部門の枠を超えて磨く、ヤマハの品質──「お客様目線」に立ち返るホルン製造の現場から
ヤマハは、楽器をつくる工程の一つひとつが、最終的に演奏者の表現につながっていると考えています。
その思いを現場で共有するため、製造・開発・品質保証・営業といった部門の枠を超えた学びと対話の場づくりを続けてきました。
今回ご紹介するのは、ホルン製造に関わる約100名が参加した取り組みです。
品質と増産という難しいテーマに向き合いながら、「お客様目線」に立ち返ることで、現場の意識と行動をそろえていきました。
「この作業は、何のためにあるのか」
取り組みのきっかけは、「何のために作業基準があるのか、実感しにくい」という生産現場の率直な声でした。
管楽器やピアノは、多くの部品が正しく加工・組み立てられてはじめて品質が成り立ちます。しかし、部品加工や素材成形など、製品づくりの最初の工程(前工程)に携わる人ほど、完成した楽器やその先のお客様とのつながりを感じる機会は限られていました。
こうした問題意識から、ヤマハでは現場の一人ひとりが「お客様目線」に立ち返り、自分の仕事と品質との関係を見つめ直す機会として、2022年から「お客様目線気づき体験会」に取り組んでいます。
この取り組みは、まずピアノ製造の現場から始まりました。
体験会では、完成したピアノに直接触れ、実際に音を感じながら、「この音は、どの工程で、どの作業によって支えられているのか」を一つひとつ確かめていきます。
前工程のメンバーにとっては、普段接することの少ない完成品や演奏の場面を体験する時間となり、「自分の作業が、最終的にどんな音や表現につながっているのか」を具体的に想像できるようになりました。
「なぜこの基準があるのか」「この作業は、誰のためのものなのか」。
そうした問いを、体験と対話を通じて共有することで、品質を考え続け、磨き続けるものとして捉え直す土台が、現場の中に育まれていきました。
問いは、別の現場へ──ホルン製造現場での実践
ピアノ製造の現場から始まった「お客様目線に立ち返る」という考え方は、その後、トランペットやサックスといった別の楽器の現場へと広がっています。
2025年には、ホルンの生産体制を改善し、増産を目指すプロジェクトと連携して実施されました。その時掲げた一日当たりの生産目標台数は、当時の生産量を大きく上回るもの。だからこそ、「ホルンに携わる全員で乗り越える」という意識づくりが欠かせませんでした。
体験会は、知識を深める座学と、対話を重ねる交流の2部構成で行われました。
学ぶ:ホルンを“知る”ことで、品質を実感する
前半の勉強会では、ホルンの開発者が、ホルンの音がどのように生まれるのか、どんな部品が使われているのかを、実演を交えながら解説しました。一つひとつの部品が、音色や吹奏感にどう関わるのか。完成品からさかのぼって理解することで、自分の仕事の意味が具体的に見えてきます。
また、営業やサービスの立場からは、「待ってでもヤマハのホルンを選びたい」というお客様の声や市場の状況も紹介されました。楽器をつくる仕事が、誰のどんな期待につながっているのか。現場にとって、それを知る時間となりました。
対話する:工程を越えて、品質をすり合わせる
勉強会をきっかけに、「ホルン以外の金管楽器では、同様の部品を扱う工程や関係者がどう考えて仕事をしているのかを知りたい」という声が上がり、工程や要素ごとの座談会も行われました。
生産・開発・品質保証のメンバーが集い、それぞれの悩みや工夫、難しさを率直に共有。さらに、楽器の外観品質をどう判断するかという社内基準についても、品質保証担当者が「品質はどこから生まれるのか」という視点から解説。実物を使いながら理解を深めました。
見て、知る:他工程を訪ねる相互見学
後半では、部品単位で製造している工程から接合や表面処理の工程および最終組付け調整工程を相互に見学しました。
普段は立ち入らない工程を自分の目で見ることで、前後工程への理解が深まり、期待や配慮のポイントも自然と共有されていきます。
工程を越えた対話は、作業と品質、そしてお客様とのつながりを、より具体的なものにし、参加者から、「自分の仕事が、世界のどこかで誰かの音楽体験につながっていると実感できた」、「他工程の考えや苦労を知り、仕事の見方が変わった」といった声が聞かれました。
こうした学びと対話を積み重ねたことで、品質を妥協することなくホルンの生産体制を立て直し、高く掲げた一日あたりの生産台数目標の達成という、目に見える結果を得ることもできました。
相互工程見学の様子
現場の力を、未来へつなぐ
本取り組みを提案した担当者は、こう振り返ります。
「対話の場を重ねることで、学びに自ら参加しようとする風土が育ってきました。説明する側にとっても、工程を言葉にすることで次世代の育成につながっています」
また、運営を担ったメンバーは、「今後も部門や製品を越えて、こうした学びを広げていきます。現場の対話が、品質をつくり込む力になると感じています」と話します。
お客様の期待に応え続けるために
ヤマハは、製品や部門の枠を超えた対話を通じて、「品質」の意味を現場で問い続けてきました。
一人ひとりの仕事が演奏者の音楽体験につながっている──その実感を大切にしながら、これからもお客様の期待に応え続けていきます。