パイプオルガンの成り立ち
パイプオルガン誕生ストーリー

パイプオルガンの誕生は紀元前のギリシャ時代にさかのぼります。その頃、北アフリカで発明された水圧オルガン「ヒュドラウリス」が、パイプオルガンの原型だと考えられています。

一説によると、もともと水圧オルガンは楽器をつくる目的でつくられたのではなく、一定の圧力がかかっている空気を送り出すための装置として発明されたとのこと。その装置に本当に一定の圧力がかかっているかを示すために、パイプを付けて空気を送るデモンストレーションを行ったところ、楽器のように音を奏でたと言われています。

水圧オルガンの想像図

水圧オルガンの想像図

水圧オルガンのしくみは、お風呂に洗面器を引っくり返して沈めた状態を考えるとわかりやすいでしょう。洗面器の中には空気が入っているので、浮き上がる力(浮力)が働きます。その時、洗面器の底に穴を開けると、水圧に押されてぼこぼこ空気が出てきます。これにリコーダーのようなパイプを付けて空気を通し、音を出すのです。
水の圧力が空気に一定にかかっているため、出てくる空気も安定しています。また圧力が一定だと、安定した高さと音量の音が、長く出続けることになります。ちょうど、管楽器をロングトーンで吹いているようなものですね。

水圧オルガンの概念図

水圧オルガンの概念図

反対に、圧力が安定せず波打っていると、音も同じように変化したり途切れたりします。

音が出続けるのは、洗面器の中の空気が全部なくなるまでではなく、お風呂の水位と洗面器の中の水位が同じになるまでの間です。ですから、空気をどんどん入れて空気の流れを止めないようにすれば、音はずっと出続けることになります。
このとき、パイプに直接空気を送り込むと、「ハッハッハッ」とムラができて音が継続できないのですが、この仕組みなら安定的に「ハーッ」と空気が送れ、継続音を出すことができます。
ただ、実際には桶の中にある空気の量によって圧力が変化し、多少のムラは出てしまいます。これが水圧オルガンの欠点といえるところです。

その後、紀元前にエジプトで生まれた「ふいご」という風を送る装置が使われるようになります。
ふいご全体は楔形(くさびがた)をしています。写真は模型ですが、本来はふいごの上側の面に重りが乗っている蛇腹(じゃばら)のような形をしています。上面を斜めに持ち上げてから離すと、重りの重さで静かに降りていき、必要な量の風を送り出します。

ふいごの小型模型

ふいごの小型模型

パイプオルガンについているふいごは、その規模により、大きさも数も違いますが、必ず2つ以上あります。それは、ふいごが全部閉じてしまうとオルガンの音が出なくなってしまうので、ひとつが降りるまでに別のふいごを上げ、次々と引き継いでいく仕組みになっているからです。
以前は演奏者とは別に、裏方としてふいご職人がいて、演奏中はずっと、ふいごが落ちたらレバーやロープなどで引き上げる作業を続けていました。大きなオルガンの場合、裏にふいごが4つも5つも備えられています。

現在、新たにパイプオルガンをつくる場合は、電気のモーターを回してふいごへ風を送り込み、常にふいごを膨らませておく方式が主流です。つまり、私たちには見えないところで、大きな送風機が回っているわけです。見えないところに置くのは、送風機の回転音がかなり大きいから。ひとつの送風機で複数のふいごに風を送る場合が多いので、送風機にはパワーが要るのです。そのためうるさくないように別の部屋を用意し、周りを吸音クッションで囲い、部屋自体も防音壁にして設置しています。

裏方の仕事には、体力と忍耐力が必要だった

裏方の仕事には、体力と忍耐力が必要だった

ふいごは木製で、大きな風呂桶のようです。白い部分は羊の皮で、上にはレンガの重りが載せてあります。

現代のふいご、常に風が送り込まれている

現代のふいご、常に風が送り込まれている

浮き構造になっている大きな送風機

浮き構造になっている大きな送風機

現代にも残る人力タイプ

現代でも、あえて人力で送風できるオルガンを新しく作ることがあります。これは、モーターを使うとどうしても空気に渦のような乱れた流れが生じ、パイプを通過する際に音に影響が出るからです。昔ながらの方法だと、空気が一方向に移動するだけなので、音がいいのです。

ローマ宮廷から中世の教会へ

紀元前の水圧くオルガンの時代より、オルガンは、ローマの宮廷や円形劇場で、猛獣闘技などの伴奏音楽として演奏されていました。大きな音が出るので、興奮をあおる効果音とされたのでしょう。このときすでに、かなりの音階が揃っていたようです。
757年に、ビザンティン帝国のコンスタンティヌス帝が、フランク王国のピピン王へオルガンを贈ったのをきっかけに、西ヨーロッパやキリスト教世界に広まっていきます。この頃から教会の礼拝堂に設置され、単旋律のグレゴリウス聖歌を弾くのに使われていたのではないかと考えられます。
やがて同時に2、3音を鳴らして和声音楽にするため、指で弾ける鍵盤が考え出されます。当初は鍵盤の幅が8センチもあって重かったので、げんこつで押していたようです。また音域も現在より狭かったです。
この頃の演奏は、長く伸ばした音をゆっくりと演奏する程度でしたが、それでも巨大な音が教会中に響いて荘厳な雰囲気を醸し出していたと思われます。
その後、鍵盤と、パイプに風を送る弁とをつなぐアクション機構が改良され、音色のバリエーションも増えて、ルネッサンス期にはほぼ現在のかたちになりました。いわばパイプオルガンは、鍵盤楽器の元祖なのです。