一人ひとりの違いが響き合う組織へ DE&I推進の現場から見えた挑戦と支え
ヤマハ人事部でDE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)を推進するメンバーに話を聞きました。異なるキャリアを歩んできた二人が、人事として組織と個人の関係性にどう向き合い、どのような環境をつくろうとしているのか。「人や組織が挑戦できる状態をつくる」と語る二人の想いに迫ります。
- 本インタビュー記事は、株式会社Cradleのコーポレートサイト用に制作された内容を、当社サイト用に再編集したものです。
現在の立場とミッションについて
【Q】現在の担当領域や、組織内での役割を教えてください
藤原:人事戦略企画グループの中で、DE&Iの推進を担当しています。人事の中でも、いわゆる採用や制度運用といった領域だけではなくて、もう少し横断的に、組織全体を見ながら動く役割だと認識しています。
もともと人事の中でもいくつか機能が分かれていて、採用や配置といったいわゆる「攻め」の部分を担う組織もあれば、制度やコンプライアンスのような「守り」の機能もあります。その中で、私たちのグループはどちらかというと「人材開発」や「組織開発」に近い立ち位置で、会社全体としてどう人を活かしていくか、というテーマに向き合っています。
ここ数年で組織の役割自体も変化していて、これまでの全体管理を中心に効率的な運営を目指す人事から、戦略的に人や組織の力を引き出し、組織貢献に結び付ける人事へと転換を図っている段階で、人材開発・組織開発やDE&Iといったテーマが重なってきています。
会社としても新しい領域に踏み込んでいる途中だと感じていますし、その中で試行錯誤しながら役割を広げている感覚があります。
劉:私も同じグループでDE&Iの推進を担当していますが、キャリアとしては少し違っていて、もともとはカスタマーサービスやマーケティングといった現場寄りの仕事を経験してきました。
その後、LGBTQ+のイベントに関わる機会があって、そこで「自分らしさを解放している状態」を目の当たりにしました。普段の生活ではなかなか見えない姿というか、こんなに自然に自分を出していいんだと感じた経験があって。
そこから、自分自身もそうですし、周りの人たちも含めて、もっとありのままの自分でいられる状態を支えたいと思うようになり、人事の領域に関わるようになりました。
【Q】自身の中で「人事としてのミッション」はどう捉えていますか?
藤原:自律的に挑戦できる状態をつくることだと考えています。よく「挑戦しよう」とか「チャレンジが大事だ」と言われると思うのですが、それを一人で背負って実行するのは難しいと思います。
スポーツの世界でいうと、トップレベルの選手であっても必ずコーチやサポートチームがいますよね。あれだけの実力がある人でも、一人ではなくて、周囲に支えられながら最大の力を発揮している。ビジネスの世界でも同じで、本来は誰かが伴走することで挑戦が成立するはずだと思っています。
なので、人事としては「頑張れ」と言うだけではなくて、その人が挑戦できる状態をどうつくるか、どう支えるかというところに責任があると感じています。
劉:私はどちらかというと、日々の中で一人ひとりが感じている小さな苦しみに目が向くことが多いです。
例えば、周りに合わせなければいけないとか、自分の考えを出しにくいとか、そういう小さな違和感や我慢が積み重なっていくと、その人らしさがどんどん失われていってしまうと思っています。
本当は、一人ひとりがそのままで力を発揮できる状態が理想だと思っていて。そのためには、そういった小さな苦しみを少しずつ取り除いていくことが必要なんじゃないかと感じています。
藤原:おっしゃる通りで、「挑戦できる状態をつくる」というのも、結局はそういう日々の小さな違和感をどう減らしていくかという話につながっていると思います。大きな制度や仕組みももちろん大事なんですが、それ以上に、一人ひとりがどう感じているか、どういう状態に置かれているかをちゃんと見ていくことが重要なんだと、改めて感じています。
いま、考えている問い・違和感
【Q】最近、自身の中で引っかかっている問いやモヤモヤがあれば教えてください
藤原:私たちの会社の中には、部門ごとに異なる文化やルールがあります。時に「中小企業の集まりのようだ」と例えられることもあります。
それぞれの領域に歴史や積み重ねがあり、それ自体はとても価値のあるものだと思っています。ただ、そうした暗黙の空気の中では、たとえ違和感を持っていたとしても、それを表に出すことが難しくなっている場面もあるのではないかと感じています。
これまで培ってきたものを大切にすると同時に、成長していくためにその違和感をどのように活かしていくのか。このバランスをどう実現していくのかについては、今も模索しているところです。
劉:私は人事部に来てから、個別に相談を受けることが増えたのですが、話を聞く以外、現時点で解決策を提示できないケースもあり、もどかしさを感じています。
【Q】それはどんな出来事や背景から感じるようになりましたか?
藤原:部門ごとの違いを感じる場面は、日常の中でもよくあります。例えば、同じものを見ていても、表現の仕方がまったく違うことがあります。ある部門では「丸い音」と表現されるものが、別の部門では全く違う言葉で表現されていたりして、お互いに何を言っているのか分からない、ということも起きています。
それはヤマハらしい面白さでもあると思っています。
多様な感性があるからこそ生まれる価値も大きい。一方で、その違いがあるからこそ、理解し合うことが難しくなる場面もある。その両方をどう扱っていくのかは、簡単ではないと感じています。
劉:私は、セミナーやイベントの後のやり取りやアンケートが印象に残っています。コンテンツに対するポジティブな声が多い一方で、中には特殊な状況に置かれている方もいて、一般的な解決策に当てはまらないケースもあります。
DE&Iは社会的にマイノリティの方に着目していますが、知れば知るほど、「まだ名前のついていないマイノリティ」の存在に気づき、その方々にも手を差し伸べる方法はないか日々考えています。
組織カルチャーや風土について
【Q】今の組織をどんな文化だと感じていますか?
藤原:それぞれの部門ごとに、文化やルールがある組織だと感じています。専門性が高い分、その領域の中で培われてきた価値観ややり方がしっかり根付いている印象があります。それ自体はすごく強みだと思っていて、その積み重ねがあるからこそ、今の事業やプロダクトが成り立っているとも感じています。
一方で、その文化がしっかりしているからこそ、部門間とのつながりが生まれにくくなる場面もあるのかなと思うことがあります。どちらかが良い悪いというよりは、その両面がある状態だと捉えています。
劉:そうですね。ただ、その多様性が必ずしも交わっているわけではないというか、それぞれがそれぞれの場所で成立している状態に近いのかなとも感じています。なので、多様ではあるけれど、それがまだつながりきっていない状態、というのが今の印象です。
【Q】「ここを変えていきたい」「ここは大事にしたい」と思っている点はありますか?
藤原:今ある文化や専門性は、そのまま大事にしたいと思っています。長い時間をかけて培われてきたものなので、簡単に変えるべきものではないとも感じています。その上で、もう少し領域を越えてつながれる状態にはしていきたいです。
完全に一つになる必要はないと思っていますが、お互いの違いを理解した上で、普段からゆるやかにつながりながら、必要なときに活きる関係性が理想だと考えています。
劉:私も違いがあることを前提にした関わり方ができるようになることが大事だと思っています。自分とは違う状況にいる人がいる、ということを想像できるだけでも、関わり方は変わると思っていて。その前提が少しずつ広がっていくと、無理に合わせなくても一緒に働ける状態に近づくのかなと感じています。
実際の取り組み事例について
【Q】現在、組織やチームで取り組んでいる施策や制度について教えてください
劉:いくつか取り組みはあるのですが、例えば介護に関するセミナーや、LGBTQ+に関する取り組み、社内外のイベントなどを実施しています。実際に取り組みを進める中で感じているのは、こういったテーマが「特定の誰かのためのもの」と受け取られてしまう難しさです。
関心がある人には届くのですが、そうでない人にはなかなか広がっていかないという感覚がありました。
その中で、できるだけ多くの人にとって「自分にも関係がある」と思ってもらえるテーマや伝え方を意識するようになりました。
藤原:取り組みとしても、社内だけで完結させるのではなく、外部との接点を持つことは意識しています。
外に出て普段とは異なる人やモノ、コトに触れ、感性を通じて感じたり、意見を交わしたりすることで、理解の深さが変わると感じています。
知識として知ることと、体感することの間にはやはり差があるので、その両方をどう設計するかは大事にしています。そうした取り組みの一環として、外部との接点を通じた個人・組織の成長を目的に、2026年3月10日に横浜で開催されたInternational Women's Day Leadership Forum 2026に、経営陣や部門統括者が参加しました。
ワークショップや多様な参加者との対話を通じて、異なる立場やバックグラウンドの視点に触れながら、これからのリーダーシップや組織のあり方を考える機会となりました。
またヤマハとして分科会を主催し、「ライフイベントがあっても自分らしく活躍し続けるために、個人や組織に何ができるか」をテーマに、感性を通じて体験できるワークショップを実施しました。私たちも外部からの知識や知見を受け取るだけでなく、ヤマハだからこそできる取り組みを社会と共有しながら、価値として還元していきたいと考えています。
【Q】その取り組みの背景や目的、設計にあたって大事にしたことは?
劉:DE&Iの取り組みは、どうしても「自分には関係ない」と感じられてしまうことがあります。例えば、女性活躍の取り組みなども、当事者ではない人にとっては距離を感じてしまうことがあって。
その結果として、メッセージが届きにくくなってしまうこともあります。そういった経験もあって、介護は「誰もが当事者になり得るテーマ」の一つで、年齢や立場に関係なく、多くの人に関わる可能性があるテーマだと思っています。
藤原:設計の観点でいうと、「知る」で終わらせないことは意識しています。情報として理解することは大事ですが、それだけだと自分ごとにはなりにくいと感じています。実際に体験したり、具体的なイメージを持てるようにすることで、初めて理解が深まる部分もあると思っています。
【Q】社内の反応や効果、工夫した点について
劉:介護セミナーについては、想定以上に参加者が多かったのが印象的でした。ここまで関心があるテーマだとは思っていなかったので、それ自体が一つの気づきでした。
内容としても、これまでの常識とは少し違う情報も多くて、例えば「家族だけで抱え込まなくていい」といった話もありました。そういった考え方に触れることで、少し視点が変わったという声もありました。その中で、繰り返し伝えていたのが「まずは相談することが大事」という点です。何から始めればいいか分からなくても、相談先を知っているだけで行動のハードルは下がると思っています。
藤原:イベントの設計としても、できるだけ間口を広げることは意識しています。最初から関心が高い人だけではなくて、少し興味がある程度の人でも入りやすいようにしたり、別の目的で参加した人が結果的に知るきっかけになるような導線をつくったりしています。
劉:実際に、そこまで関心が高くなかった人が参加して、その場で初めて知るというケースも多いと感じています。そういった入り口をどうつくるかは、これからも考えていきたいです。
藤原:イベントをきっかけに、声をかけていただく機会も少しずつ増えてきています。それが次の対話につながっている実感もあります。
小さな変化の兆しについて
【Q】日々の中で「これは文化が育っているかもしれない」と感じた出来事があれば教えてください
劉:DE&Iに対する捉え方がほんの少しずつですが、変わってきているかもしれません。これまでは、どちらかというと「特定の人のためのもの」という受け止められ方が多かったと思うのですが、介護セミナーを通して、「自分にも起こり得ること」として受け止めてもらえる機会が増えてきました。
藤原:そうですね。誰か特定の人の話ではなくて、「誰もが当事者になり得る」という前提が少しずつ広がってきている感覚はあります。それによって、これまで関心がなかった人が話を聞いてくれたり、自分のこととして考え始めてくれたりする変化は感じています。
劉:イベントの後に声をかけていただくこともありましたので、それも一つの変化だと思っています。
それまではなかなか表に出てこなかった話が、少しずつ言葉として出てくるようになってきていると感じました。
【Q】それに気づいた瞬間、どんな感情や考えがありましたか?
劉:嬉しかったですね。ただ同時に、まだほんの一部なので、これからより多くの方に届いたらいいなと思います。
藤原:私も同じで、手応えは感じつつも、まだ途中だなという感覚です。文化として根付くには時間がかかると思っていますし、一度の取り組みで変わるものでもないと思っています。だからこそ、継続していくことの大事さを改めて感じています。
越えようとしている壁や葛藤
【Q】組織文化や価値観に関して、難しさや葛藤を感じている部分があれば教えてください
劉:人事として関わる中で、できることの限界を感じる場面はあります。相談を受ける中には、制度や仕組みで対応できるものもあれば、そうではないものもあります。
話を聞いても、すぐに状況を変えられるわけではないケースも多く、その点に対しては難しさを感じることがあります。力になりたい気持ちが強いものの、現実としてできることには制約がある。その両方を感じながら向き合っている状態です。
藤原:組織としての構造上、すぐに変えられないことがあるという点は大きいと思います。関係者も多く、影響範囲も広いため、一つの判断で大きく動かせるものばかりではありません。その中で個別の課題に向き合うと、どうしても対応の難しさを感じる場面はあります。
劉:特に、個人として大きな負担や悩みを抱えている方の話を聞いたときに、どこまで関わることができるのかという点は考えさせられます。必要に応じて担当部署につないだり、制度を案内したりすることはできますが、それだけで解決するわけではないことも多く、もどかしさを感じることはあります。
【Q】それをどう乗り越えようとしているか、周囲の支えや工夫などがあれば
劉:今すぐ解決できないことも多いのですが、だからこそ大切なのは「私たちはあなたの味方だ」ということを伝えることだと思っていて、相談してくれた方の心の支えに少しでもなるよう、真摯に傾聴し、誠実に受け止めることを心がけています。そのうえで、周りのサポートを借りて、できることの最善を尽くしています。
藤原:私も、自分一人で解決しようとしないことは意識しています。その場で答えを出すことだけでなく、適切な人や仕組みにつなぐことも一つの役割だと考えていますし、その方が結果として継続的な支援につながることも多いと感じています。あわせて、そもそも一人で抱え込まなくてよい状態をどうつくるか、という視点も重要だと思っています。
これから育てていきたいもの
【Q】今後、組織として・自身として、どんなウェルビーイングを育てていきたいですか?
藤原:特別なことを新しくつくるというよりは、今ある違和感や課題にしっかり向き合い続けることが、そのままウェルビーイングにつながっていくのではないかと考えています。一人ひとりが無理をせずに働けることや、自分らしくいられる状態が少しずつ広がっていくことが理想です。その人だけの課題として閉じるのではなく、組織としても受け止められていく状態をつくっていきたいと思っています。
劉:私も近い感覚で、理想の状態を一気につくるというよりは、日々の中で感じている小さな違和感や苦しさをそのままにしないことが大事だと思っています。そういったものを少しずつ取り除いていくことで、その人らしくいられる状態が結果的に広がっていくのではないかと感じています。
【Q】そのためにこれからチャレンジしてみたいことや、大事にしたい価値観があれば教えてください
藤原:理解を広げる方法として、知識だけでなく体験を通じた気づきをどう増やしていくかは、これからの重要なテーマだと考えています。実際に自分で感じたことの方が行動にもつながりやすいと思うので、そういった機会をどう設計していくかを大事にしていきたいです。
劉:これまではどちらかというと課題や苦しさに目を向けることが多かったのですが、それだけではなくて、温かさやつながりのような側面も含めて伝えていきたいと思っています。課題を知ることに加えて、「こういう関わり方もある」と感じられるような体験があることで、より自然に受け止めてもらえるのではないかと考えています。
インタビュイー
藤原 舞
ヤマハ株式会社 人事部人事戦略企画グループ 主幹
2007年、ヤマハ株式会社に新卒入社。研究開発部門にて感性工学の技術開発やマネジメントに従事。2019年の育児休業中に組織開発を学んだことを契機に、キャリアの軸を人と組織の成長支援へと広げ、技術開発と組織開発の両面から研究の推進に携わる。2025年より、人事部門にて全社の組織開発を担当。技術者としてのバックグラウンドを生かしながら、ヤマハならではのDE&I推進をリード。誰もが自分らしく能力を発揮し、挑戦と安心を両立できる組織づくりに取り組んでいる。
劉 柔逸
ヤマハ株式会社 人事部人事戦略企画グループ 主事
2019年、ヤマハ株式会社に新卒入社。品質保証部門とマーケティング部門でカスタマーサクセスの担当。2023年に日本最大級のLGBTQ⁺のイベント「東京プライド」への参画をきっかけに、一人ひとりの自分らしさを後押しするDE&I推進の仕事への関心が高まる。2025年に社内公募制度を活用し人事・総務部に異動し、DE&I推進を担当。従業員を含め、世の中の人々が「誰もが自分らしく生きられる世界をともに創る」ことをモットーに、DE&I推進に取り組んでいる。
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