音楽は生きていくための希望。
〈後編〉

Ephraim Bugumba/シンガーソングライター

故郷に音楽の力を届けたい。

難民としてコンゴからアメリカに移住し、人気オーディション番組「American Idol」で注目を集めたEphraim Bugumba氏。自らを「ストーリーテラー」と定義し、シンガーソングライターとして活躍する背景には、数々の苦難を乗り越えてきた氏ならではともいえる、並々ならぬ使命感がありました。

歌詞やメロディに、人生を込めて

私がストーリーテラーと名乗り、音楽を通じて自らの半生を語るのには、理由があります。私の体験は、すべての難民のストーリーであり、広い意味ではすべての人間のストーリーだと思うからです。「Voices in My Head」という曲のなかで私は、「本当にミュージシャンとして生きていけるのだろうか」「音楽のために大学を辞めたのは、正しい選択だったのだろうか」という葛藤をさらけ出しました。それを教会の音楽仲間に聞かせてみると、全員が共感してくれたのです。ラジオ局が主催する「2019's Tiny Desk Contest」に応募したところ、注目曲として取り上げられ、大きな反響が寄せられました。

自らのストーリーを語ることで、たくさんの人の心を打つことができる。そう勇気づけられた出来事です。ちなみにストーリーは、歌詞だけのものではありません。ショパンの「ノクターン(遺作)嬰ハ短調」の寂しげなメロディがいい例です。そこには不治の病を抱えたショパンの後悔と、かつての幸せな思い出が入り混じって見えます。メロディにもストーリーを伝える力がある。私の楽曲でも、そうあってほしいと願っています。

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2018年、地元で開催されたオープンマイク(公開カラオケのようなステージ)にて。大学を中退してからは、曲作りに励み、こういった場で腕を磨いてきた。

自らのストーリーを語ることで、人々をインスパイアしたい。

音楽を通じてストーリーを語るのが私の日常ですが、それ以外にもストーリーを語る場はあります。世界のミュージシャンや、音楽の専門家たちが集う「2019 International Folk Music Awards」に出演したときのことです。私は、フォークミュージックの発展に貢献した人々に贈られる「Spirit of Folk Awards」を受賞し、パネルディスカッションに参加する機会に恵まれました。ここでコンゴからやってきた難民であることや、アメリカに移住して6年になることのほか、音楽に支えられてきた人生について、真剣に語ったのです。

会場には偶然、アメリカに移住して2年目だという、シリア難民の女性がいました。私のストーリーに触発された彼女は「自分にも、きっと何かができる」と励まされたそうです。その一言で、私は思わず泣きそうになりました。誰もがさまざまな形で、辛い過去を抱えています。だからこそ、自分の体験をオープンにすることで「辛いのは君ひとりじゃない」と呼びかけたい。それが、生きる希望を見出すきっかけになってくれればと思っています。

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2020 International Folk Music Awards」のセレモニーにて。Ephraimは「ここでの受賞をきっかけに、自分の進む道は間違っていなかったと自信をもてた」と語る。

コンゴの子どもたちのために音楽学校を。

シンガーソングライターとしての活動を始めた頃は、グラミー賞を獲って、あらゆるラジオ局で自分の曲が流れることを夢見ていました。しかし、妻から「グラミー賞を獲ったとして、その後はどうなるの?」と問われ、考え方が変わっていったのです。たしかに物質的な豊かさは大切ですが、今はもっと心身の豊かさを追求したい。自分だけではなく家族みんなの幸せを追求したい。それこそが私の成功です。

3歳のときに避難して以来、残念ながらコンゴには一度も足を踏み入れていません。それでも私にとっては、かけがえのない故郷です。いつの日か私も故郷に帰り、音楽学校を作りたい。今の私があるのは、音楽のおかげです。音楽は自分を表現するツールですし、辛いことを乗り越える支えにもなります。シンガーソングライターとして活動するかたわら、アメリカの子どもたちに音楽を教えてきた経験を生かして、次はコンゴの子どもたちに音楽の素晴らしさを伝えたい。一人ひとりの才能を開花させたい。それが私の夢です。

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夢はコンゴに音楽学校をつくること。20年以上、足を踏み入れていなくても、祖国への思いは変わることはない。

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Ephraim Bugumbaシンガーソングライター
1996年、コンゴ生まれ。3歳のときに故郷のマコボラで大虐殺が起き、難民としてアフリカ各国を転々とする。2012年にアメリカへ移住。2018年に「American Idol」のトップ50に選出されたのを皮切りに、「The 2019 Tiny Desk Contest」ではオリジナル曲「Voices in My Head」で注目を集め、「2019 International Folk Music Awards」では「Spirit of Folk Awards」を受賞。2019年「Class Clown」でデビューし、2020年6月には「Stormz」をリリースする。

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