クラリネットのマメ知識
クラリネットの名曲-室内楽編

協奏曲と同様に、この作品も友人のアントン・シュタードラーのために書かれました。華やかな中にも、どこか憂愁の漂うところが、非常にモーツァルト的といえる音楽です。特に第2楽章は深い陰影をもつ響きがたいへん印象的ではないでしょうか。この作品もバセットクラリネットのために書かれたのではないかと推測されており、最近では通常のクラリネットではなく、復元されたバセットクラリネットで演奏されるケースも増えています。

ブラームスがクラリネットを用いた室内楽はこの5重奏曲のほかに、二つのソナタ、そしてピアノとチェロとの3重奏曲がありますが、この4曲はすべて、マイニンゲン宮廷オーケストラのクラリネット奏者、ミュールフェルトのために書かれました。明らかにモーツァルトの作品を意識して作られたこの5重奏曲は、晩年のブラームスの心境を彷彿とさせるような、深い哀愁と悲哀が込められています。むせび泣くような弦楽器の後を受けて、密やかにクラリネットが歌い始める第1楽章の冒頭が始まったとたんに、聴き手はその独特な世界に引き込まれてしまうでしょう。

ルートヴィヒ・ミヒャレークのデッサン リヒャルト・ミュールフェルト(1856~1913)

ルートヴィヒ・ミヒャレークのデッサン リヒャルト・ミュールフェルト(1856~1913)