ティンパニのマメ知識
ティンパニが活躍する管弦楽曲

あまり印象にないかもしれませんが、バッハの作曲の中にはティンパニが重要な役割を果たすものがいくつかあります。キリストの生誕という、キリスト教徒にとって最も晴れがましい祝祭を記念するために書かれた「クリスマス・オラトリオ」は、バッハのティンパニパートの中でも最も輝かしいものの一つに数えられるでしょう。
オラトリオ全体を開始する冒頭の合唱曲は、キリスト生誕を喜ぶ歓喜の歌声を聴くことができますが、その序奏では、その喜びの様子がティンパニによって暗示されるのです。
この曲はドイツ語圏を中心にヨーロッパでクリスマス前になると必ず演奏される曲で、このティンパニのソロを聞くだけでクリスマス前のわくわくする雰囲気を思い出す方もいらっしゃるそうです。

古典派時代の作曲家では、ベートーヴェンがティンパニを巧みに使用していることで有名です。まず、それまで完全4度、完全5度の間隔に固定されていたティンパニの音程に柔軟に変化を加えました。交響曲第7番では短6度(A-f)が登場し、また交響曲第8番とこの第9番でオクターブの音程が登場します。特にこの交響曲第9番の2楽章のティンパニのソロは印象的かつ効果的です。その他にも、ティンパニのソロで曲が始まり、その動機を作るバイオリンコンチェルト等、彼のティンパニの使用法は革新的で、その後オーケストレーションの達人ベルリオーズさえも 惜しみない賛辞を送ったほど、優れたものでした。

交響曲第9番「合唱付き」の原版譜、スコア

交響曲第9番「合唱付き」の原版譜、スコア

ベートーヴェンのティンパニの用法を褒め称えたベルリオーズも、もちろんティンパニに多くの工夫を加えました。絢爛豪華なオーケストレーションをもつことでも有名な「幻想交響曲」では、第3楽章「野辺の風景」の最後で遠方から聞こえる雷の響きを模倣していますが、ここでベルリオーズは4台のティンパニを使って、雷を巧みに表現しているのです。その他、ベルリオーズは作品中に8セットのティンパニを登場させたり、バチの種類を楽譜上で指定するなど、ティンパニの使用法に革新を与えました。

エクトール・ベルリオーズ

エクトール・ベルリオーズ

巨大な楽器編成で巨大な交響曲を残したマーラーも、驚くべき工夫をティンパニに与えています。ここで挙げた第2番は、ティンパニ奏者を3人使っていることで有名です。
その他、この作品に見られる特徴としてDes(変ニ)という非常に低い音が使われている点が挙げられるでしょう。指揮者としてヨーロッパ中で活躍しオーケストラ楽器を良く知っていたマーラーにはその他にも、画期的なティンパニの活用法が見られ、ティンパニのソロで始まる楽章も交響曲の中に少なくありません。