当社は2017年に指名委員会等設置会社に移行して以来、社外取締役が過半数となる体制で監督機能を強化してきました。2021年6月の株主総会をもって社外取締役が1名加わり、社内出身の取締役2名に対し社外取締役は従来の6名(2020年6月までの体制と同様)となりました。取締役会の実効性評価は毎年外部専門家を入れて行っており、抽出された課題に対する改善を取締役会で約束し、翌年はそこにフォーカスして実行しているので、毎年着実に改善しています。
2020年に設けた監査役員という仕組みは、監査委員からも前向きに評価していただいており手応えを得ています。当社の監査委員会は、客観性を向上させ監査機能をより強化するために独立社外取締役のみで構成していますが、常勤監査委員がいないことで情報収集の面で難点がありました。そこで、監査委員会の手足となりながら、かつての監査役の権威も有する立場として、執行役とも執行役員とも異なる監査役員を新設しました。監査委員からは内部監査部のさらなる強化の提言があり、人員や的確な人材を拡充させています。
加えて、次期後継者および次世代経営者の育成もガバナンスにおける重要なテーマと認識しています。指名委員会では、次期後継者の候補人材をピックアップし評価する仕組みや、客観視するために外部機関への委託を設けて360度評価を行う仕組みを作り、その評価データを蓄積し共有できるようにしました。人材プールは、経営者の次は執行役員クラスなどと順に層を広げており、現在は若手層も社外取締役に評価してもらう段階まで来ています。また、取締役会では、次世代育成プログラムを実施しており、将来の候補人材との議論や対話の場を設けています。次世代経営者には、優れたリーダーシップやグローバル感覚など一般的に求められる素質も要求されますが、それに加えてヤマハらしさを理解できているかどうかも重視していきます。
リスクマネジメントについては、リスクを分類したリスクマップを作り、現時点でどれだけ対応できているかを数値化して優先順位付けを行っています。リスクマップは毎年見直しを行っており、2021年3月期は調達リスクのレベルの引き上げなどの改定を行いました。これまでは部材調達は当然のようにできていたため損害規模も発生頻度も「小」と見なしていたのですが、COVID-19でサプライチェーンのレジリエンシーの重要性をこれまで以上に痛感し、損害規模は「大」として位置付けました。
また、コンプライアンスも重要なテーマだと捉えています。当社はハラスメントなどのコンプライアンス違反を決して許さないというメッセージを私から何度も発信し、従業員一人一人のマインドセットから組織風土を醸成すると同時に、強固な体制づくりにも取り組んでいます。ウェブコンテンツによる啓発活動や外部相談窓口の拡充など、国内での取り組みは着実に進んでおり、グローバルでも内部通報窓口の設置が完了し、今後はヘルプラインの周知啓発、マニュアルの整備、継続的な従業員教育など愚直に改善を進めていきます。従業員とのエンゲージメントはますます重要になる現中計の最終年度として、また次の中計のスタートに向けて、2022年3月期に私が特に大切にしたいと考えていることが2つあります。一つは先に申し上げた、サステナビリティ意識の社内全体への浸透です。そしてもう一つは、従業員同士が想いを素直にいい合える、またリスペクトし合える環境を作り上げることです。
COVID-19は人の働き方を再考させられる機会になりました。リモートワークとオフィスへの出勤については、どちらが良いと決めるものではなく、それぞれの役割や状況に適した方法を選ぶ形が良いと考えています。国内では2020年10月にリモートワークを制度化し、COVID-19が収束してもハイブリッド型を継続していく予定です。また、リモートワークを取り入れることで、従来のメンバーシップ型からよりジョブ型への制度移行も必要となります。一律のルールではなく各国の労働法に沿った柔軟な対応が求められますし、評価方法も変化し、仕事に対して報酬が得られるという仕組みに変わっていくことは間違いないでしょう。人事制度は時代に合ったワークライフバランスの考え方のもと、毎年少しずつ変更してきましたが、新しい人材マネジメントの考え方に基づく新たな制度設計を考えるべき時が来たと思っています。
仕組みも大切ですが、私がとりわけ重視しているのは従業員とのエンゲージメントです。2020年に行った全従業員向けの意識調査では、6,500名にのぼる実に多くの人が記述式の設問も回答してくれました。私はそれらの全回答を読み、多くの気付きを得ることができましたが、最も大切なのは会話やコミュニケーションであり、それも会社と従業員、上司と部下、同僚など、縦横斜めのさまざまなレベルでのコミュニケーションが必要だということが改めて分かりました。そこで、この1年間で私は世界中の従業員と40回以上(2021年6月末現在)、オンラインでの対話を行っています。また、トップである私が始めたことで、本部長や部長、課長も同様に対話を行うようになってきました。リモートワークになると偶然会って話す機会は減りますが、意識さえすればむしろこれまでより多くの人と話すことができるので、この環境を逆手にとって社内のコミュニケーションを一層活発にしていきたいと考えています。