アカエゾマツ
厳寒の中、かつてはピアノ響板に使える高品質でまっすぐな木が多く育っていた北海道オホーツク地方で、
もう一度国産の響板を使ったピアノづくりの実現を目指す、日本ならではのおとの森活動を展開しています。
アカエゾマツ Sakhalin Spruce
学名:Picea glehnii
北海道に古くから自生する、トウヒ属の一種です。かつて、日本で製造されるピアノの響板にはアカエゾマツが活用されていました。黄白色で年輪が整った材面で、軽く、弾性率が高い特徴は、楽器の中でも振動を伝える役割を担う部材に適しています。しかし、1990年代に入り、それまでの大径の天然林材が姿を消し、アカエゾマツが使われていたピアノ部品にはヨーロッパスプルース(Picea abies)やシトカスプルース(Picea sitchensis)が使われるようになりました。
アカエゾマツはトドマツ、カラマツに次ぐ北海道の主要造林種であり、北見市周辺のオホーツク地域を中心に多くの人工林が存在します。近縁のクロエゾマツ(Picea jezoensis)と比較して苗木の活着が良く、造林が比較的容易であるとされています。しかし、枝が落ちにくく節が多い、トドマツやカラマツよりも成長が遅いという特徴から、人工林材の用途は乏しく、一部の建材やパルプ材としての流通に留まっています。
プロジェクトの概要
アカエゾマツをピアノにもう一度……北海道のオホーツク地域にある「遠軽町」の人々の想いからプロジェクトが始まりました。北海道全体の約25%のアカエゾマツ人工林の蓄積があるオホーツク地域を中心に、地域行政や研究機関と連携して、アカエゾマツの使い方と未来に向けた育て方を考えた地域共創のサステナブルなものづくりを目指すプロジェクトです。
プロジェクト対象地域
北海道 オホーツク地域(北見市、紋別郡遠軽町、滝上町など)
人工林材の課題
アカエゾマツ人工林は北海道内で約3,100万m3の蓄積があると言われていますが、多くが40~55年生、直径25 cm程度の小径木です。樹木としては若く、小径木は広い材面を取ることができず、落枝前のものも多いので製材すると節や割れが多くなります。このような節や割れの多い材は、優れた音響特性を必要とする部材には不向きです。また、人工林特有の課題として、間伐による年輪幅のバラつきなどが挙げられます。
ポテンシャルを活かすために
ヨーロッパスプルースなど海外の良質なスプルースは、200年、300年と森林で育ったものが伐採されています。それに比べてアカエゾマツ人工林は歴史が浅く、今後50年、100年と育てることができれば十分に楽器用材として使える可能性を秘めています。100年先まで育てるためには、まず今の人工林材の使い道を作ることが必要です。小径材であっても製品にできる木材加工、利用技術をつくり、アカエゾマツの失われた価値を取り戻しながら、人工林を育てる意味を考えていかなければなりません。
「オホーツクおとの森」の設置に関する協定
ヤマハミュージッククラフト北海道(旧 北見木材株式会社)がある遠軽町は、アカエゾマツの産地として栄えた場所です。2016年に遠軽町、オホーツク総合振興局、北見木材で締結した3者協定がプロジェクトの原点です。3者協定では、オホーツク管内の道有林や町有林に「オホーツクおとの森」を設置することの他、人工林材の高付加価値化の推進や需要拡大、木育活動の推進など、産官連携による取り組みが期待されています。
北海道とヤマハの包括連携協定
北海道とヤマハは、サステナブルな森林の育成と利活用、次世代人材育成や音楽文化普及、環境保全について協働することを目的に2021年に包括連携協定を締結しました。アカエゾマツだけでなく、北海道内にはイタヤカエデやメジロカバなど、楽器用材として重要な樹木があります。森林や木のことを考えたサステナブルなものづくりへの取り組みは、まだ始まったばかりです。