トランペットのマメ知識
進化の過程に生まれたあだ花、鍵式トランペット

金管楽器の中でも一際華やかなトランペットは、勇壮なファンファーレを吹くこともあれば、甘いカンタービレで聴き手を惹き付けることができる、本当にカッコいい楽器です。
しかしこのトランペット、19世紀の中頃まではバルブやピストンなどの装置がなく、奏者は唇の調節だけを頼りに音を出すしか術がありませんでした。そのため出せる音にも限りがあり、半音階をふんだんに使ったエレガントなフレーズなどは吹けず、ドミソだけの単純な音型しかきちんと演奏できませんでした。
しかし、そうした限界を超えようとする人はいつの世にもいるものです。古典派時代のウィーンで活躍したアントン・ヴァイディンガーというトランペット奏者もその一人。彼は管に鍵(キー)を取り付けることで、半音階の演奏を可能にした楽器を考案しました。ヴァイディンガーはこの新しいトランペットのための協奏曲を何人かの作曲家に依頼。ヨーゼフ・ハイドンやフンメルの協奏曲は彼のために書かれたものです。ヴァイディンガーの鍵式トランペットは、より機能的なバルブ式トランペットが登場した19世紀半ば頃には廃れてしまいましたが、古典派の二大トランペット協奏曲が生まれたことは、進取の気性に富む彼のおかげでもあるといえましょう。