[ サムネイル ] 『感性を研ぎすます、至高の音の探求』 #3

『感性を研ぎすます、至高の音の探求』

#3 作り手と使い手の、「感性」のこれから

2023年9月13日

ヤマハのピアノ開発の挑戦を受け継ぎ、「奏者とピアノが一体になり、意のままに謳い奏でる」という境地にたどり着いた最高峰のコンサートグランドピアノ「CFX」。ヤマハの技術と感性を結集して圧倒的な音質を実現した、音楽に没入するためのヘッドホン「YH-5000SE」。二つのプロジェクトには、至高の音を探求する「作り手の感性」と、これまでにない体験を求め続ける「使い手の感性」をともに研ぎすませるという共通点がある。至高の音を通して人々に特別な時間を提供し、その感性と創造性を高めること――それが、この二つのストーリーに共通する「Key」である。

『感性を研ぎすます、至高の音の探求』(全3回)

#1 「一体感」というピアノの新しい可能性

#2 音楽に没頭できるヘッドホン

徹底的なこだわりが、圧倒的な音を生む

良い音を届けるためには、「良い音とはなにか?」を判断しなければいけない。CFXとYH-5000SEの開発に携わった担当者たちは、「至高の音」を探求する過程で自身の感性が鍛えられたと語る。

「良い音に対する自分自身の判断軸がアップデートされました」。こう話すのは、CFXの開発に携わった野坂陽一だ。ピアニストが求める音を知るために多くのアーティストと会話するなかで、あるいはインスピレーションを求めてさまざまな演奏会に足を運ぶことを通じて、野坂は「良い音が変化し続ける感覚」を味わえるようになった。「特別なことではなく、日々、いままでとは違う音の聴こえ方がすると気づく瞬間があるんです」(野坂)。

[ サムネイル ] 楽器事業本部 FPグループ 野坂陽一
楽器事業本部 FPグループ 野坂陽一

一方、YH-5000SEの機構・筐体設計を担当した小林力は、音響設計を担当する波多野亮の仕事を隣で見ていて、その音へのこだわりに驚いたと振り返る。「音響担当ではない自分には『ほぼ仕上がっている』と思える音でも、波多野は『ここが足りない』『あれが足りない』と妥協することなく理想の音を突き詰めていました。そういう緻密なこだわりがあるから、世の中で評価していただける製品が生まれたんだなと実感しています」(小林)。

[ サムネイル ] クリエイター&コンシューマーオーディオ事業部 商品開発部 HP・EPグループの波多野 亮(左)と小林 力(右)
クリエイター&コンシューマーオーディオ事業部 商品開発部 HP・EPグループの波多野 亮(左)と小林 力(右)

野坂や波多野らが感性を研ぎすませて開発した二つの製品は、使い手にも新しい発見をもたらすことになる。例えば、これまで何万回と演奏されてきたであろうクラシック音楽の楽曲も、CFXで奏でればそこに新たな表現を加えることができる。

CFXの開発を率いた堀田哲夫は言う。「CFXで弾けば、ちょっとした転調でもコントラストが強くなる。そうすることで、感じられる感情の起伏もより大きくなります。私たちが目指したのは、そうしたいままでどんなピアノでも引き出せなかった楽曲の魅力を、われわれのCFXで引き出すことなのです」(堀田)。

[ サムネイル ] 楽器事業本部 FPグループ 堀田哲夫
楽器事業本部 FPグループ 堀田哲夫

同じように、圧倒的な音質を実現したYH-5000SEも、聴き手がすでに慣れ親しんでいる曲に新たな息吹を吹き込むことを目指している。何度も聴いてきたお気に入りの曲の「隠れていた音の魅力」。YH-5000SEを身に着けた人がそんな新しい気づきに出会ってくれれば、これ以上うれしいことはないと、開発を担当した波多野と小林は語る。

至高の音で、至福の時間を

突き詰められた音が可能にする音楽への没入体験は、ただ「良い音楽を聴く」という体験にとどまらず、忙しい日常とは異なる特別な時間を味わわせてくれる。

「いまの世界は変化が激しく、流行もどんどん変わり、あくせく過ごしている感覚がすごく強いと思います。そうしたなかでも、音楽を聴く時はゆったりした気分を味わえる。例えば、楽しみに待ち続けた2時間のコンサート。人々はアーティストが奏でる音楽に集中し、普段とは違う感覚で過ごせると思うんです。CFXもそういう、いつもと異なる特別な時間を提供する存在でありたいですね」(野坂)

クラシック音楽のコンサートはハードルが高いという人もいるだろう。しかし野坂は、例えば普段着で出かけるクラシックコンサートのように、「日常の中に音楽が息づく世界」をつくりたいと思っている。そうすれば、人々はもっと自分の感性に栄養を与える時間を持てるようになるのではないか。

野坂が言うように、現代人は効率的・生産的に時間を過ごしがちだ。だが、すべて効率重視で生きていくことは果たして幸せなのだろうか?

小林は問う。「それよりも、一見、意味のないと思える時間に経験したことが、その後どこかでなにかの役に立つことがあるかもしれない。音楽を1時間ただ聴くのもいい。そうやってなにかに追い立てられないで、自分自身をあえて空っぽにする時間をつくった方が、豊かな感性を育むことにつながると思います」(小林)。

YH-5000SEは、まさにそういう「追い立てられない時間」を提供する製品だ。実際、小林は試作品で音楽を聴いた時、その音質や着け心地のよさに「何時間でも聴いていられる」と思った。良い音で好きな音楽を聴いていたら、いつの間にか長い時間が過ぎてしまっていた──そんな没入体験を、YH-5000SEは日々忙しく過ごす現代人に届けようとしている。

正解がひとつと限らないものへの深い共感

良い音を届けるために、良い製品をつくるために、自らの感性を磨く。そのために、CFXとYH-5000SEの開発者たちは日々、どんなことを大切にし、どんなふうにこころ豊かなくらしを送っているのだろう?

波多野は「パーソナルなもの」に触れることから影響を受け、心を動かされていると語る。

「作り手の個性が色濃く出ているものや、あまり商業的になっていないもの。極端な例ですが、畑の脇に設置された、野菜を売るための小屋などは、『誰かが自分で手を動かしてつくったもの』と感じられた時に、ぐっと来ることがあるんですよね。YH-5000SEも、一緒に取り組んだデザイナーがいなければ完成できなかったし、私や小林を含め、携わる人が違えば、このカタチにはならなかったと思います。こうした作り手のパーソナリティーが詰まっていることが、僕はものづくりの本質だと思いますね」(波多野)

波多野が述べた「パーソナルなものに触れられる世界」は、一人ひとりが好きなものを好きと言える「優劣のない世界」ということもできるだろう。正解がひとつしかない世界は息苦しい、と堀田は言う。「そうではなく、簡単に優劣がつけられない世界の中でこそ生まれるクリエイティビティーや自己表現を大事にしていきたいのです」(堀田)。

ひとつの正解にとらわれることなく、すべての人が自らの感性を磨き、自らを表現していけば、世の中はきっともっと色鮮やかになる。CFXもYH-5000SEも、至高の音を通して一人ひとりの多様な感性を育む製品だ。「そうやって自らの感性を育むことに、世の中の人々が余裕を持って身を投じられるような世界が、こころ豊かな世界ではないでしょうか」(堀田)。

(取材:2023年6月)

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