音楽で、人も、地球も幸せに。
〈前編〉

Heidi Lenffer/ミュージシャン

音楽が地球環境と共存していくために。

オーストラリアのオルタナティブロックバンド「Cloud Control」のメンバーであるHeidi Lenffer氏は、2019年6月、音楽活動と並行してアーティスト向けの環境保全プロジェクト「FEAT.」を設立しました。なぜ、「FEAT.」を立ち上げたのか。そこに込められた彼女の思いに迫ります。

音楽の楽しさ、自然の尊さは、両親から教わった。

幼い頃、家のリビングはいつも音楽であふれていました。音楽を奏でることの楽しさを教えてくれたのは母です。よくクラシックギターで、トラッドやスパニッシュ系の音楽を弾いてくれました。楽器を弾かなかった父は、歌詞の持つ力を教えてくれました。家でかけるレコードは、もっぱらレッド・ツェッペリンやディープ・パープル。「この歌詞がいいんだ」と、私の顔を覗き込みながら語りかけてくれたことを覚えています。私自身は、8歳から音楽教室のグループレッスンに通い、その後もピアノの個人レッスンを受けて育ちました。とにかくピアノが大好きで、何時間も一心不乱に練習したものです。

母は音楽だけでなく、自然を愛する人でもありました。いつも台所で使った水をシンクに貯めて、庭に撒いていたものです。その姿を見て「蛇口から出てくる水の大切さ」は自然と感じ取っていたように思います。母の撒く水ですくすくと育つ草木を目にして、毎日の小さな積み重ねが、将来、大きな違いを生むことも学びました。自然に対する私の価値観は100パーセント母ゆずりです。それに木々や川、谷に囲まれて育ったからか、そこに暮らす動物、生物すべてが大好きでした。子どもの頃は「将来は生物学者か海洋学者になりたい」と思ったほどです。

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7歳の頃のHeidi。自然や生きものへの興味は、母からの影響で育まれた。

思いつきで出場したバンドコンテストが、一大転機に。

けれども、ジャーナリズムやメディア論を学んだのが私の大学時代です。音楽は常に自分の中にあったため、大学で専門的に学ぼうとは思いませんでした。ましてやバンド活動をするつもりは皆無でしたが「バンドコンテスト」の張り紙を見て「出たい!」と思ったのが「Cloud Control」の原点。今思うと無謀な話ですが、私たちはバンドを組んで4週間で4曲を作り、すぐさまコンテストのステージへ。初回はバンド活動を楽しんだのみでしたが、再挑戦した翌年はまさかの優勝。以後、この即席バンドが10年も続くなんて当時は誰も想像していなかったはずです。

2005年に大学を卒業した後は、週末ライブに励む日々が続きました。当時の私の仕事は、SBSという公共放送局でニュース原稿を書くこと。地道にバンド活動を続けてこられたのは、コンテストの際に地元のプロデューサーからかけられた「もっと曲を書いてみなよ」という言葉に支えられたほか、地元のラジオ局のサポートによってレコーディングした曲をオンエアしてもらえてこそです。 2007年にデビューが決まり、2011年にファーストアルバムを出してからは、バンド活動中心の生活を送ってきました。

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2012年、ロンドンで行われたCloud Controlのレコーディング風景より。

音楽で環境を守るために「FEAT.」をはじめた。

ファーストアルバムをリリースした後は、多くの時間をコンサートツアーの移動に費やす日々を送ったものです。思えばこのツアー生活が、再生可能エネルギーへと目を向けるきっかけになりました。2014年頃になると、オーストラリアでは温暖化問題が深刻化する中で「私たちはCDをリリースし、コンサートツアーをして生計を立てている。音楽は人を幸せにするものでも、音楽活動自体は地球を汚していないか」と思い悩むようになったのです。

すぐさま調査したところ、ひとつのツアーで使用する飛行機やバスのCO2排気量は一般世帯の年間排気量に匹敵するとわかりました。これは無視できません。そこから様々な専門家に話を聞き、「私たちには何ができるのか」を模索。そして「再生可能エネルギーを自ら作る」という結論を導き出しました。2019年、私が立ち上げた「FEAT.」は、アーティスト自身が「再生可能エネルギープロジェクト」に投資するためのプラットフォームの役割を果たしています。環境問題に興味を持ち、何らかの行動を起こしたいアーティストから資金を募り、環境保全プロジェクトを実行する。その試みが、ここからスタートしました。

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2017年、気候学者らとともにヘロン島を訪ねたサイエンス調査旅行より。ここでの学びから「FEAT.」のコンセプトは生まれた。

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Heidi Lenfferミュージシャン
オーストラリア、ブルーマウンテン出身。弟と友人2名で結成したオルタナティブロックバンド、Cloud Controlでボーカル、キーボードを担当。オーストラリアやヨーロッパを中心として音楽活動を展開。環境問題への造詣が深く、2019年6月、アーティスト向け再生可能エネルギー投資プロジェクト「FEAT.」を始動した。

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