フルートのマメ知識
フルートの名曲-室内楽編

バッハの室内楽作品で用いられる管楽器はフルートしかありません。その中でも、フルートと通奏低音のためのソナタとフルートとオブリガートチェンバロのためのソナタは、フルート奏者にとって古典中の古典と言うべきものでしょう。ここで挙げたロ短調のソナタは、フルートとチェンバロが緊密な対話を繰り広げる名作です。バッハ時代のフルートにとって最もよく響く短調で書かれているため、バッハの職人的な作曲技術と相俟って、フルートの特質が明確に発揮されているのではないでしょうか。

この作品は1777年、ドイツのマンハイムに滞在していたモーツァルトが、フルート愛好家の医師ド・ジャンから依頼されて作曲した四重奏曲です。フルートを含む室内楽のなかで、おそらく最も有名な作品の一つでしょう。モーツァルトらしい非常に美しい旋律と、楽器の特質を最大限に発揮させる技巧的なパッセージが見事に両立しているのです。バイオリン、ビオラ、チェロも主役のフルートを引き立てつつ、時には積極的な対話をしかけていきます。ピツィカートの伴奏に乗って、フルートが密やかな雰囲気の旋律を朗々と奏でるロ短調の第2楽章もたいへん魅力的です。

ドビュッシーは、晩年にあたる1910年代に、さまざまな楽器の組み合わせによるソナタを6曲作曲する計画を持っていました。1918年に彼が亡くなってしまったため、この計画は3曲で終わってしまいましたが、そのうちの1曲がこのソナタです。和声語法の革新者だったドビュッシーとしては比較的保守的な様式で書かれているようですが、まったくタイプの異なる3つの楽器が織りなす響きには独特なものがあります。6つの主題が次々に現れては消えてゆく第1楽章などは、特に印象的な楽章ではないでしょうか。