ファゴットのしくみ
いろいろな役割を果たすボーカル

ファゴットの音が生まれる場所は、オーボエと同じで、ダブルリードの部分。2枚のリードが高速で開いたり閉じたりして音波が発生します。ただ、オーボエではリード自体に短い金属管が付いていますが、ファゴットのリードは上から下まで葦(あし)でできていて、長い金属管であるボーカルに入れて吹きます。ボーカルといっても、vocal ではありません。bocalと書いて、吹き口のことを指します。管楽器は何といっても口元に近い部分が重要で、ボーカルは、リードと並んで、特に大切なパーツのひとつです。

ほとんどの奏者は、ボーカルを複数本持っているものです。ボーカルによって、吹いた感じも変わりますし、高い音やピアニッシモの小さな音が出やすくなったり、音色もやわらかくなったりするからです。なかには曲に合わせて使い分けたいという理由で数十本も持っている人もいます。
ではボーカルによる音色の違いはどこから生まれるのかというと、何より重要なのは内側の太くなり加減、いわゆるテーパーの付き方。ボーカルは、リードが入る側の内径約4ミリから楽器側の内径約10ミリまで、だんだん広がっていく円すい管ですが、その広がり方によってさまざまな違いが生まれます。ファゴットは高い音を吹くのが難しいので、高音の出るボーカルの人気が高いようです。

楽器を1つ買うと、形は同じで長さの違う2本のボーカルが付いてきます。普通は1番と2番の組合せで、1番が短くて2番が長いもの。ヨーロッパでは0番と1番の場合もあり、0番は1番より短いものです。00番は0番よりもっと短く、逆に3番、4番と数字が大きくなると長くなります。
長さの違う複数のボーカルを用意するのは、チューニング(音程の微調整)のためです。クラリネットなら樽を抜く、フルートなら頭部管を抜くなどして管の長さを変えて調整しますが、ファゴットの場合は構造が複雑なこともあって抜ける所がほとんどありません。そこで楽器にはめるボーカルの長さを変えてチューニングしているのです。例えば、暑い時は楽器のピッチが高くなるので、長いボーカルを使い、寒い時はピッチが下がるので短いボーカルを使います。

上が1番、下が全長の長い2番のボーカル

上が1番、下が全長の長い2番のボーカル

楽器を落としてしまうとボーカルが曲がってしまうことがあります。
先端(ティップ)の位置が数ミリずれてしまった程度の曲がりなら、ほぼ直りますが、角が入ったように折れ曲がると、完全に直すのはほとんど無理でしょう。形だけは元の雰囲気に戻すことはできても、必ず内径側に歪が出てしまいます。