音楽で、人も、地球も幸せに。
〈後編〉

環境問題に、継続的に寄与できる仕組みを。

2019年6月に活動をスタートした「FEAT.」は、アーティストからの投資によって、ソーラーパネルを設置するなどの活動をしています。生成したエネルギーを販売して得た収益はアーティストに還元し、音楽活動の資金にしてもらう。そこにWin-Winの関係性があります。投資をし続ければ、永久的に環境問題に寄与しながらアーティスト活動を継続できるのが「FEAT.」のユニークなところです。「FEAT.」が扱う環境プロジェクトはひとつではないため、アーティストは毎年少しずつ新しい投資を増やし、各地の環境保全に関わりながらリターンを得て、音楽活動を続けていくことができます。

「FEAT.」の設立にあたっては、環境問題に関する勉強はもちろん、ファイナンスについての勉強も重ねました。オランダの風力発電機、ドイツの太陽光パネル、地元市民がファンドを立ち上げて活動する事例。これらを見て回り、自分に何ができるのかを模索したものです。結果、経験豊かな投資会社とパートナーシップを組み、この活動をスタートするに至ります。「アーティストの活動が地球環境を汚すものであってはならない」という思いを込めて立ち上げたこのイニシアチブ。現在、私は「FEAT.」の発案者であり、CEOであり、広報担当でもあります。これからも、多くのアーティストにこの活動を知ってもらい、賛同してくれるメンバーをもっと増やし続けていくつもりです。

予想以上の反響があったが、現実は甘くない。

「FEAT.」には多くのミュージシャンやモデル、アスリートから賛同の声が集まりました。きっとみんなどこかで罪悪感を感じながら活動をしていたのでしょう。英国放送協会（BBC）に取り上げられると認知度は一気にアップ。今は問い合わせへの対応に追われる日々です（苦笑）。しかもメッセージはオーストラリアからだけではなく、ロンドン、フィリピン、アルゼンチン、ドイツなどからも。「自分たちの国でもできるだろうか」という声もあり、世界中にニーズがあると確信しました。これまではオーストラリアにおけるエネルギー問題に注力してきましたが、これからは各国それぞれの課題を解決していきたいと考えています。

現在、「FEAT.」の賛同アーティストは約600人。ミッドナイト・オイルのピーター・ギャレットや、ヴァンス・ジョイ、コートニー・バーネット（ともにオーストラリアのミュージシャン）なども参加しています。集まった資金は、総額700万豪ドルと、私の予想をはるかに超えました。しかし、現実に目を向ければ、これではまったく足りません。これからの数10年で必要な再生可能エネルギーは、50テラワットというとてつもない規模のものです。道のりはまだまだ長い。それが現実です。

アーティストと地球のあたたかな関係づくりを。

オーストラリアの再生可能エネルギーは、全エネルギー量の21パーセントに留まっているそうです。まずは、これを100％にしたい。「再生可能エネルギーへの転換」を実現するために、「FEAT.」の活動を今後さらに活性化していきます。とはいえ、石炭産出大国であるオーストラリアのエネルギー転換は、一筋縄ではいきません。政府への働きかけはもちろん必要ですが、民間企業とタッグを組んでアプローチするなど、あらゆる手段を講じていくつもりです。また、アボリジニーの土地にソーラーパネルを設置するとなれば、彼らの文化への敬意も忘れてはなりません。そのコミュニティに収益を還元できる新たな仕組みづくりも進めていく予定です。

世界では、コロナ禍で自粛されてきた音楽活動が、少しずつ再開され始めました。どんな状況であっても音楽が鳴り続けたように、「FEAT.」の活動も続いていきます。音楽は私の人生の一部であり、幸せの根源です。これからも軸足は音楽に置きながら、環境活動も続けます。私が実現したいのは、アーティストが自らの収益の一部で環境投資することが常識となる社会。アーティストだけでなく、広く音楽に関わるコミュニティにも利益を還元できる未来だと理想的です。アーティストと地球環境のサスティナブルな関係をつくり、そのサイクルを回し続けていきたい。そう心から願っています。

Heidi Lenffer／ミュージシャン

オーストラリア、ブルーマウンテン出身。弟と友人2名で結成したオルタナティブロックバンド、Cloud Controlでボーカル、キーボードを担当。オーストラリアやヨーロッパを中心として音楽活動を展開。環境問題への造詣が深く、2019年6月、アーティスト向け再生可能エネルギー投資プロジェクト「FEAT.」を始動した。