課題解決を通じた新価値創造」の3つの価値テーマを掲げています。中計は、この3つを具体的な事業活動として実現するための戦略そのものなのです。

1年を経て、社内では、経営ビジョンが日々の仕事や事業判断を行う上での共通の軸として少しずつ浸透してきたと感じています。特に、「Rebuild」と「Evolve」を別々の取り組みとして捉えるのではなく、足元の収益基盤を立て直すことが、未来の価値創造を支える土台になるという考え方が、事業や組織の議論の中で共有され始めています。守りと攻めのどちらかを選ぶのではなく、再構築を通じて進化の力を生み出す。この考え方を、グループ全体の実行力につなげていくことが重要です。

社外からも、ヤマハを単なる楽器・音響機器メーカーとしてではなく、音・音楽の力を起点に、体験価値の創出や社会課題の解決に挑戦する会社として見ていただく機会が増えていると感じます。オープンイノベーションの取り組みとして立ち上げたグローバルビジネスコンテスト「TRANSPOSE Innovation Challenge」に世界中から想像以上の反響があったことも、その一つの表れです。こうした期待に応えるためにも、ビジョンを言葉にとどめず、事業と組織の変化に結び付けていくことが、私の重要な役割だと考えています。

「Rebuild」と「Evolve」を一体で進める

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製品を販売するだけでなく、
お客さまと継続的につながる会社へ
進化するための基盤が整いつつあります

「Rebuild(強固な事業基盤の再構築)」では、課題が明確であった事業の収益構造に対し、具体的な手を打ってきました。中国市場の変化などを背景としたアコースティックピアノ需要の縮小に対応するため、製造拠点の集約に伴う生産移管を進め、事業規模に見合った体制への転換を図りました。ギター事業では採算改善に向けた取り組みを進め、ホームオーディオ事業では、当社が本来強みを持つ領域に経営資源を集中しながら、周辺領域では外部リソースの活用を積極的に進めることで、開発スピードと資源配分の最適化を図っています。

また、ゴルフ用品事業の終了を含め、事業ポートフォリオの見直しも実施しました。これらは一時的な費用削減ではなく、需要変動に耐え、次の成長投資を可能にする体質へ転換するための取り組みです。基幹事業を「収益を生み出す事業」として再生し、その力を将来の成長領域へと振り向けていく。この観点から、各事業が自らの現在地を客観的に見つめ、どの領域で競争優位を築き、どの領域で外部の力を取り入れるのかを、これまで以上に明確にする必要があると考えています。

「Evolve(未来を創る挑戦)」においても、新たな成長の芽が見え始めています。お客さまとのデジタル接点の強化、新たな体験価値の創出、外部企業やスタートアップとの共創など、ヤマハが製品を販売するだけでなく、お客さまと継続的につながる会社へ進化するための基盤が整いつつあります。こうした継続的な接点を通じて得られるデータや知見も、「Evolve」を支える重要な基盤です。「Yamaha Music ID」を通じて蓄積されるデータは、当社がこれまで十分に捉えられなかったお客さま一人一人のニーズや行動への理解を可能にします。その理解をもとに、製品やサービスの価値を継続的に高めていくことで、お客さま満足度の向上だけでなく、お客さまとの長期的な関係強化にもつなげていきます。このデータ活用基盤は、今後のサービス戦略を支える重要な経営資産になると考えています。

もちろん、中計1年目の成果に満足しているわけではありません。売上成長率や収益性の改善は、当初期待したスピードには届きませんでした。中国や欧州の市場低迷、米国の追加関税、原材料費や物流費の上昇など複数の外部要因が影響しましたが、私たちは原因を外部環境だけに求めるのではなく、自ら改善すべき課題にも真摯に向き合っています。変化が大きい時代ほど、意思決定の速さ、資源配分の大胆さ、そして現場まで含めた実行力が問われます。中計2年目は、収益構造の改善をさらに進めるとともに、高付加価値商品やサービス、成長領域への投資、AIも含めた業務変革を通じて、より筋肉質な経営への変革を加速していきます。

ハードウェアを起点に、継続的な顧客接点を広げる

「この領域では間違いなくトップである」と言える突出した強みを複数持つ会社を目指したいと考えています

今後も楽器や音響機器は、音楽を演奏し、聴き、表現するための優れたインターフェースであり続けると私は考えています。だからこそ、高い価値を持つ楽器や音響機器をお届けすることは、これからもヤマハの価値提供の中心であり続けます。一方で、価値は製品をお届けした時点で完結するものではありません。その先の「学ぶ」「つくる」「つながる」「発信する」といった体験全体の中で、継続的に価値を提供していくことが、これからのヤマハにとってますます重要になっていきます。

ヤマハが目指す進化の方向性は、従来のハードウェア販売中心の事業モデルから、お客さまとより長く、より深くつながり続ける事業モデルへの転換です。「Yamaha Music ID」を軸に、レッスンやコミュニティー、各種創作支援などがつながることで、お客さま一人一人の音・音楽との関わり方に寄り添うことができます。そして各種サービスを通じてお客さまとの接点が広がれば、製品の販売機会も増えていきます。このように、新規事業は既存事業を置き換えるものではなく、むしろ既存事業を進化させる触媒であり、ヤマハの強みを新しい形で生かすための重要な取り組みです。

[画像] グローバル拠点の従業員との対話

グローバル拠点の従業員との対話

サービスを通じて得られるお客さま理解を価値創造へとつなげること。それが、経営ビジョンに掲げる「人々の個性輝く未来を創る」を実現する道だと考えています。製品を起点にお客さまと出会い、サービスを通じて関係を深める。この循環をつくることが、ハードウェアを起点とするヤマハならではの進化です。

そして、こうした進化を実現し続けるためには、競争優位の源泉となる圧倒的な強みが不可欠です。私は、全体としてバランス良く優れている会社であること以上に、「この領域では間違いなくトップである」と言える突出した強みを複数持つ会社を目指したいと考えています。技術、ブランド、顧客体験、サービスのいずれにおいても、ヤマハならではの競争優位を磨き続けます。

この転換を加速するためには、リアルとデジタル、製品とサービス、既存事業と新規事業を分断せず、お客さまの一連の体験としてつなげていくことが必要です。例えば、楽器を購入した方がオンラインで学び、仲間とつながり、創作や発信に挑戦し、その過程で再びヤマハの製品やサービスに出会う。顧客理解の深化を通じて、こうした循環を生み出すことができれば、販売時点で終わらない継続的な関係性が広がり、事業機会の拡大にもつながります。さらに、その過程で得られる示唆を次の商品開発やサービス改善に戻していくことで、顧客接点は単なる販売チャネルではなく、価値創造の起点になります。

スピードと共創を生む組織文化へ

こうした変革を実現する上で、最も重要な基盤は人材と組織文化です。私は社長就任以来、職場訪問などを通じて、現場の声をできる限り直接聞くことを大切にしてきました。その中で感じるのは、ヤマハの中で“スピードの基準”と“つながり方”が変わり始めているということです。現場からも「これまでのやり方の延長では間に合わない」という意識が強まり、自前主義にこだわらず、外部の力を活用することへの理解も進んできています。

一方で、組織や職場によっては、遠慮や前例踏襲の文化が残り、失敗を恐れず挑戦することが十分に定着していないところもあります。だからこそ、リーダー層との対話をさらに深め、チームの力をお客さまへの価値創造に向けていくことが必要です。組織の力を引き出すには、方向性を明確に示すことと、現場が自律的に動ける余地をつくることの両方が欠かせません。

今後さらに強化していきたいのは、部門を超えてつながり、多様な経験や専門性を持つ人材が自分の力を発揮できる風土です。音や音楽に対する深い理解、ものづくりの現場で培われた技能、世界各地のお客さまと向き合ってきた経験、デジタルやサービスに関する新しい専門性など、多様な力を組み合わせることで初めて、これからの価値創造は可能になります。社内外の多様な知見や専門性を結び付けることで、これまでにない価値創造を実現していきたいと考えています。

採用面でも、人材ポートフォリオの変革に向けてキャリア採用を強化し、多様な経験や専門性を持つ人材の参画を進めています。2026年4月には、財務および経営企画機能の強化を目的に、エーザイ(株)の前CFOである庄門充氏を執行役・経営本部長に迎えました。資本効率や投資判断、ポートフォリオ運営をこれまで以上に厳格かつスピードを持って進めるためには、外部で培われた知見や視点を取り入れることも重要です。外からの視点は、私たちが当たり前と思ってきた前提を問い直し、内側から変わるための触媒になります。

求められるスピード感を実現するための重要な基盤の一つが、AIを正しく使いこなすことです。私は、AIは人の創造性に置き換えられるものではなく、創造性を支え、広げるものだと考えています。ヤマハが蓄積してきた音・音楽に関する知見とAIを組み合わせることで、これまで表現に踏み出せなかった人の参加を後押しし、音楽や音の市場そのものを広げることができるはずです。一方で、生成AIをはじめとする新しい技術の活用に取り残されれば、競争力を失うだけでなく、外部との連携や新たな価値創造の機会も失いかねません。

AIを積極的に活用しながらも、人にしか生み出せない感性や表現をさらに磨いていく。そうした人とAIの協働こそが、ヤマハらしい価値創造を支える重要な力になると考えています。

ブランドとサステナビリティを、価値創造の循環につなげる

ヤマハブランドは、過去から積み重ねてきた信頼と品質の上に成り立っています。その土台はこれからも大切にしなければなりません。一方で、これからのヤマハブランドには、音楽の未来をお客さまやアーティスト、外部パートナーとともに能動的に創っていく情熱と先進性を加えていきたいと考えています。良いものをつくれば自然に伝わるという発想だけでは、変化する市場やお客さまの期待には応えられません。お客さまの期待を超える製品・サービスを生み出し、その価値をより創造的に伝えていくことが、ブランドへの共感と信頼をさらに強くします。

サステナビリティについても、当社の基本的な考え方は、事業を通じて社会価値を生み出し、その結果として企業価値を高めていくことです。特にヤマハらしい取り組みとして、音楽普及を通じた社会価値の創出があります。新興国で展開しているスクールプロジェクトでは、音楽に触れる機会が限られている地域の子どもたちに学びの機会を届けています。また、木材を重要な資源として活用する企業として、責任ある森林資源の活用を目指し、地域社会と一体となって循環型の森林づくりを推進するおとの森活動などにも取り組んでいます。

[画像] 木材加工の現場を視察

木材加工の現場を視察

気候変動への対応、資源循環性の向上など、企業市民として果たすべき責任についても着実に進めていきます。重要なのは、これらを事業とは別の活動としてではなく、ヤマハらしい価値創造の一部として位置付けることです。音・音楽を通じて社会価値を生み出し、それがブランドや顧客接点、事業成長につながり、さらに企業価値を高めていく。この好循環をつくることが、私たちの目指す姿です。

社会価値と企業価値は、別々に追求するものではありません。お客さまの創造性を支え、音楽文化を広げ、環境や社会に対する責任を果たすことが、結果としてヤマハへの信頼を高め、ブランドを強くし、持続的な成長につながっていく。その道筋を、具体的な事業活動と結び付けながら、統合報告書などを活用して継続的に示していきます。

経営者としての約束

私が経営者として大切にしているのは、会社を常に二つの視点で見ることです。一つは、会社を外の視点で客観的に見つめること。もう一つは、会社のことを徹底して自分事として引き受けることです。中計1年目を経て、その想いはさらに強くなりました。変化の大きい時代だからこそ、外部環境を冷静に見極めつつ、何が起きてもまず自分たちの課題として受け止める姿勢が欠かせません。

現場との対話を重ね、実態に学びながら、自分の言葉で方向性を伝えること。そして、その言葉に責任を持つことが、私の経営の軸です。急速な環境変化の中では、方向性を力強く示すリーダーシップと、個々が自律的に動く組織の両立が不可欠です。私は発信力とグリップ力を高めながらも、現場の自律性を損なわない経営を目指しています。現場の創意工夫が最大限発揮される環境をつくることが、変革を継続するための条件だと考えているからです。

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現中計の目標達成は決して容易なものではありません。しかし、だからこそ、事業の再構築、ポートフォリオマネジメント、新規事業への挑戦、組織能力の強化を着実に実行し、結果でお示ししていきます。資本市場からの期待に応えるためにも、短期の実績を積み上げながら、中長期の成長に向けた投資と変革を止めない経営を進めます。

ヤマハには、音・音楽を原点に培ってきた技術、感性、ブランド、世界中のお客さまとの接点、そして何より多様で専門性の高い人材があります。これらの無形資産を、まだ十分に企業価値へ結び付けきれていないという認識もあります。守るべき価値は守りながら、変えるべきことは変えていく。「Rebuild」と「Evolve」をつなぎ、社会価値と企業価値の両方を高めるヤマハの進化に、ぜひご期待ください。

2026年9月
取締役 代表執行役社長
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