あらゆる音楽活動を、
地球環境にやさしいものに。
〈前編〉

Mauricio Lizarazo Prada/音楽プロデューサー、イベントオーガナイザー

社会的なメッセージを音楽活動に乗せて。

あらゆる音楽活動が、地球環境に優しいものであってほしい。プロデューサー、Mauricio Lizarazo Prada氏の活動の原点には、1993年にポール・マッカートニーのライブから受けた衝撃がありました。氏の「サステナブルミュージック(持続可能な音楽)」の実現に向けた足取りに迫ります。

ポール・マッカートニーのライブに心を揺さぶられた。

幼い頃から音楽好きだった私は、17歳のときにアメリカで観たポール・マッカートニーのライブに大きく心を揺さぶられます。見事なパフォーマンス、細部まで演出されたステージ、想像を超える広さの会場。すべてにおいて圧倒されました。遠くの座席からだとポールが肉眼では見えないほどの規模でしたが、どのシートであっても納得のライブ体験が得られるよう、会場の至るところに大型ビジョンがありました。CDによって耳だけで楽しむのとはまったく異なる音楽体験です。ライブ会場だからこその熱気、迫力、臨場感、ビジュアルを、全身で味わい尽くしました。

ステージ以外で驚かされたのは、フード販売の様子です。ライブ会場のフードといえばハンバーガーやホットドッグがお決まりなのに反して、ポールのライブでは、チーズやサラダのサンドイッチにプレッツェルといったベジタリアンフードのみ。動物実験に反対する楽曲を歌っていたほか、熱心に環境問題に向き合ってきたポールらしいやり方です。ライブのすみずみに、社会的なメッセージを込めている様子に、当時の私は大きな衝撃を受けました。

コロンビアのボゴタで1994年に開催された音楽フェス「Cuahuxicalli」で、ギターをプレイするMauricio(写真右)。バンド活動は10代の頃からスタートした。

衝き動かされるように音楽の世界へと飛び込んだ。

アメリカでの高校生活を経て、生まれ故郷であるコロンビアの大学に、さらに海外留学先としてドイツへ。さまざまな土地に移り住みましたが、いつも身近には音楽がありました。ずっとギターも弾き続けてきましたが、それはあくまでも趣味。本当の意味で音楽にのめり込んだのは20代後半になってからです。内側からこみ上げてきた「クリエイティブな活動に没頭したい」という思いに衝き動かされ、新卒で勤めた化学メーカーを退社し、単身ベルリンへ。現地のラテンオルタナティブ系バンドにギタリストとして加入しました。ところが、ここでギターを弾くだけではなく、マネジメントや渉外などを一手に担うことになったことが、私の音楽プロデューサーとしての第一歩になったのです。

音楽イベントをプロデュースする「パチャママカルチャー」を立ち上げたのはこの頃です。自分たちのバンドだけでなく、音楽イベント全体を手がけるようにもなりました。ドイツを代表する音楽フェス「Fusion Festival」の運営に携わるチャンスにも恵まれます。ただ音楽プロデューサーとして生きていくには力不足だという自覚もありました。そこで一念発起してニューヨーク大学の修士課程へ。3年間みっちりと音楽ビジネスを学んだ上でベルリンへと戻り、パチャママカルチャーでの活動を再開します。

1997年からドイツで開催されてきた「Fusion Festival」ラテン・オルタナティブ・フロアの運営を2005年に担当。開催数カ月前から運営グループでの打ち合わせが始まり、コンセプトメイキングに着手。写真は、前年度の開催で用いたデコレーションを取り壊しているところ。

ベルリンでつかんだ「サステナブルミュージック」というコンセプト。

ニューヨークで音楽ビジネスを学んだものの、最初は本当に小さなライブばかりを手がけていたものです。それでも「このバンドなら、どんな会場がベストか」「どんな演出ならオーディエンスはハッピーか」と考え抜き、常にベストを尽くしてきました。すると評価はついてくるもので、徐々に人脈が広まり、大規模なライブや有名アーティストのツアーを手がけられるチャンスが巡ってくるようになります。

私たちはライブのクオリティだけではなく、どんなアーティストに出演してもらうかにもこだわってきました。なかでも好んできたのは、環境問題についての関心が高く、社会的なメッセージを発信しているアーティスト。ベルリンという誰もが「サステナビリティ(持続可能性)」に配慮する都市で暮らすうちに、自然とそうなっていきました。ポール・マッカートニーがそうだったように音楽イベントを、社会へポジティブなメッセージを届ける場にしたい。そんな思いの延長線上にある活動として、現在も「サステナブルミュージック(持続可能な音楽)」の実現に向けて取り組んでいます。

2004年ベルリンのColumbia Clubにて。

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Mauricio Lizarazo Prada音楽プロデューサー、イベントオーガナイザー
コロンビア出身。ベルリンを拠点に、バンドやイベントのプロデュースを手がける。環境問題に強い関心を持つ。「サステナブルミュージック(持続可能な音楽)」の実現のために精力的に活動し続けている。

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