ホルンの選び方
マウスピースはどう選ぶ?

ホルンほどさまざまな形態を持つ管楽器はありません。ロータリー式バルブを持つタイプがほとんどですが、代表的なF/B♭フルダブルホルンをとってみても、メーカーによって管体レイアウトはまちまち。さらに、ベルの太さやそれに対応する吹込管の広がり方の違いなどにより、独自の楽器スタイルを生み出しています。現在では、こうした様々なタイプのホルンが奏者自身の好みによって選ばれているため、楽器の仕様から見た一般的なマウスピースの相性について、オーケストラでの使用を前提にお話します。

MSサイズ ― 細いベル

ドイツなどによく見られる細いベルを持つ楽器は、明るめの響きを持っており、マウスピースも明るめの傾向で柔軟性に富んだVカップの、ヤマハのホルン用マウスピースで言えば「31B」などとの組合せが一般的です。ただしこの組合せで注意することは、楽器とマウスピースとの相乗効果によって音を荒くしてしまう場合もあるということです。こうした場合、楽器とは逆の個性を持った「30D4」のようなダブルカップ(深いカップと大きなスロート径)を選ぶことにより、落ち着きのあるホルンらしい響きを得ることも可能です。また、ウィンナホルンはさらに細いベルと細いボアを持つ特殊な構造ですが、独自の進化をたどりながら、ダブルカップのマウスピースが使われるようになりました。

M、MLサイズ ― 中庸なベル

近年、世界中で最も人気が高いのが、巻きが緩やかで中庸なベルサイズを持つ楽器です。音楽表現の幅も広く、いわばオールラウンドなホルン。マウスピースとのマッチングもそれほど神経質ではありません。ドイツのオーケストラに代表されるスピード感のある力強い音を求めるなら、例えばヤマハの「30C4」などのUカップを、やや柔らかい音ならVカップタイプ。さらに豊かな深い音を出したい場合はダブルカップを選ぶことも可能です。

L、LLサイズ ― 太いベル

アメリカを中心に好まれる太いベルを持つ楽器。柔らかく重厚な響きを特長とする太いベルには、そのキャラクターをより生かすために、深いカップと大きなスロート径を持つダブルカップのマウスピースが選ばれています。また、一般に太いベルタイプのホルンは高音域の音程が取りにくいとされていますが、ダブルカップのマウスピースと組合せることで、音程が良好となり、演奏もスムーズになります。

上記は、どのタイプのマウスピースがどういう楽器に合うかという傾向を示したもので、もちろん、これ以外の組み合わせも可能です。実際に店頭などで試してみて、しっくり来るものがあればそれを選ぶとよいでしょう。

楽器メーカーは、管体部品の厚さを薄く調整したり、材質や加工法を吟味したり、さまざまな工夫で豊かな響きを生み出しています。こうしたホルンの特性を充分に発揮すべく開発されたのが、カスタム「30」「31」「32」です。カップ外形は従来のマウスピースよりも薄く均一に仕上げられ、全音域にわたってホルンらしい、豊かな響きが得られるように調整されています。これらは独特の内径形状を持ち、浅いUカップから滑らかに深いVカップを経て、やや太いスロート径に達するもので、非常に柔軟性に富んだ特性を持っています。また、最近は、トランペットなどと同様に極端に重いホルン用マウスピースもありますが、ホルン本来の柔軟性を損なう恐れがあるため使用には注意が必要です。

トランペットとホルンのマウスピースが、それぞれまったく異なったキャラクターを持っていることが、断面図を見るとよくわかります。トランペットのカップはホルンより明らかに浅く、また、板厚の違いやリムの厚さの違いも明白です。このような違いを、楽器のイメージや特長に照らし合わせて整理して考えれば、マウスピースの各部の役割を理解することも容易でしょう。
ここではマウスピースと吹込管の関係に注目してください。トランペットの場合、マウスピースと吹込管の間は、若干の隙間を持たせた構造になっています(図参照)。この種の楽器は、スピード感のある明るい音を得るために、吹込管が比較的細くなっていますが、意図的に隙間をつくることで、適度な音波の反射が起き、奏者にある種の抵抗が伝わるように作られています。そして、この抵抗こそが、奏者の柔軟性と耐久性を助ける役目を果たしているのです。
仮にこの隙間のない、理想的に滑らかな内径を持つトランペットを演奏したとしましょう。大多数の人は、抵抗のない素晴らしい楽器と直感的に思い込むかもしれません。しかし、実際には、少し吹いていると次第に疲れが増し、いつものように吹き続けることができなくなってしまうでしょう。直感的に悪いと印象づけられた隙間による抵抗が、実は奏者にとって有効かつ適度な抵抗として、フレキシビリティと耐久力を助けます。また、この隙間によって特に高音域のアタックがしやすくなります。
現在のピストン式トランペットの場合、この隙間の長さは2ミリメートル程度が良好です。

トランペット用マウスピース

トランペット用マウスピース

フレンチホルンは、トランペットと異なり、マウスピースが直接、吹込管に装着されるため、シャンク細端部の厚さ分だけ、吹込管内径との間に段差が生まれます。一般にこのような構造を持つ楽器は、柔らかな音質を持ち、フレキシビリティに富んでいます。ロータリートランペットのレシーバー部も、フレンチホルン同様の構造を持っており、このことは音楽の歴史的発達と音楽に深く関わっています。 ホルンの場合でも、シャンク部の入り深さを不用意に変更すれば、ピストン式のトランペットと同様に適度な抵抗感を失う結果となります。楽器とマウスピースの接点であるレシーバー部の寸法設定は、細心の注意が必要で、楽器とマウスピースが最良のパフォーマンスを発揮できるよう、巧妙なバランスで設計されなければなりません。異なったメーカーの組み合わせの場合、それぞれの能力を打ち消してしまうケースもあるので、マウスピースの選定には愛用の楽器での試奏が不可欠となります。

フレンチホルン用マウスピース

フレンチホルン用マウスピース

ホルンのマウスピースのシャンク(マウスパイプに挿し込む細い部分)にはサイズが2種類あります。ヨーロッパ(ドイツ)圏は3/100(100分の3)、北米は5/100。3/100というのは100ミリ進んで3ミリ直径が細くなるという意味です。この先細りのシャンクとマウスパイプが合ってないと、息がもれたり、ガタガタしたりして演奏に集中できません。
もちろん楽器自体にマウスピースは付属していますが、体に近い物だけに自分の好みで選びたいという人は少なくありません。そんな時に3/100と5/100の違いが問題となっていました。そこでヤマハでは3/100にも5/100にも適合するマウスパイプを開発。世界中のマウスピースから自由に選ぶことができ、演奏の楽しみを広げています。

マウスピースとマウスパイプの図

マウスピースとマウスパイプの図