[ 画像 ] 今週の音楽記事から 音楽ジャーナリストの眼 毎週月曜更新

新聞記事

読売新聞│配信日:2018年9月3日│配信テーマ:Jポップ  

ヒットチャート席巻する才人 米津玄師 感性頼みじゃないポップ


 ◇週刊エンタメ 夏の特別版
 インターネット発のミュージシャン、米津玄師(よねづ・けんし)が止まらない。昨年11月に出したアルバム「BOOTLEG」は累計売り上げが40万枚を超え、ドラマ主題歌「Lemon」のダウンロード数は130万を突破した(オリコン調べ)。ロングヒットの連発でJ—POP界を席巻している。めったに新聞の取材を受けない孤高の才人に心境を聞いた。(鶴田裕介)
 「音楽を作り始めた頃から、そういうものになりたいと思っていました」と米津。自らの音楽が多くの人に聴かれるようになったことを素直に喜んでいた。「小学生の頃、何の気なしにテレビで流れてくるポップミュージックに、すごい力があると思っていた」
 〈夢ならばどれほどよかったでしょう 未だにあなたのことを夢にみる〉
 今年初めのTBS系ドラマ「アンナチュラル」の主題歌「Lemon」では、胸を締め付けるような旋律に乗せ、こう歌う。主人公の三澄ミコト(石原さとみ)ら、法医解剖医の心の葛藤を表現しているかのようだった。
 温かみのある低い歌声。J—POPの王道を体現する、耳に残るメロディー。痛みも希望もリアルに描く、文学的な歌詞。大衆性と芸術性が際どいバランスで両立するのが米津の音楽。ビルボードジャパンの今年上半期のトップアーティスツランキングで首位を獲得し、日本の音楽シーンの中心的存在になった。
 原点はインターネットだ。1991年生まれ、徳島県出身。2009年「ハチ」名義で動画サイト「ニコニコ動画」にオリジナル曲の投稿を始めた。使ったのは「初音ミク」に代表される歌声合成ソフトのボーカロイド。
 〈全部全部笑っちゃおうぜ さっさと踊っていなくなれ〉
 楽曲「マトリョシカ」は、まるでお祭りのどんちゃん騒ぎ。画面上には「これを知らずしてボカロは語れない」「神曲だ!」などのコメントが書き込まれる。様々な作風を試しながら、印象的なメロディーを持つ楽曲を次々と発表した。
 「バンドでやりたかったんです。本当は」と、率直に振り返る。「でも、4、5人でものを作ることが、向いてないんじゃないかって思って」。他人との熱量の差、創作への向き合い方——。一人の方が楽しいと感じるようになっていた。
 ボーカロイドを選んだのは「自分の歌声があまり好きではない」から。「もっと違う、高い声で生まれていたらよかったと。初音ミクのような“スター”に歌ってもらうことで、いろんな人に届くんじゃないかと思いました」
 12年には本名の米津玄師名義で、自分の声で歌った作品を発表する。14年には初めてライブを行った。昨年は久々にハチ名義で楽曲「砂の惑星」を出した。「ハチ」と「米津玄師」をどう使い分けているのか。「んー、どうなんですかね」と少し悩み、「まあ全部自分なんだけれど、その時々の自分がいる、って感じがしますね」と語った。
 一人でコツコツ作り上げてきた作品は、どれも斬新なのに親しみやすい。「ずっと普遍的な音楽を作りたいと思いながら続けてきた」という米津。「自分の才能はこうだ、という側面で音楽を作っているところがあるし、人々の共感を得るものを作りたいという思いもある。二つの軸に、そんなに矛盾がない」
 ミュージシャンが使いがちな「感性至上主義」という言葉を好まない。「感覚や、自分らしさに視点を置きすぎて、日本でも世界でも、周りで何が起こっているのかに全く目を向けない。そういう姿にはすごく懐疑的です」。つまるところ、音楽は「機能的であるべきだ」と考えている。「ぐずぐずしたエゴの塊みたいな音楽だとしても、それが最終的に機能的であれば、ものすごく美しい。自分のエゴが、機能的に働いているかどうかっていう客観的な視点があるかどうか」
 あらゆる質問に対して、物静かに理路整然と答える。毅然(きぜん)とした口調に、揺るがぬ信念を持っていることがうかがわれた。「ポップなものを作りたいというのはずっと一貫しているが、その時々で作り方は変わる。毎日服を着替えてる感じですね」
 
 ◎イラストも
 米津が他のミュージシャンと一線を画すのは多才さだ。音楽にとどまらず、CDのジャケットや歌詞カードのイラスト、ミュージックビデオに至るまで、自ら手がける。空想の「かいじゅう」のイラストをまとめた「かいじゅうずかん」という著書もある。
 実は子供の頃は漫画家になりたかった。「ボーカロイドをやってる時くらいまで、果たしてこのままでいいのかと悩んでいた」。しかし今は「音楽家だから音楽だけやると決まってるわけじゃない」と柔らかく考えるように。「自分の範囲やテリトリーを決めちゃうのは、面白くないですよね」
 
 ◆菅田将暉らと
 他人をプロデュースする機会も増えている。昨年は「打上花火」(DAOKO×米津玄師)がヒット。アルバム「BOOTLEG」には菅田将暉と歌う「灰色と青」、池田エライザとの「fogbound」を収録した。
 かつて、他人とやることに抵抗があった。「めんどくさいじゃないですか。こうあってほしいと伝えることの難しさ。創作に対して(考え方が)全然違った時の失望感」。バンド時代にも感じたあの感覚。
 しかし「同じことを繰り返していても面白くない」との思いもあり、遠ざけていたものを許容できる体力が、ようやくついたと感じた。「人が何を考えていて、それに対して何を言えばいいか。言語化能力が増えたってことじゃないかな」
 ◆小学生をプロデュース
 今、プロデュースしているのは小学生。「<NHK>2020応援ソングプロジェクト」のため、オーディションで選ばれた小学生の男女5人でユニット「Foorin」を結成した。自身の子供時代を投影した楽曲「パプリカ」を書いた。
 〈青葉の森で駆け回る〉〈雨に燻(くゆ)り 月は陰り〉
 覚えやすいのに、いざ歌うと複雑なメロディー。歌詞は徳島で育った幼少期の描写だという。「じいちゃん、ばあちゃんの家がまさに田舎で。森や川で遊んでいた記憶を抽出してできた」
 メインボーカルのひゅうが(小学6年)、もえの(小5)、コーラス&ダンスのたける(小6)、りりこ(小3)、ちせ(小2)の5人組。ユニット名は、風鈴にたとえて命名した。
 制作にあたり、「まず子供をなめないところから始めるべきだ」と強い言葉で自らを戒めた。「子供の頃を思い返すと、いろんなことに敏感だったし、生半可なものはバレる。大人と子供というより、友人のような関係で作りたかった」
 パプリカという曲名は語感で決めたが、実はこだわりがある。「大人になればなるほど、理論的なものに縛られていく。でも、子供の頃は何も考えてなかった」。幼稚園にクマの子が転園して来る絵本のような何でもありの感覚だ。
 2020年とその先の未来に向かって頑張る全ての人への応援歌。「この5人が歌っている姿が、ささやかな日常の糧になれば。花瓶に一本挿された花くらいのちょうどよさ、というか」

読売新聞2018年8月25日読売新聞記事(1版)掲載 執筆記者:鶴田裕介

Jポップ   のテーマを含む関連記事