デザイン研究所所長
川田 学
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デザインに作品性も要求される時代

日本のメーカーがお手本とした工業デザインの基本理念は「form follows function = 形態は機能に従う」。道具として合理的であり、機能美があり、そこにコストバリューも加わって、日本製のデザインは製品として商品として成功してきました。しかし90年代後半頃からは、更に作品的な価値も求められてきていると感じます。コストバリューだけでは、新興国のプロダクツに勝てなくなりつつあるからです。そうなるとデザインのアイデンティティ、つまりそれぞれの企業に固有の表現、オリジナリティーが益々重要になってきます。勿論、合理性や機能性、値ごろ感を 備えた上での話ですが。

ヤマハのデザインフィロソフィーとは

ヤマハデザイン研究所では、個々のデザイナーが比較的作家性を持っています。入社してすぐ1製品を担当させるという伝統も、デザイナーの個性を尊重していることの表れです。また外国人デザイナーを採用し、彼らと考えを共有するために所内の公用語を英語にしていることも。その一方で各デザインが単なる個人作品にならないよう、研究所全体で共有すべき理念として掲げているのが、ヤマハ・デザインフィロソフィーです。5つの英語のキーワード「Integrity=本質を押さえたデザイン」「Innovative=革新的なデザイン」「Aesthetics=美しいデザイン」「Unobtrusiveness=でしゃばらないデザイン」「Social Responsibility=社会的責任を果たすデザイン」があります。どれも非常に大切ですが、特に「本質を押さえたデザイン」は最重要です。 本質的ということは、本物っぽいこととは全然違います。見た目を本物らしく繕うことは、むしろ正反対かもしれません。一見突飛に感じる程に独創的だけど、よくよく考えると見事に理にかなっている。そういう域に達するには人間と道具、文化に対する深い理解が必須であり、また独自の観点がなければ見出すことも難しいでしょう。もう1つ「でしゃばらないデザイン」はヤマハに独特のキーワードかもしれません。楽器演奏において主役はあくまで演奏者なのだから、必要以上に道具がでしゃばってはいけないということ。また、永く愛用されて道具が人生の伴侶となるために、一時の流行を追い過ぎた過剰なデザイン、でしゃばったデザイン表現は控えなさい、という意味がこめられたキーワードです。20年以上前の1987年、創業100周年を期に制定したデザインフィロソフィーですが、ヤマハらしさを創り出す根幹として、これからもしっかり継承していきたいです。

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