マリンバのしくみ
音板にもしくみがある

マリンバは、木の音板で音程をつくり、金属の共鳴パイプで音を豊かにする楽器です。
音板から発する音の高さを調整する方法は、基本的には、2つあります。まず音板のサイズを整えること。低い音になるほど音板は長く、幅も広くなります。そしてもうひとつの方法は、裏側を削ること。音板は、削る位置や削る量によって音程や音色が変わるのです。基本的には、音板の中央部を削るほど音は低くなります。

音板の裏側を削ることの意味は、ただ単にドならドの音が鳴るように整えるというだけではありません。倍音の調律も絡んでいるからです。
音板は、マレットでたたかれて音を発するとき、一度にいろいろな振動をしています。図はそのようすを示した模式図で、各振動においてもっとも動く点を腹、振動の支点になる動かない位置を節と呼びます。この中で中央部が大きく上下する1次モードの振動が、基音の振動となります。
基音とは、音程の基本となる音で、楽譜に記されている音、つまりドならドの音のことです。音板はこの基音の振動のほかに、より波の細かい振動をいくつもしています。それが倍音の振動です。
音板の調律に際しては、この倍音についても、きちんと整える必要があるのです。

音板打楽器の振動モード

音板打楽器の振動モード

倍音というのは、基音の上で同時に鳴っている音のことで、基音の振動数に対して整数倍の振動数をもっています。倍音は、同時にいくつも鳴って、音色をつくる要素のひとつになるものです。コンサートマリンバの低音域では、最初の倍音が基音の周波数の4倍、次の倍音が基音の10倍となるように調律しています。基音がドなら、最初の倍音は2オクターブ上のド、次の倍音はそれより1オクターブと少し上のミになります。試しに、ドの音板と2番目の倍音ミの音板を交互に打って聴くと、ドの音の中にミの音が響いているのが聴き取りやすいはずです。

基音がドの場合

基音がドの場合

音板の音程は、裏側を削ると音が低くなることを利用して調律していきます。ただし、削り過ぎると元に戻せなくなってしまうので、注意が必要です。性質上、両端の節より内側の腹をえぐると音程が下がります。つまり、基音の音を下げたいと思ったら音板の中央にある腹の部分が凹むように削ればよいわけです。

基音の音を下げたい場合

基音の音を下げたい場合

基音の場合は、節より内側であればどこを削っても音は下がります。しかしながら倍音の調律を考慮した場合、削り方は簡単ではありません。倍音にかかわる振動モードによって、腹、節の位置は変わってくるからです。ある振動モードに合わせて削った結果がほかの振動モードにも影響を与えることもあります。つまり、ひとつの倍音を動かすと、ほかの倍音も基音も変化してしまうのです。
1枚の音板で基音と4倍音と10倍音の3つの音を全部合わせるには、熟練の技が必要になります。調律工程はまさにパズルのようなものなのです。

マリンバの音板には木を使いますが、木は均質な材料ではなく、木目が入っているものです。この入り方によって、1枚の板のなかでも、音の高さにむらができるのです。そこで、音が高く出る部分と低く出る部分で削り方を変えて、1枚の音板の中で1つの音程が出るようにそろえます。
木目は全部ちがいますから、音板の裏側は、どれ1つとして同じ削り方をしているものはないのです。

できあがった音板は、どこをたたいても、基音は同じように出ます。つまり音程は同じなわけです。けれども、たたく位置によって音色は変わります。位置によって出やすい倍音が変わり、基音と4倍音と10倍音のバランスが変わるからです。そのためマリンバは、変化に富んだ音色を表現できるのです。

音板はたたく位置で音色が変わる(左)
音板はたたく位置で音色が変わる(左から2番目)
音板はたたく位置で音色が変わる(右から2番目)
音板はたたく位置で音色が変わる(右)

※音が聞き取りやすいように、共鳴パイプを外して録音しています。