トランペットのマメ知識
トランペットの名曲-協奏曲編 I

バルブトランペット発明以前のトランペットは、メロディー楽器としては極めて不完全な楽器でした。しかしバロックや古典主義時代にもトランペットをソロ楽器とした名曲がいくつか作曲されています。ここではバッハとハイドンの協奏曲を紹介しましょう。

ブランデンブルク辺境伯に献呈された6つの協奏曲の2曲目。トランペット、リコーダー、オーボエ、バイオリンの4つの高音楽器がソロを担う華やかな曲です。唇と呼吸でしか音程を調節することができないナチュラルトランペットでは、高音域でしか旋律らしい旋律を吹くことができませんでした。そのため当時のトランペット奏者には、クラリーノ奏法と呼ばれる高音域での超絶技巧的な名人芸が求められました。この曲でも両端楽章のトランペットソロで、現代楽器では味わえない、バロックトランペット特有の輝かしい響きを堪能することができます。

じつはこの曲はナチュラルトランペットのために書かれた曲ではありません。ハイドンの時代にはバロック時代の名人芸的奏法は衰退し、トランペット協奏曲の創作自体が減ってしまいました。そんなときに現れたのがウィーンの宮廷奏者でヨーロッパ中に名声を確立したアントン・ヴァイディンガーでした。彼は半音階の吹奏が可能な有鍵のトランペットを開発し、当時の優れた作曲家ハイドンやフンメルに協奏曲の作曲を依頼しました。ハイドンのこの曲は有鍵トランペットの特性を活かして半音階のフレーズや、自由な転調を駆使して書かれています。同じくヴァイディンガーの依頼で書かれたフンメルの協奏曲とともに古典派を代表するトランペット協奏曲です。

ヨーゼフ・ハイドン

ヨーゼフ・ハイドン(1732~1809)