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非登録ライター│配信日:2017年4月3日│配信テーマ:クラシック  その他  

ピアノとバイオリンが放つ、デュオとは思えないスケール感に圧倒される


(取材・文/森 朋之)


 塩谷哲(ピアノ)が古澤巌(バイオリン)を招いて行われたコンサート「塩谷哲 Special Duo with 古澤巌」。塩谷のオリジナル曲からA.ピアソラの「アヴェ・マリア」、A.ヴィヴァルディの「四季」より「冬」といった幅広いジャンルの楽曲によって、クラシック、ジャズ、ラテンなどを自由に行き来する2人の演奏家の魅力をたっぷりと堪能できる内容となった。

 オープニングは塩谷の独奏による「無痛」メインテーマ。塩谷がドラマ「無痛~診える眼~」のために書き下ろした、美しく、静謐なメロディを叙情豊かに響かせ、観客を魅了する。続いて古澤が登場し、ふたりで「ショーロ・インディゴ」(佐藤允彦)を披露。南米特有のエキゾチックな旋律を持つこの曲は、古澤のレパートリーとして90年代から演奏されている楽曲。パーカッシブな塩谷のピアノ、さらに深みを増した古澤のバイオリンが有機的に絡み合い、いまやスタンダートとなったこの曲に新たな息吹が吹き込まれていく。

「古澤さんと一緒に演奏するときは、何も考えることなく、音楽に心を委ねられます。今日は意外と内容が濃いので、あんまりしゃべらないでやろうかなと」(塩谷)というMCの後は、R.D.マリーノの「マリーノのコンチェルト第1番」(全3楽章)。古澤がチョイスしたというこの曲は本来、弦楽5重奏。それをピアノとバイオリンで再構築しているわけだが、華やかな気品と心地よいダイナミズムを備えた二人の演奏は、まるでオーケストラさながらの迫力。豊かで厚みのある音像は、この日のコンサートの最初のピークだったと言っていい。さらに「Join the Angels」「EARTH BEAT~大地の鼓動~」という塩谷のオリジナル曲を演奏。デュオとは思えないほどのスケール感を放つパフォーマンスに対し、会場からは大きな拍手が巻き起こった。

 第2部の1曲目はJ.S.バッハ「無伴奏バイオリン・ソナタ第1番」。重音奏法を駆使しながら、厳密かつ厳粛な旋律を奏でる古澤の演奏によって、会場全体が心地よい緊張感に包まれる。古澤のソリストとしての魅力が存分に味わえる、まさに圧巻の演奏だった。「バッハの幾何学的なハーモニーの進行、完成度の高さは、音楽を学ぶ者にとっての良い教科書だと思います」という古澤の言葉も印象に残った。

 古澤が演出した凛とした空気を一変させたのは、塩谷とのデュオで披露されたA.ピアソラの「アヴェ・マリア」。宿命的な悲しみから救ってくれるような麗しいメロディをまるで歌うように響かせ、どこか官能的なムードが広がっていく。それほど知られている楽曲ではないが、「奇をてらってないんだけど、ハーモニーと転調にセンスを感じる」(塩谷)というこの曲と出会えたことは、このコンサートの大きな収穫だった。

 さらにJ.ブラームスの「交響曲第3番」より第3楽章、A.ヴィヴァルディ「バイオリン協奏曲『四季』」より「冬」を披露。作曲者の意図、楽曲の背景を深く理解し、独創的なアレンジ――たとえばブラームスの楽曲には、少しだけジャズのエッセンスが反映されていた――を加えることで、斬新な魅力を引き出していく。オーケストラ楽曲をバイオリンとピアノに移し替える編曲のセンス、そして、2人の卓越した演奏技術に圧倒されてしまう。

 塩谷がNHK Eテレ「コレナンデ商会」のために書いた「海であいましょう」「恐竜のせいかつ」を挟み、R.D.マリーノの「ESPERANZA」、塩谷の「Spanish Walts」というラテンのフレイバーが散りばめられた楽曲へ。強い感情を込めた音色が響き渡り、心地よい熱気とともに本編は終了した。

 アンコールではV.モンティ「Csardas」を熱演。休日の午後を豊かな音楽とともに過ごした観客はもちろん、「こうやって一緒に音楽を作る喜びは何にも代えがたいですね」という塩谷にとっても、実りの多いコンサートになったようだ。



「塩谷哲 Special Duo with 古澤巌 “HARMONIA Ⅱ”」
日時:2017年3月4日(土)
会場:東京・ヤマハホール

2017年4月 3日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載

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