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読売新聞│配信日:2017年12月25日│配信テーマ:洋楽  

ビョークが新作「ユートピア」 奇妙で美しく官能的


 現代のポップの世界で、最も影響力の強いアーティストのひとり、ビョークが新作「ユートピア」(ホステス)を出した。パートナーとの別れを歌った前作とうってかわって、“理想郷”をイメージしたアルバムという。作品の狙いについて聞いた。(桜井学)
 あのビョークが目の前にいる、という事実だけで、圧倒されそうになった。常に時代の一歩先にいるカリスマである。質問には丁寧に、一生懸命答えてくれた。
 2015年の前作「ヴァルニキュラ」は、パートナーだった美術家、マシュー・バーニーとの関係の破綻を受け、作られた。「私たちの絆は断たれた」「終わりのない痛みと恐怖」などと歌う。悲壮感に満ちた重いアルバムだった。「だから、その対極の世界に行きたかった」と振り返る。
 彼女の思いはユートピア=理想郷に向かった。とはいうものの、明るいばかりの曲にはならない。奇妙で美しく、生々しく官能的な作品だ。「ユートピアの音楽は、どんなものだろうと考えてみた」。太古の音楽と、未来的なものが共存する世界を思い描いた。VR(仮想現実)技術を使った映像の制作に取り組むなど、ハイテクの導入に積極的な彼女らしい発想だ。
 鳥のさえずりが聞こえる1曲目は「あの口づけ あれがすべて」と歌い出す高揚感に満ちた曲だが、様々な音が入り乱れている。サビに向かって盛り上がっていく、典型的なポップソングの構造から逸脱している。「そういう形式には縛られていないし、ボーカルとほかのサウンドは対等で、主従関係がない」。約10分の大作「ボディ・メモリー」は厳かな管弦楽器のサウンドに、動物のうめき声のような音、分厚いコーラスなどで構成される。その中をビョークの強い声が駆け抜けていく。
 本作で重要な役割を果たしているのが、前作にも参加しているベネズエラ出身のエレクトロニック系のアーティスト、アルカだ。カニエ・ウェスト作品への参加で注目を集めた俊英で、本作では多くの曲をビョークと共同プロデュースし、共作もしている。「一緒に作業をしたし、メールを介しての音源のやりとりもした。この作品は、私とアルカの音楽的対話の成果」と言い切る。アルカの特徴といえる攻撃的なエレクトロニックビートと、フルートやハープなどの優美な音の対照が印象的。「時代に即した音をアコースティックサウンドと組み合わせるのは、誠実な手法だと思う」
 アイスランド出身。バンド活動を経て、1993年にソロ作「デビュー」を発表。感情をドラマチックに伝える個性的なボーカルと、実験的な音作りで、熱心なファンを獲得。本作も世界的な称賛を集めている。

読売新聞2017年12月14日読売新聞記事(1版)掲載 執筆記者:桜井学

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