ティンパニのマメ知識
ティンパニが活躍する管弦楽曲

バロック時代の作曲家のなかで、バッハほどティンパニのパートに創意工夫を盛り込んだ人はいません。キリストの生誕という、キリスト教徒にとって最も晴れがましい祝祭を記念するために書かれた「クリスマス・オラトリオ」は、バッハのティンパニパートの中でも最も輝かしいものの一つに数えられるでしょう。
オラトリオ全体を開始する冒頭の合唱曲は、キリスト生誕を喜ぶ歓喜の歌声を聴くことができますが、その序奏では、その喜びの様子がティンパニによって暗示されるのです。

交響曲第9番「合唱」の原版譜、スコア

交響曲第9番「合唱」の原版譜、スコア

古典派時代の作曲家では、ベートーヴェンがティンパニを巧みに使用していることで有名です。彼の工夫は、2つの楽器を用いながらも、その調律に多様な音程を指定することで、驚くほどの効果を挙げること。その代表的な例が、交響曲第9番の第2楽章スケルツォでしょう。
この楽章で2つのティンパニは、オクターブのヘ音に調律され、ティンパニがソロの役割を果たします。この方法は前作の交響曲第8番の第4楽章でも使用されていましたが、交響曲第9 番では、主要主題の動機を激しく連打し、積極的に音楽に絡んでいくのです。彼のティンパニの使用法は、あのオーケストレーションの達人ベルリオーズさえも 惜しみない賛辞を送ったほど、優れたものでした。

ベートーヴェンのティンパニの用法を褒め称えたベルリオーズも、もちろんティンパニに多くの工夫を加えました。絢爛豪華なオーケストレーションをもつことでも有名な「幻想交響曲」では、第3楽章「野辺の風景」の最後で遠方から聞こえる雷の響きを模倣していますが、ここでベルリオーズは4台のティンパニを使って、雷を巧みに表現しているのです。この作品では、他にもバチの硬さの種類を細かく指定するなど、演奏法についてもはっきりとスコアに書き込まれています。

エクトール・ベルリオーズ

エクトール・ベルリオーズ

巨大な楽器編成で巨大な交響曲を残したマーラーも、驚くべき工夫をティンパニに与えています。ここで挙げた第2番は、ティンパニ奏者を3人使っていることで有名です。
この作品に見られる顕著な特徴として、他に、Des(変ニ)という非常に低い音が使われている点が挙げられるでしょう。そのほかにも、第4番と 第8番「千人の交響曲」において1つのティンパニを2本のばちで叩いて力強い音を出すよう指示したり、第1番「巨人」では、一人の奏者が演奏している間にもう一人が半音下に調律してグリッサンドの効果を要求したりしています。このようなマーラーの創意工夫は、ペダル式ではなく、旧来からのネジ式のティンパニを想定して行われていることに驚かされます。