車載オーディオ開発PROJECT

[画像] 車載オーディオ開発PROJECT

一音一音にこだわり抜く、ヤマハの技術。
その価値は、カーオーディオの常識を
根底から覆す。

車載オーディオ開発プロジェクト

ヤマハのビジネスに「第三の柱」を。半導体やモジュールの開発を行っていた電子デバイス事業部で、新たな価値を創出する一大プロジェクトが発足した。そのテーマは、車載オーディオの開発。ヤマハが蓄積してきた音の技術を最大限に駆使して、新たな市場に一石を投じる。かつてないチャレンジが始まった。

Project Member

三ツ口 昌吾
(スピーカー設計・開発担当)

電子デバイス事業部 技術部 スピーカー
開発グループ
2014年キャリア入社/芸術工学府卒

辻川 聡一
(アンプ設計・開発担当)

電子デバイス事業部 技術部 A2開発グループ
2007年入社/工学部卒

姫野 信晃
(チューニングシステム開発担当)

電子デバイス事業部 CX推進部 CX開発グループ
2017年キャリア入社/芸術工学部卒

中島 崇量
(サウンドマイスター)

電子デバイス事業部 CX推進部 CX開発グループ
2019年キャリア入社/基礎工学部卒

ヤマハに、第三の柱を。

世界が注目する市場で、第一歩を踏み出す。

ヤマハが誇る、世界トップレベルの音響技術。その凄さを知らない者はいないと言っていい。ただし、車載オーディオは未知の市場。ここで事業を拡大していくためには、挑戦者として存在価値を示していくことが必要不可欠であった。そして、それは、実績をつくることでしか証明することはできない。アンプ設計・開発のリーダーを務めた辻川は、その契機をこう話す。
「本プロジェクトのファーストステップとなったのが、中国の有力自動車メーカーのプロジェクトです。次世代EVプラットフォームに、当社の車載オーディオを提案し、採用に至りました。新たな機能・要求が多く、かつ開発期間も短い。きわめて厳しいプロジェクトでしたが、中国は自動車業界にとって最重要ともいえるマーケットです。ここを契機に、さらなる飛躍を遂げていこうとチームを鼓舞していきました」
車載オーディオの開発は、サウンドマイスターによって決められた「音の目標値」をもとに、スピーカーやアンプなどの各部品が設計・開発され、最終的なチューニングを行っていくというかたちで進む。サウンドデザインを担当した中島は、自身が掲げた「理想の音」をこう説明する。
「一音一音にこだわり抜き、それぞれの楽器にとって最高の音を再現し、アーティストの想いまでも伝わってくる……。ヤマハにしかできない価値を創造したいと思っていました」

貫き続けた、ヤマハのこだわり。

自動車は、さまざまな部品の集合体だ。音響に限らず、それらすべての開発において直面する課題が「軽量化」である。ヤマハが手がける製品にはなかった障壁は、開発メンバーの頭を悩ませ続けたそうだ。スピーカーの設計・開発においても、並々ならぬ苦労があったと三ツ口は話す。
「このプロジェクトは部門の壁を超えたクロスファンクションチームを組織して、推進されました。各々の部品に割り当てられた重量をきっちり守る。時にはそれぞれのチーム間で重量の綱引きになって、揉めに揉めたこともあったほどです(笑)。それだけでも十分に大変でしたが、より大きな困難であったのが、自動車という特殊な空間・環境への対応でした。真夏にクルマに乗ろうとした時に、あまりの暑さに『うわっ……』となる。そんな経験が誰にでもあると思います。そうした高温下にさらされて、スピーカーの部品が変質してしまうことだってあるわけです。どんな環境においても、変わらずに『ヤマハの音』を再現できる。品質面には、並々ならぬこだわりを貫きましたね」 ヤマハ・クオリティーの追求。それは、プロジェクトメンバーの誰もが抱いていた共通の志だった。辻川は、顧客とのコミュニケーションにおいて、あるポイントを大事にしていたという。
「言われたことをこなすだけでは、存在価値を示すことはできません。常に心がけていたのは、『ヤマハのこだわり』を貫き、その価値をお客さまにも理解していただくことでした。音の素晴らしさは、データだけで証明することが難しいもの。スペックの比較に留まらず、実際の音を体験していただくことで、深い信頼関係を築けたと自負しています」

できる? 難題をさらっと振られた。

同プロジェクトが行われたのは、コロナ禍のまっただ中。なかなか現地に赴くことができず、車両のチューニングを行うことには大きな困難があった。そこで、新たな音響チューニングシステムの構築を担ったのが姫野だ。
「実車が手元にない状況でもチューニングできる『バーチャルチューニング』と測定結果から自動でチューニングを行う『オートチューニング』の開発を任されました。サウンドマイスターの中島さんから打診された時のことは、今でもはっきり覚えています。『現地に行けないから、バーチャル上でチューニングできたりしないかな?』。かなりの難題なのに、ずいぶん、さらっと言うんだな……って(笑)。音場を可視化する。PC内で音場を再現する。 最適パラメータを探索する。開発はとにかく試行錯誤の連続で、頭を抱えっぱなし。ですが、解を導き出した瞬間の喜びはひとしおでした。人力では不可能な60万通り以上の組み合わせから、与えられた条件下でベストなチューニングパラメータを探索する仕組みを構築し、人力を超える音質性能を実現できたんです」
それぞれの部門が困難を乗り越え、「理想の音」をつくりあげていく。その過程は、まさに感性と技術の融合。彼らは音の巧であり、最先端の技術者なのだ。サウンドデザインを担った中島は、ヤマハでの仕事をすることを心から誇りに思っている。
「ヤマハの技術者は本物の音を知り尽くしています。それぞれが尖った技術を持ち、高度な感性を備えている。だからこそ、ここでの仕事は、この上なく刺激的なものです。節目ごとに開かれる試聴会での議論は、私にとって何より心地よいものでした」

目標は、大きいほどいい。

自らが直面した困難について、目を輝かせながら、嬉しそうに語るプロジェクトメンバーたち。困難であればあるほど、挑戦する価値がある。その先に生まれる価値とかつてない達成感にワクワクする。その言葉には、ヤマハ技術者の本能がにじみ出ているようにも思える。そんな彼らが実現した「ヤマハの音」が、顧客である自動車メーカーから絶賛されたことは言うまでもない。「感動した」「このクルマのブランドを高めてくれた」。そうした言葉の数々が、彼らに確かな手応えを与えてくれている。
「現在もオートチューニング技術の開発は継続していて、作業の高速化をはじめ、さらなる進化を遂げています。自らが開発した技術を用いて最終調整された車の音を聴いた瞬間の感動は何にも代え難いもの。次はもっといいものをつくってみせる。想像以上の価値を提供してみせる。そんな気持ちを奮い立たせてくれるんです」(姫野)

「困難な開発計画をやり切ったことや、自動車メーカーに満足していただく価値を提供できたことはチームメンバーの自信に繋がっています。クルマを購入したお客さまに大好きな音楽を楽しんでもらうことが何よりも嬉しいことです。これまでの結果に甘んじることなく、ヤマハオーディオを搭載した車を国内外に広めていきたいですね」(辻川)

「初めのモデルに搭載されるスピーカーは、とくに精魂を込めて開発しました。その甲斐あって、現在では、ヤマハの車載オーディオの標準プラットフォームとなるスピーカーとなり、いろいろな車に搭載されるようになっています。その価値をさらに高め、広めることで、この市場にヤマハの存在価値を示していきたいと思っています」(三ツ口)

「よい商品を世に出したい。誰よりも強く、その想いを抱いた人だけが、人々を感動させる商品を生み出すことができる。私はそう信じています。デモカーを走らせ、実際に音を聞いてもらったときの『すごい!』『ワオ!』という反応を目の当たりにして、確かな手応えを感じることができました。車載オーディオをヤマハの第三の柱にする。まだまだ道半ばですが、いつか来るその日のために、全力を尽くしていきたいと思っています。目標は大きいほど、挑みがいがありますからね」(中島)