チェレスタの成り立ち
チェレスタ誕生ストーリー
見た目はオルガンだけど、音は鉄琴のよう
チェレスタは今から130年ほど前の1886年に、フランスはパリのオルガン製作者、オーギュスト・ミュステルが考案した楽器です。鍵盤があり、大きさも形もオルガンのようですが、音はまったく異なり、小さなかわいらしい音なのに遠くまでよく通ります。
チェレスタの内側には、鉄琴に似た金属製の音板が音階的に並んでいます。それをハンマーで叩いて音を出すという、鍵盤アクションを持つ打楽器なのです。
モーツアルト『きらきら星変奏曲』
チャイコフスキーのバレエ音楽から世界へ
この愛らしい音に魅了された1人の作曲家が、チェレスタを世界中に広める立役者になります。それは、ピョートル・チャイコフスキー(1840~1893)です。
チャイコフスキーは1891年、アメリカへ演奏旅行に行く前にパリの街を歩いていて、この音を耳にしました。彼自身はすぐアメリカに行かなくてはいけなかったので、母国ロシアにいる楽譜出版者で親友のピョートル・ユルゲンソンに手紙を送り、チェレスタを1200フラン相当で買ってほしいと頼みました。手紙には「だれにもこのチェレスタを見せないでほしい、とくにリムスキー=コルサコフやグラズノフに見せてはならない。これは絶対に私が最初に使うから」と書かれていたそうです。
そして1892年、バレエ音楽『くるみ割り人形」の「こんぺい糖の踊り」でチェレスタを用いました。このバレエが興行的に大成功し、世界各国のバレエ団が演じたがったため、チェレスタも世界中のオーケストラやオペラハウスに買い求められるようになったのです。

ミュステル社は凱旋門の近くにありましたが、30年ほど前にチェレスタの販売を終了し、今は電器店になっています。
印象派や後期ロマン派の作曲家も好んだ
その後もチェレスタは、モーリス・ラヴェル(1875~1937)やドビュッシー(1862~1918)をはじめとする印象派の作曲家や、後期ロマン派のリヒャルト・シュトラウス、グスタフ・マーラーなどに好んで用いられたほか、現代音楽家にもよく使われ、楽器として定着していきました。
ちなみに、音の魔術師と呼ばれるラヴェルの『ボレロ』では、チェレスタはホルンとピッコロ2本と合わせて演奏されました。神秘的で、とても魅力的な演奏になっています。