生物多様性の保全

生物多様性の保護・保全

自然環境の悪化に伴い、生物の多様性が加速度的に失われつつあります。ヤマハグループは、アコースティック楽器や各種製品の原材料として木材を使用するなど、天然資源およびそれらを生み出す多様な生物が関わりあう生態系からの恵みに支えられて事業活動を行っています。こうした森林や生物多様性の保護、保全に取り組むことは、木材使用企業としての責任であると捉え、「ヤマハグループサステナビリティ方針」および「ヤマハグループ環境方針」を定め、生物多様性の損失を止めて回復軌道に乗せる「ネイチャーポジティブ」の実現に向けて、それらに基づいた適切な事業活動、適正な木材活用や環境保全活動を推進しています。

木材資源への取り組み

ヤマハグループが生産しているピアノや弦打楽器、木管楽器など楽器の多くは、主に木材でつくられています。また、音響性能や機能性、デザイン性、質感の良さなどから、電子楽器やスピーカー、防音室など楽器以外の製品にも木材を多く使用しています。

このように、事業活動において多種多様な木材を使用していることを踏まえ、生物多様性や生態系を損ねることなく、貴重な木材資源を持続的に活用していけるよう、ヤマハグループでは「ヤマハグループ木材調達方針」を定めるとともに、「ヤマハサプライヤーCSR行動基準」で木材資源の伐採および取引に際して調達先に順守を要請する事項を明確にしています。これらの方針や行動基準のもと、ヤマハグループでは持続可能な木材調達の実現とともに、再生可能な優れた資源である木材を無駄なく最大限に生かすことを目指しています。

ヤマハグループが使用する木材資源の原産地比率(2025年3月期)

木材購入量原産エリア別比率※1

[グラフ] 木材購入量原産エリア別比率
  • 1 ヤマハブランドではない製品およびOEM/ODM製品を除く

木材デューディリジェンスの推進

木材を持続可能な形で利用し続けるには、森林保全や木材資源量への配慮と、サプライチェーンが経済的にも持続可能であるよう、雇用創出やインフラ整備といったコミュニティーの発展に資することが必要です。ヤマハグループでは、木材デューディリジェンスの仕組みを構築し、購入する木材の原産地や伐採の合法性、資源の持続可能性に関する書類調査を実施し、その結果、リスクが高いと判断された木材については、現地訪問を含む追加調査および木材調達部門やサステナビリティ部門で構成する審査会での審議を通じて、より厳格な合法性などの確認を行っています。

合法性確認を中心とした「低リスク木材」の基準に対しては、2025年3月期に購入した木材の低リスク率は前期の98.2%から向上し98.6%(いずれも体積比率※1)となりました。今後も調査や樹種変更などを通じて低リスク判定100%を目指していきます。また、持続可能性の確認まで含めた「持続可能性に配慮した木材」の基準を、2023年5月に国際的な環境団体Preferred by Nature監修のもと、新たに制定しています。それまでは第三者によって持続可能と判定された認証木材の使用率を拡大することで持続可能な木材利用に取り組んできましたが、樹種によっては認証木材の流通量が少なく、認証木材以外の持続可能性を評価できないことが課題でした。本基準により、非認証木材に対し、デューディリジェンスを通じて持続可能性を客観的に判断するための評価項目・判断基準を定める一方で、書類調査に加えて、東南アジアや中国原産の植林木に対し現地調査を実施することで、持続可能性の評価と判定を進めています。

2025年3月期における持続可能性に配慮した木材使用率は69.5%(うち認証木材56.0%、いずれも体積比率※1)でした(2025年3月期目標:75%)。今後も評価スキルの向上や調査のための要員教育を通じてデューディリジェンスの精度向上と実行体制の拡充を図りながら、サプライヤーと連携し、持続可能性に配慮した木材の利用拡大を進めていきます。

[写真] 木材伐採業者への労働環境調査の様子

木材伐採業者への労働環境調査の様子

[写真] サプライヤーでの木材デューディリジェンスの様子

サプライヤーでの木材デューディリジェンスの様子

原産地コミュニティーと連携した良質材の育成(おとの森活動)

近年資源量の減少や品質の低下から持続性が懸念されている木材。ヤマハでは、高品質で楽器に適した木材を持続的に調達するために、地域社会と一体となって循環型の森林づくりを実現する活動、おとの森活動を、行政や学術機関と連携し国内外で展開しています。

[写真] おとの森活動のロゴマーク

おとの森活動のロゴマーク

①タンザニアでの取り組み(アフリカン・ブラックウッド)

木管楽器の重要な材料であるアフリカン・ブラックウッド(Dalbergia melanoxylon)は、IUCNレッドリストでNear Threatened(準絶滅危惧)に分類されるなど、近年その資源量が減少傾向にあると言われています。ヤマハは2015年より、原産地であるタンザニア連合共和国で同種の生態や森林の管理状態の調査を開始。同樹種を楽器素材として持続的に利用できるビジネスモデルの実現に向け、森林保全と楽器生産、地域コミュニティー開発の観点から、植林技術の導入や土地利用の改善、材料利用技術の開発などを進めています。これらの活動は、国際協力機構(JICA)のBOPビジネス連携事業(2016年~2019年)や林野庁補助事業(2015年、2021年)など、外部機関の事業への採択を受けながら、各研究機関やNGOなどのさまざまな団体と協業しています。

2017年に開始したアフリカン・ブラックウッドの定期的な植林活動には、2025年3月期に新たに1つのコミュニティーが加わり現在4つのコミュニティーが活動に参画。2025年3月期には新たに約9,000本の苗木を植栽、8年間で累計約27,000本(植林地総面積約13.5ha)の植栽規模となりました。これら植栽個体の成長、自生個体群の分布や立地環境データを活用し、現地NGOや地域住民との協働によるアフリカン・ブラックウッドの持続的育成のための森林管理の定着・拡大を進めています。

原産地で伐採されるアフリカン・ブラックウッドの多くは割れや節などの欠点を持ち、楽器利用に適さない未利用材※2として残され、その利活用方法が課題となっています。ヤマハでは、この未利用材の活用技術として木質流動成形技術※3を開発。アフリカン・ブラックウッド木粉を70%の高比率に含んだ複合素材鍵盤を成形し、電子ピアノのコンセプトモデルTORCH『T01』に搭載しました。従来の未利用材を楽器用材として再生し、新たな価値を創出することで原産地コミュニティーへの便益、森林保全のインセンティブ向上を目指しています。

2025年3月期には、この「タンザニアでの森林保全プロジェクト」が「ウッドデザイン賞2024※4」(主催:一般社団法人日本ウッドデザイン協会)を受賞しました。

  • 2 楽器づくりにおいて木材を厳選し加工する過程で発生する不使用材や端材のこと
  • 3 原料木材を流動させることで、材料が持つ音響や触感などの特性を生かしたまま成形する技術
  • 4 木の良さや価値をデザインの力で再構築することを目的として、優れた建築・空間や製品、活動や仕組み、研究などを表彰する2015年に創設された顕彰制度で、当社では初受賞
[写真] 地域コミュニティーと協働で行っている生態調査

地域コミュニティーと協働で行っている生態調査

[写真] 2025年3月期に導入したコミュニティーの苗畑

2025年3月期に導入したコミュニティーの苗畑

②北海道での取り組み(アカエゾマツ)

北海道に自生するアカエゾマツ(Picea glehnii)は、かつてはヤマハのピアノ部材に使われ、北海道ではトドマツやカラマツに次ぐ有用種として造林が続けられてきました。北見市を中心とするオホーツク地域では、北海道全体の約25%のアカエゾマツ人工林資源が存在するとされており、地域を代表する木材として需要拡大が望まれています。ヤマハのピアノ響板を製造している(株)ヤマハミュージッククラフト北海道は、地元遠軽町(北海道紋別郡)とオホーツク総合振興局との三者協定に調印(「オホーツク おとの森」設置に関する協定)、またヤマハ(株)は北海道との包括連携協定を締結しています。これらの協定をきっかけとして、ピアノ響板に使用できる高品質なアカエゾマツの安定供給を再び実現し、「木の文化」を次世代につないでいくことを目指しています。

おとの森活動の「木育※5」活動として2023年より日本国内で開始したワークショップ(カスタネット手作りワークショップ)は、ヤマハ銀座店やヤマハミュージック名古屋店、ヤマハ掛川工場ハーモニープラザ、そして福岡、京都、秋田など各地のイベントで開催しています。2025年3月期には計8回を全国で開催し、200名以上の参加者にカスタネットづくりを体験していただきました。アカエゾマツの間伐材を筆頭に、ピアノ部材に使うイタヤカエデの未利用材など北海道を代表する木を中心に用いて、次世代を担う子どもたちから大人まで、楽器づくりと木を身近に感じてもらえる活動として各地での開催を拡大しています。

この他、大学や研究機関と進めているアカエゾマツ人工林材の成長と材質に関わる共同研究をはじめ、アカエゾマツを楽器に活用する取り組みを始めるなど、現存の人工林や新たな造林地からアカエゾマツ材を楽器用材として育てていくための基礎研究を進めています。

  • 5 木を身近に感じ使うことで、人と木、森との関わりを主体的に考えられる豊かな心を育む取り組みのこと
[写真] 手作りカスタネットとその素材

手作りカスタネットとその素材

[写真] ワークショップの様子

ワークショップの様子

[写真] ワークショップの様子

③インドでの取り組み(インドローズウッド)

インドローズウッド(Dalbergia latifolia)はギターの側板や裏板に使われる重要な楽器用材であり、インド南部を代表する有用木材種の一つです。ヤマハは、2022年よりインド南部のカルナータカ州を中心に森林から原木・楽器用材へとつながる現地のサプライチェーン、および森林における同種の生育、更新を対象とした調査を開始しました。インドでは、国有林での自生の他、民間のコーヒー農園内に日陰樹として残されていたものが伐採され原木として流通しています。しかし、いずれの場も森林内での天然更新が進んでおらず、持続的な資源保全の観点での課題が見られました。そこでインドローズウッドを対象とした現地でのおとの森活動の本格始動に向け、政府関係機関との連携関係の構築を進めています。また、2025年3月期にはNGOや民間企業、現地研究機関との国際的な協力関係の下、植林試験や材料の利用効率の検証を進め、森林保全とコミュニティー開発を両立したパイロット活動の準備を進めています。

[写真] 官営の貯木場に集められたローズウッド丸太と断面

官営の貯木場に集められたローズウッド丸太と断面(右下)

[写真] 現地企業の協力による植林試験の様子

現地企業の協力による植林試験の様子

楽器に使用する木材のサステナビリティを考える『「楽器の木」展』

2022年12月より2025年3月末までヤマハ銀座店にて、楽器を形づくる木に思いを馳せるきっかけの場として、そして、木と長く共生し、サステナブルに楽器を作り続けたいヤマハの想いを知っていただく機会として、楽器に使用する木材についての情報や当社の木材や森林保全への取り組みを紹介し、関連する試作品の展示を行う企画展『「楽器の木」展』を開催しました。さまざまな楽器づくりで発生した未利用材からの「アップサイクル※6」で製作した「アップサイクリングギター」や「サステナブルキーボード」、木の成長過程で現れる個性的な部位をあえて使用した「ダイバーシティクラリネット」を展示。これらは材料の希少性に頼らずに楽器自体の価値を高める研究の一環で生まれたもので、ヤマハが良い楽器を提供し続けるために新たに行った実験的な取り組みを、木の特徴と音の関係性など楽器づくりの中での知られざるコラムや木材の実物展示などとともに、ご紹介しました。今後も別会場での開催や新たな展示も予定しています。

  • 6 捨てられるはずだったものに新しい価値を与え、より高い価値のものに生まれ変わらせること
[写真] 銀座店の展示の様子

銀座店の展示の様子

[写真] 銀座店の展示の様子

木材資源に対する製品の環境配慮

ヤマハグループでは、再生可能な優れた資源である木材を持続的に活用していくために、森林や生態系を損なうことのないよう適正に管理された認証木材や、計画的に植林された産業用途の木材を積極的に導入しています。一方、楽器に適した希少樹種の優れた機能を再現した代替素材の開発にも注力しています。

木材資源に配慮した製品

天然林の保護

製品・サービス 概要 外観
エレキギター『RGX-A2』 天然木に代えて植林材を使用 [写真] エレキギター『RGX-A2』

希少樹種木材の代替

製品・サービス 概要 外観
FRP製音板
『アクースタロン』
マリンバの音板における希少木材の代替 [写真] ガラス繊維強化プラスチック『アクースタロン』
黒檀調天然木 ピアノ黒鍵における黒檀の代替 [写真] 黒檀調天然木
カーボン弓 フェルナンブコ材など希少木材の代替 [写真] カーボン弓

化学物質の使用抑制(A.R.E.※7による木材改質)

製品・サービス 概要 外観
アコースティックバイオリン『YVN500S』アコースティックギター『L』シリーズなど ボディ材をA.R.E.処理することで化学薬品を使用することなく音響特性を改質 [写真] アコースティックバイオリン『YVN500S』、アコースティックギター『L』シリーズなど
ヤマハ銀座ビル内ヤマハホール ステージ床材をA.R.E.処理することで化学薬品を使用することなく音響特性を改質 [写真] ヤマハ銀座ビル内ヤマハホール
  • 7 Acoustic Resonance Enhancement:木材の経年変化と同様の変化を短時間に促進することで音響特性を改質するヤマハ独自開発の技術。温度、湿度、気圧を高精度にコントロールする専用の装置で処理することで、新しい木材をまるで長年使い込まれた楽器のような深みのある音が出る木材へと変化させます。従来の木材改質技術は化学薬品を用いた化学処理的改質方法によるものが多かったのに対し、A.R.E.は、その処理過程で薬剤などを一切使用しない、環境面への負荷が低い技術です

環境保護・保全活動

森林・自然環境の保全

ヤマハグループでは、地域特性に合った天然林の再生、生物多様性の回復などのため、国内外で植林活動などを行い、森林・自然環境の保全に努めています。

インドネシア「ヤマハの森」活動

2005年から2016年にインドネシアにおいて実施した「ヤマハの森」植林活動について、衛星写真による森林の育成状況の確認と森林が吸収したCO2量の推計を実施した結果、2017年までに合計で約42,000tのCO2が吸収されたと見込まれました。その後も年間6,000t超のCO2が吸収され続けていると予想されます。

遠州灘海岸林の再生支援活動

ヤマハは2007年に、静岡県および浜松市と「しずおか未来の森サポーター」協定を締結。以来、浜松市の市有地である遠州灘海岸林の再生支援活動に取り組んでいます。これは、社会貢献活動として森づくり活動を行う企業・団体を「しずおか未来の森サポーター」として認定するもので、当社は松くい虫被害の深刻な海岸林に、継続的に苗木を植える活動を行っています。これまでにヤマモモやウメバヤシ、マサキ、エノキなど合計3,000本以上の植樹をしてきました。近年は、防砂・防風林の機能回復のために樹高が高い松で構成された林の再生に挑戦すべく、松くい虫被害に強いとされている抵抗性クロマツに特化して植樹をしています。

[写真] 植樹イベントの様子(2024年)

植樹イベントの様子(2024年)

[写真] 成長した松の木

成長した松の木

化学物質の対策

ヤマハグループでは、化学物質による環境や生態系への影響を抑止するため、化学物質管理の強化および使用量削減、漏えい対策に取り組んでいます。

水質保全

事業所からの排水によって水域および関連生息地に悪い影響を与えないよう、処理施設の整備およびモニタリング、監査を行っています。

管楽器の生産を行う豊岡工場では、生産工程から出た化学物質を含む排水を無毒化処理して河川に放流しています。そこで、工場排水の生態系影響評価を実施して、工場排水の影響を、生物応答を利用した「WET手法※8」を用いて評価し、生態系への影響がほとんどないことを確認しています。

  • 8 Whole Effluent Toxicity (全排水毒性試験)。希釈した排水の中で、藻類・ミジンコ類・魚類の水生生物の生存、成長、生殖に与える影響を測定し、工場・事業場からの排水全体が生態系に対して有毒かどうかを評価する排水管理手法

TCFD、TNFDへの対応