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毎日新聞│配信日:2017年12月18日│配信テーマ:その他  

<POPSこぼれっ話>アナログレコードが育む「集中」


 AIスピーカーを手にして「確かに“スピーク”する。しかし、家にあるスピーカーとは似て非なるものである」と、驚嘆した。「マイルス・デイビスをかけてくれ」と言うとマイルスが鳴り始める。単純な受け答えもする。「スピーカー」といっても、要は動かないロボットである。音楽再生機械は、これで十分、という人が増えてくるだろう。

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 こんな時代の流れに対して「音楽は不便がいいのだ」と思う人も少なからずいる。

 先日、1本100キロあるスピーカーを手放した。基本設計は戦中で、1975年の米国製品であった。12ワットしか出ないのに30キロもある真空管のモノラルアンプも一緒に去って行った。重いがこのセットで聴くアナログ盤はこの世のものとは思えない霊妙な世界を作っていた。ただ、手間が掛かることおびただしい。システムが安定するのに1時間以上かかる。夏は暑い、いや「熱い」。針の上げ下ろし、音量の設定まで、いちいち立ってステレオまで行かねばならない。「聴くんだ」という強い意思がなければ始まらないのである。ただ一昔前は、これは苦行ではなく、「音楽を聴く喜び」に組み込まれた一連の作業の一つであった。この「不便極まりない」作業は、音楽への「集中」を育んでくれた。

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 ここ数年、アナログレコードの生産は増え続けている。ネットにつながったAIスピーカーが日常の家電となれば、CDは消え去る運命である。が、アナログレコードはそれ自体が「音楽作品」的性格を持った商品である。アナログならではの音質だけでなく、ジャケットのアートワークも音楽を後押しする。繊細に扱わねばならない円盤もいとおしい。

 八代亜紀のジャズアルバム「夜のつづき」(ユニバーサル)がアナログ盤も発売され話題を呼んだが、キングレコードは、人気定番となっていたジャズの「ブライアン・ブロンバーグ/ウッド」と「オルケストラ・ド・コントラバス/ベース、ベース、ベース、ベース、ベース&ベース!」の2作品を2枚組みアナログ盤で再発した。「オルケストラ」の方はさらに高音質を希求し45回転。価格は1作1万円。両方買えばAIスピーカーより高いのだ。家電を選ぶか音楽商品を選ぶか。ともあれ、まず重いスピーカーを買い戻したいが……。(川崎浩・専門編集委員)

毎日新聞2017年12月13日東京夕刊(1版)掲載 執筆記者:川崎浩

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