クラリネットのできるまで
自然の恵みと人の技から生まれる楽器

グラナディラはとても硬い木で比重は1.2~1.3。水に沈みます。あまりの硬さのために金属を削る時と同じ方法を使います。
見た目は軽そうですが、この長さ数十センチの幹だけでも30kg以上はあります。アフリカのタンザニアやモザンビーク辺りのサバンナに生え、80年から100年経たないと枝が楽器を作れる太さになりません。

草原の真ん中で大空の下、枝を伸ばしている木だとイメージしてください。現地では8割が民芸品の彫り物に使われていて、残りの2割を分けてもらってクラリネットやオーボエの素材にしています。

グラナディラの幹の断面

グラナディラの幹の断面

キイは、銅とニッケルを混ぜた合金である洋白を使っています。配合にもいろいろあって、金属として安定し、加工した時に割れないようによく考えられています。写真は組立の工程です。

クラリネットを組み立てている現場。机には細かいパーツや道具がたくさん並ぶ

クラリネットを組み立てている現場。机には細かいパーツや道具がたくさん並ぶ

管体にキイポストを付けた状態から、キイをどんどん組み付けていきます。キイのパーツは全部で100くらい。

キイポストが付いた管体、端にはコルクが埋め込まれている

キイポストが付いた管体、端にはコルクが埋め込まれている

管体もキイも1つ1つ微妙に違いがあるので、ぴったり合うように調整するのはとても大変です。管体とキイの組みに0.1ミリでもすき間があると、ガタガタになってしまいます。キイを1つ1つ削りながら完全に合わせていきます。

キイを細いドライバーで組み付け中

キイを細いドライバーで組み付け中

楽器の組立には、1本だいたい3時間ぐらいかかります。微妙な組み付けの調整はキイと管体との位置関係だけではなく、タンポ(ふた)と管体との関係もあります。

 

タンポ部分の断面図

タンポ部分の断面図

タンポの付け方は、まず、黒い接着剤を火であぶって溶かし、タンポに塗ります。次に、タンポ皿を火であぶり、タンポとタンポ皿をくっつけます。パーツができたら、それを管体に組み付けて微調整していきます。
接着剤はシェラックという名前です。ラック虫から抽出した茶色いトロッとした液と、松脂(まつやに)を混ぜたものです。
ラック虫は、インドや東南アジアに生息する虫で、自分の体を包んだり、産卵のために殻をつくったりする際に、樹木から養分を吸い上げて樹脂状のものを分泌します。ラック虫の分泌物は昔から家具の塗装材料に使われ、今も医薬品や食品、化粧品に使われていて、天然で無害です。

各机に、接着剤をあぶるための青い炎が上る

各机に、接着剤をあぶるための青い炎が上る

爪楊枝の先の紙ですき間がないかチェック

爪楊枝の先の紙ですき間がないかチェック

爪楊枝は、先に紙を付けて、その紙でタンポにすき間がないかチェックするのに使います。ちょうど合っていれば挟んだ時にぶら下がりますが、どちらかに傾いていると抵抗がなくスルッと抜けてしまうところがあります。
タンポが完全に合ってないと、管体の中の圧力が動いて音が出ているので、もしタンポにすき間があって逃げ道があると、楽器の中の波が立たなくなり、音の鳴り具合が変わってしまいます。