ロックの力で、より良き世界を。
〈後編〉

かしわ 哲/シンガーソングライター

ロックの肯定感に支えられてきた。

忌野清志郎氏をはじめとする、多くの著名ミュージシャンたちから高く評価されてきたサルサガムテープ。
「このバンドのおかげで自分のロックを完成させられた」と言い切るかしわ哲さんは「共生はあたりまえという意識革命を日本で起こしたい」と意気込みます。

障がいの有無ではなく、音楽そのもので評価されたい。

サルサガムテープを始めた当初は、福祉の世界だけで演奏をしていたのですが、そこに留まっていてはなかなか広まらないから「ライブハウスで演奏しよう!」と提案しました。その途端に「そんなことできるわけがない」と難色を示すのがまわりの人たち。バンドをやるならCDを出すのは当たり前。ライブハウスに出るのも当たり前。なのに「そこまでしなくても……」と冷めているのは、多くのケースで福祉の世界では「そこそこの夢」「そこそこの希望」「そこそこの自己実現」止まりだからです。そのレベルでお茶を濁してしまうなんて、同じ人間であるメンバーたちにも失礼な話です。

ただ、外に出てみると面白いもので反応は真逆でした。外の人の方がサルサガムテープを高く評価してくれるのです。実際、クラブチッタ川崎でライブハウスデビューをした1997年を皮切りに、1999年にはNHKの「みんなのうた」に出演し、「まひるのほし」という楽曲を提供しました。日本のロック界のレジェンド、忌野清志郎さんにラブコールを送ったところ、ジョイントライブも実現。サルサガムテープのことを「ロックの原型」と評価してくださいました。ロックを極めた人たちは、既成概念がなく音楽の良し悪しだけでバンドを見極める。このバンドに偏見がありません。そのあたりはサルサガムテープに参加するキーボーディストのミッキー吉野さんや、元ブルーハーツのドラマー、梶原徹也さんも然り。そもそも音楽そのもので評価されるのが、今後のサルサガムテープが目指すべきところです。

現在、サルサガムテープが拠点とする福祉サービス施設、NPO法人ハイテンションからほど近い音楽スタジオ、サンダースネイク厚木にて。月に2回の頻度でリハーサルを重ねている。

僕のロックンロールは、サルサガムテープで完成した。

僕はサルサガムテープのおかげで、自分のロックンロールを完成させられたと思っています。うたのおにいさんをやっていた頃も、自分の音楽をつくって歌ってはいましたが、ずっと好きで追求してきたロックにおいて自分の表現を見つけられたのだから、このバンドに一番感謝しているのは僕です。メンバーの多くも、このバンドによって大きく成長しました。「前向きになれた」「明るくなれた」「目標ができた」という人もいれば、対人関係が良好になった人、身の回りのことを自分でできるようになった人もいます。

サルサガムテープのメンバーとして演奏をし、お客さんを楽しませることで得られる自信は計り知れません。障害のある人たちだって、みんな誰かの役に立ちたい。まわりに支えられることの多い彼らが、逆にまわりを元気にすることは、ものすごく大きな体験です。さながらこの世界に自分が生きる場所を、自分で獲得したようなもの。彼らが得たものはそれだけではありません。ライブによるチケット収入も分配されています。

このバンドで、日本人に意識革命を起こしたい。

2019年で、サルサガムテープは25周年を迎えます。もはや自分だけのバンドではありません。みんなのロックンロール愛で活動しています。それに25年間続いているのは、まだまだ叶わない夢がたくさんあるからです。現時点では、サルサガムテープを「健常な人と、そうではない人とが一緒にやっているバンド」と見なす人が大多数ですが、本来、社会において共生は当然のこと。取り立てて注目すべきことではありません。僕はこのバンドで「共生は当然」という意識革命を起こしたい。それにサルサガムテープには、日本中から愛されるバンドになってほしい。そうなったときにこそ「日本人の意識革命」が起こると信じています。

ちなみにロックンロールは僕にとって生涯の「支援者」です。多少、道を踏み外しても、決して見捨てず、常に温かく見守ってくれます。10代だった僕に意識の突然変異が訪れてからというもの、ロックンロールはずっと「その生き方でいいよ」と支えてきてくれました。ロックンロールはあらゆる生き方を肯定する存在です。世界を良きものと見る存在です。この肯定感のおかげで、僕には今があると思っています。

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かしわ 哲/シンガーソングライター
NHKの子ども向け番組「おかあさんといっしょ 」の5代目「うたのおにいさん」。童謡「すずめがサンバ」「きみのなまえ」を作詞・作曲。1994年より、知的障がい者らとバンド「サルサガムテープ」を結成。フジロックへの出演、忌野清志郎との共演・共作などで注目される。

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