デザイン研究所所長 川田 学

突飛なほどに独創的、
でも実は合理的。

それが本質を捉えたデザイン。

デザイン研究所所長 川田 学

プロフィール

1992年入社。スポーツ用品のデザインを皮切りに、様々な電子楽器や、オーディオ機器、音楽制作ソフトのGUIを幅広く担当。2001年よりロンドンのRCA(英国王立美術大学院)に留学。復職後、電子楽器デザインのグループマネジャー、プロダクトデザインセンター長を経て、2008年6月よりヤマハデザイン研究所 所長に就任。

デザイナーをめざした頃

物理学が好きだった高校時代

実は、子どもの頃から絵を描くことが際立って得意だった訳ではありません。鉛筆削りとか身近な道具を分解することが大好きで、高校時代は理工学部物理学科を目指していました。古典力学の問題を解くときの、紙の上で実験をするような感覚が好きで、教科書にはない問題を自分で作る程でした。どれだけ洗練された解答を出せるか友人と競ったり。それから哲学にも興味がありました。フッサールの『現象学の理念』とか難しかったけど一生懸命読んでいました。哲学的思考と、科学的な合理性。今思うとデザインはこの両方に深く関わっていますね。で、工業デザインに興味を持ったきっかけですが、実はハッキリと覚えていないのです(笑)。確か予備校の帰り道に文具店のギフトコーナーで、顔が映りこむような球形の凹みのあるクロム鍍金のペーパーウエイトを見て「ああ、デザインもいいな」と思った記憶があります。何か、哲学と科学がひとつのモノとなって実在しているような気がしたのかもしれません。

何学部?と聞かれると山岳部と答えていた

大学は工学部の工業意匠という学科に入りました。でも実は「何学部?」って聞かれると「山岳部」と答えるぐらい大学時代は山にばかり登っていました(笑)。綿密な山行計画を表にまとめ、装備や山岳気象や救急医療について猛勉強し、同時に身体を鍛え、お金を貯めて、そしていよいよ、数日分の衣食住の全てをザックに詰め込んで気の合う仲間と山に旅立つ。仲間と励まし合いながらも、歩く行為はいつも独り。黙々と歩いてピークに立ち、ここまで一歩一歩きた長い道のりを振り返り、全身に風を感じるときの充足感。水のおいしさ。今でもよく覚えています。工業意匠学科の課題で、最も思い出深いのは電話のデザイン。電話をする人の姿や会話の舞台をデザインしてみたくて、考えたのは椅子のような照明のような、ちょっと風変わりな人間サイズの電話でした。これは当時からつくり続けているスクラップブックです。今見返しますとこの頃から「人と道具と空間の関係」について考えることが好きだったみたいですね。