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新聞記事

毎日新聞│配信日:2018年12月31日│配信テーマ:

<演歌・歌謡ラボ>中村美律子/橋幸夫=専門編集委員・川崎浩


 ◇中村美律子 股旅もので物語歌う

 演歌・歌謡曲の特筆できる点は、過去を描けることである。ポップスは原則、現在が基点であり、「今の自分の気分」を説明することに注力する。その点、演歌・歌謡曲は時間軸において、ポップスよりはるかに自由なのだ。

 中村美律子の新曲は「弥太郎鴉(やたろうがらす)」とカップリングの「忠治旅鴉」(キング)である。ともに“流し”出身の作曲家宮下健治の作品で、いかにも昭和の盛り場のにおいが漂うドの付く演歌である。もちろん、しまの合羽(かっぱ)に三度笠(がさ)が定番の股旅もの。背景は江戸時代。ポップスでは絶対に描けない歌物語である。

 「男歌はパンチあってええです。この手の物語ものは歌に説得力がないといかんので大変ですわ」とベテランは大いに楽しんでいる。

 ◇橋幸夫 60年代歌謡から学ぶ

 超の付くベテランの橋幸夫は、自分がデビューした1960年代に飛んだ。関西で活動する林よしこを相手に歌うのは「君の手を」(ビクター)という昭和ビート歌謡をイメージしたデュエット曲。橋が、股旅ものの「潮来笠」でデビューしたのが、まさに60年。4年後には東京五輪を控え高度成長を感じ始めるころで、ジャズやロカビリーも、流行歌や浪曲歌謡も混在した軽音楽が、テレビ・ステレオの普及で一気に大衆化する時である。

 「3世代が一緒に歌を聴き、一丸となって頑張れた時代。古きをたずねて新しきを知ろうって歌」と橋。林は「デュエット相手が橋先輩と聞いて鳥肌が立った」と緊張気味。「今の時代は正邪善悪のつかみどころがない。ベテランが何か示さないとね」と橋の意気高しである。

毎日新聞2018年12月20日東京夕刊(2版)掲載 執筆記者:川崎浩