ティンパニのできるまで
ケトル完成までの道のり

純銅です。他にもFRP(Fiberglass Reinforced Plastic/ガラス繊維強化プラスティック)やアルミニウム製のケトルもあります。銅には伸びやすく形を変えやすい性質があり、音も深く響くので、ティンパニのケトルに昔から使われてきました。ただ、ケトルのつくり方は昔と今では様変わりしています。

まずは厚さ数ミリの平らな銅板を、つくるケトルのサイズに合わせて丸くカットします。

銅板を丸くカット。

銅板を丸くカット。

その際、中央に穴が開く

その際、中央に穴が開く

続いて、へら絞りの工程です。大きな機械で平らな銅板と丸い金型を縦方向に回転させながら、ローラーで銅板を金型に押し当てます。これによりだんだん丸みを帯びてきます。

銅板を機械にセット

銅板を機械にセット

少し丸くなってきた様子

少し丸くなってきた様子

途中まで絞ったら機械から外し、焼鈍(しょうどん)をします。銅は加工硬化するので、こうしないと表面にしわが寄ったり割れてきたりしてしまうのです。

途中まで絞った形はUFOみたい!

途中まで絞った形はUFOみたい!

銅は柔らかい素材ですが、加工していくと変質して硬くなります。それを加工硬化と呼びます。例えば、針金を何度も曲げたり伸ばしたりすると、ある時ぽきっと折れますよね。加工を続けて材料に負荷が掛かると、加工硬化が起きるのです。そのため、加工時には、火で柔らかくする必要があります。

ほぼ完成形、これからエッジを直角に立てる

ほぼ完成形、これからエッジを直角に立てる

形ができたらまた焼鈍して、金属が戻ろうとする力を逃がして安定させます。焼くと空気中の酸素と反応して表面に酸化被膜ができ、色がまだらになりますが、表面を研磨すればきれいになります。この後、バフでなめらかに磨き上げます。

内側を研磨中

内側を研磨中

サンドペーパーを替えながら外側も研磨

サンドペーパーを替えながら外側も研磨

いよいよ研磨です。ティンパニは演奏の際、ケトルの中の空気も振動します。ケトルの内面を磨いてなめらかにすることで、濁りのない、立ち上がりのよい音を実現します。

上からチェーンで吊って洗浄

上からチェーンで吊って洗浄

磨いた後は洗浄です。丸底に開いた穴に治具を引っ掛けて上から吊るし、水槽に浸けながら洗っていきます。中の空気を抜くようにして上下に細かく動かして洗浄します。

そして表面の水分を拭き取って自然乾燥させます。その後は塗装。ホコリ厳禁の空間で、クリア塗装をします。これで光沢のあるケトルの完成です。

塗装を終えた銅製ケトル

塗装を終えた銅製ケトル

この銅製ケトルの全面をハンマーで打って硬くした、ハンマードケトルもあります。

材質を硬くすることで、音程感をさらに明確にすることができます。

ハンマーで表面を打って硬く

ハンマーで表面を打って硬く

最後は組み立てです。ベースの裏側、つまり床に一番近くなる部分をひっくり返して、棒状のテンションロッドを中央の丸い金具から放射線状に付けていきます。ここが音程を変える役割を担う心臓部に当たります。

テンションロッドの角度を調整中

テンションロッドの角度を調整中

テンションロッドは、ヘッドの張り具合を変えるチューニングロッドと連動しています。テンションロッドの角度をきつくするとヘッドが引っ張られて音域の上の方の音がよく出るようになりますが、ペダルは重たくなります。それで音と操作性を考えて角度を微調整しています。

黒い棒がテンションロッド

黒い棒がテンションロッド

中央の銀色の棒がチューニングボルト

中央の銀色の棒がチューニングボルト

また、8本全てのテンションロッドのバランスをきっちりそろえ、ヘッドの張り具合が均一になるようにします。1本でもずれていると、ペダルを踏んだときスムーズに動かず、違和感が生じてしまうからです。
裏が終わったら上下を戻して、チューニングインジケーターにつながる線を接続します。自転車のブレーキと同じく中にワイヤーが通っていて、ペダルを踏んだ分ワイヤーが引っ張られ、目盛が動きます。
内側にケトルをセットし、ヘッドを張ればひとまず完成です。

最後は肝心のチューニング。チューナーを片手にヘッドのチューニングボルト付近を順番に叩いていき、どこも同じ音程になるように調整します。

念入りにチューニング中

念入りにチューニング中