物語に、音楽でスポットを当てる。
<前編>

Jason Michael Paul/エンタテインメント・プロデューサー

音楽とゲーム。このふたつが僕のルーツです。

交響楽団のコンサートに行ったことも、オーケストラの生演奏を聴いたこともない。そんな若者たちに、ゲームを通じて豊かな音楽を届けようとしているのが、Jason Michael Paul氏です。子どもの頃から親しんできたゲームのサウンドトラックを耳に、映像を目にする。そんな体験を通じて、交響曲に関心がある人を増やしたいと語る氏の、情熱、アイデア、夢に迫ります。

家族の喜ぶ顔が、キャリアの原点です。

記憶にある最初の音は、父が叩くドラムの響きです。ロックバンドのメンバーだった父は、自宅スタジオにマホガニー製のドラムセットを揃えるほどの本格派でした。僕も物心つく頃から、父を真似してドラムを叩いたものです。ロックのほか、オペラやクラシックも身近でした。これはイタリア人とスペイン人の血を引く、音楽好きの祖母の影響です。音楽を心から楽しむ僕の性格は、彼女から受け継いだものなのでしょう。こんな父や祖母のもと、ロックからスタンダードジャズ、ほかにもショパンやベートーヴェン、ラフマニノフ、ガーシュインといったクラシックまで、さまざまな音楽に囲まれて育ちました。

10歳になると、ピアノにも手を伸ばします。家には祖母が遺した小型のグランドピアノもありました。15歳からはギターを始め、アコースティックギターとエレキギターを何本か手に入れると、次第にギターと過ごす時間が増えます。子どもらしいとも言えますが、ずいぶん移り気だったものです。うちの家族は、僕が何を弾いていてもお構いなしで、みんな僕の演奏が大好き。休暇で親戚が集まったときなどには、僕の音楽に合わせて父が寸劇を演じるのがお決まりでした。親戚みんなの前で演奏した思い出は、今でも僕の宝物。家族が育んでくれた音楽への愛が、音楽プロデューサーとしての原点です。

初めて触れた楽器は父のドラムセット。そこから氏のエンターテイメントへのパッションが花開いていく。

ゲーム音楽に導かれ、新たなエンタテインメントの世界へ。

子ども時代にもうひとつ熱中したものが、テレビゲームです。当時はコモドール64(ホビーパソコン)と任天堂の家庭用ゲーム機が全盛の時代。特に僕の出身地であるサンフランシスコでは、テレビゲームに夢中な人が多かった印象があります。僕自身が最初にハマったのは「Pong」(卓球ゲーム)。「悪魔城ドラキュラ」「ダブルドラゴン」「ゼルダの伝説」「ドラゴンクエスト」「ファイナルファンタジー」などをプレイするようになると、その素晴らしいゲーム音楽にも引き込まれました。これこそ僕がエンターテイメントの新しい世界へと歩みを進めたきっかけです。

当時の僕は20歳。アシスタントからのスタートでした。最初のクライアントはソニーです。それを皮切りにスクウェア・エニックス、サン・マイクロシステムズ、任天堂、マイクロソフトといった多くの大手メーカーと仕事をさせてもらいました。

ゲームは今でも僕の大切なホビーです。家族とともにゲームを楽しむこともあれば、「コール オブ デューティ」や「NBA 2K」のようなゲームでストレスを発散することもしばしば。もはやゲームは、僕にとっての欠かせない人生の一部となっています。

クラシック音楽とゲームを、ひとつに。

ゲーム関係の仕事だけではなく、アーティストのライブイベントを手がける機会にも恵まれてきました。三大テノール、エルトン・ジョン、マイケル・マクドナルド、パティ・オースティン、アウトキャスト、アンドレア・ボチェッリ、サラ・ブライトマン、フー・ファイターズ──。錚々たるアーティストとともに世界中を駆け巡ったものです。

2002年に東京を訪れた際には、運命的な出会いに恵まれます。すぎやまこういち氏が指揮する「ドラゴンクエスト」のコンサートや、「ファイナルファンタジー」のコンサートです。テレビゲームの映像に、オーケストラが演奏するゲーム音楽。アメリカでは前例のない音楽とゲームの融合は、とにかく刺激的でした。ここでの経験を糧に、自分でコンサートを手がけるようになったのが2004年です。それから今日まで、過去を振り返る暇もないくらい仕事に取り組んできました。ただ前だけを見て、突っ走ってきました。

2011年には、「ゼルダの伝説」の生誕25周年を記念するシンフォニーオーケストラコンサートをプロデュースしました。ロンドン、ロサンゼルス、東京での公演は、いずれもソールドアウトで大成功。今も「ゼルダの伝説 Symphony of the Goddesses(女神たちのシンフォニー)」と銘打ったコンサートツアーを継続中です。25周年を記念してレコーディングしたゲーム音楽集でも、各メディアから高評価をいただくに至ります。

音楽に対するパッションが、彼を数千人のオーディエンスの前へと運ぶ。世界を飛び回り、音楽の力を証明する日々を送っている。

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Jason Michael Paulエンタテインメント・プロデューサー
交響楽団コンサート業界の先駆者にして先導者。Jason Michael Paul Entertainment, Inc.代表。著名な国際的アーティストのコンサートに加えて、テレビゲームの音楽に命を吹き込む交響楽団コンサートの企画・宣伝を行っている。

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