方針1については、「①顧客ともっとつながる」「②新たな価値を創出する」「③柔軟さと強靭さを備え持つ」を重点テーマとして、さまざまな施策を推進しています。2023年2月に実施した、米国ギターメーカーCordoba Music Group, LLC(以下、Cordoba社)の買収は、①の具体的な取り組みの一つです。当社は、ギター事業を積極的な投資による規模拡大と収益性改善を目指す「育成」事業と位置付けています。Cordoba社をヤマハグループに加えることで、商品ラインアップの充実はもとより、同社の強みである企画・開発力、ブランド発信力を生かし、事業基盤を強化します。
今回の買収は、米国市場を熟知し、Cordoba社と物理的な距離も近い現地子会社のYamaha Guitar Group, Inc. (以下、YGG社)を通じて実行したほか、過去の実績を踏まえ、買収後統合プロセス(PMI)をYGG社が主導した点も特徴です。2018年にベースアンプで世界的に知名度の高い『Ampeg』ブランドの事業を買収した際も、YGG社のもとでスムーズなPMIが完了しており、Cordoba社とのPMIも現在予定通りに進捗しています。
海外グループ企業のマネジメントに関しては、今後もできるだけ自国市場を熟知した現地法人の経営陣が主体的に動く形で進めていきたいと考えています。その際には、日本の本社からの求心力と、子会社の経営陣の自律的な采配の遠心力をつり合わせるガバナンスが「触媒」ともいうべき機能を果たすことが重要です。グループガバナンスが本来あるべき機能を発揮しているか、そのために必要な社内規定が整備・運用されているかも適宜検証し、必要な場合には機動的に更新していきます。
重点テーマ①に関しては、事業ドメインの拡大にも取り組んでいます。具体的には、部品・装置事業が手掛ける自動車向けサウンドシステムやスピーカーなどの車載オーディオの事業成長を加速しています。実は、自動車の車内空間は音響という観点では決して理想的とはいえません。しかし当社には、そうした制約がもたらす課題を解決する信号処理技術や空間音響制御の知見があります。当社独自の強みを生かした商品が評価された結果、2023年3月期には中国の自動車メーカーを中心とする6社に採用されました。部品を製造・供給するという枠組みを超え、自動車メーカーの価値観を反映したクルマのコンセプトと一体になった高品質なオーディオを作り込むことで、自動車メーカーと伴走するパートナーとしてのポジショニングを確立します。
重点テーマ②を具体化する「Yamaha Music Connect」の拡充も前進しています。「Yamaha Music Connect」とは、顧客情報基盤Yamaha Music IDに基づき、お客さま一人一人に最適なアプリやコンテンツを提供するサービスです。オンライン型の音楽サービスに関しては、さまざまな事業者がすでに多様なサービスを提供しており、競争があるのは確かですが、圧倒的に有力なサービスは今のところ存在しません。当社は、リモート環境で仲間と集まって音楽活動をしたい、時間を気にせずオンラインでレッスンを受けたい、自分の演奏を手軽に発表したいといった幅広いニーズにワンストップで応え、しかも初心者から上級者までが気軽に楽しめる機能を拡充していきます。社長直轄組織として新設したミュージックコネクト推進部が中心となり、スタートアップ企業との協業も含めたこれまでにないビジネススキームも検討し、オープンイノベーションによる新たな価値創造を目指しています。
広く、長く、深くお客さまとつながるサービスの基盤となるYamaha Music IDに関しては、2025年の登録数500万IDという目標に対し、2023年3月期にすでに半数近い240万IDまで登録数が伸びており、お客さまの関心の高さに手応えを感じています。
一方、サプライチェーンの強靭化に関わる③については、今後も継続的に取り組むべき課題です。効率を最優先にサプライチェーンを構築したこれまでは、部品在庫も仕掛在庫も極力減らすことが良いことだとされてきました。しかし、過去2年間のサプライチェーンの混乱は、そうした効率一辺倒のサプライチェーンは有事が発生した際の挽回に相当の時間を要すという教訓を残しました。外部環境の予期せぬ変動が常態であるという前提に立ったときに、当社にとって最適なサプライチェーンがどのようなものなのか、これからの時代に合ったサプライチェーンがいかにあるべきか、ここは拙速に走らず、徹底的に議論し再構築していく必要があると考えています。