社長メッセージ

[ 画像 ] 取締役 代表執行役社長 中田卓也

はじめに、このたびの新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)により亡くなられた方々に、謹んでお悔やみ申し上げます。また、感染拡大の影響を受けられた全ての方々に心よりお見舞い申し上げます。

今般のCOVID-19拡大に際してヤマハグループは、従業員、お客さま、サプライヤーの方々の健康と安全を最優先に考え、各国の行政当局の指示・要請に従い、一時休業やリモートワークを併用し事業継続を図ってきました。

 その後、世界各国で社会経済活動が再開されましたが、感染はいまだ終息していません。ウイルスとの共存を強いられる不安な状況下、各方面で手探りの対応が続けられています。

 このような環境下、音楽活動、学びの継続など活動が制限される社会において、課題解決を優先しながら、逆境こそ変革のチャンスと受け止め、新常態での可能性に向け挑戦を加速し始めています。

中期経営計画「Make Waves 1.0」(以下、中計)初年度の2020年3月期は、厳しい外部環境の年となりました。

 米中貿易摩擦の激化を起因に世界経済が減速。特に中国、新興国では減速感が増し、新興国の通貨安が進行、通年でユーロとともに大きく為替影響を受けました。また、米国では中国製品に対する制裁関税により一時混乱が生じたほか、日本では、2019年10月の消費税増税後の消費減や自然災害で消費低迷が続きました。期末にかけては世界中でCOVID-19の感染拡大により、急速かつ甚大な影響が出るなど、大変厳しい1年でした。

 COVID-19は、各国政府による稼働制限に伴い当社の生産が計画に及ばず、商品供給に影響しました。しかしながら、当社のサプライチェーンは東日本大震災時の経験から、部品の調達先を複数化し、代替部品の使用にも対応できる仕組みを構築していたことで、混乱を最小限に抑えることができました。また、複合工場化の強みを生かし、工場間でのライン整合、工場の人的リソースをフレキシブルに活用し合うなど機動的な対応も実践できました。

COVID-19が2020年3月期業績に及ぼした影響は、売上収益ベースで137億円に上ります。これらの影響は、現在なお進行中で、感染が終息するまで、まだしばらく時間を要するでしょう。
2020年は苦境の1年となりますが、逆境は時として進化を加速します。COVID-19のもたらす影響も、決してネガティブな面ばかりではないと捉えています。

 6月初旬まで音楽教室を休講せざるを得ませんでしたが、その一方で、ステイホームが続く中で、音楽の持つ力が再認識されていることも事実です。自宅で手軽に弾ける電子楽器やギターが人気で、エントリーモデルはCOVID-19の感染拡大以前を上回る売れ行きです。こうした現象の背景にはECとの親和性もあると見ています。

 例えばピアノや管楽器であれば、楽器店に足を運び実物を確かめてから買うのが一般的ですが、電子楽器やギターの場合、当社製品の品質の安定性に定評があり、「ヤマハだからネット購入でも大丈夫」という安心感が、シェア拡大を後押ししているのです。

 もちろん、こうした需要に対応できたのは、COVID-19の感染拡大前よりデジタルマーケティングによる対応を積み重ねてきたからです。ネットがリアルに完全に取って代わることはないにせよ、両者がシナジーを発揮できるようにすることで、今後さまざまな潜在需要を掘り起こせるはずです。

 また、新しい生活様式では、合奏を行う際に人々が1カ所に集まる必要があることが制約につながっています。当社ではかねてよりITによるリモート合奏の技術開発を進めていたことから、このほど実証実験としてソフトの配信を始めたところ、想定を大幅に上回るダウンロードがありました。こうした取り組みは目の前の課題解決に役立つばかりでなく、この先、大きなビジネスチャンスになる可能性も秘めています。

このように、当面COVID-19との共存を強いられる「ウィズコロナ」の状況下で明らかになった課題は、パンデミック終息後(ニューノーマル)の社会の構造変化について、貴重な示唆を与えてくれます。それらはまた、私たちが目指してきた方向性の延長線上にあります。

 リーマンショック以後の当社の歩みを中計のテーマに沿って概観すると、「YMP125(」2010/4~2013/3)では「経営基盤再構築」、「YMP2016」(2013/4~2016/3)では「収益力の強化」を図り、さらに前中計「NEXT STAGE 12」(2016/4~2019/3)ではもう1段階上の成長ステージに向けて「ブランド力の強化」を打ち出しました。
こうした成果を踏まえた現中計では、2022年3月期までの3年間を「顧客・社会との繋がりを強化し、価値創造力を高める」ステージと位置付け、デジタル革新に伴う産業構造や消費者意識の転換に応えるべく、4つの重点戦略(下図参照)を打ち出しています。

 これらはCOVID-19が発生する前に策定した路線ですが、基本的な部分ではニューノーマルに向け加速するものと思っています。以下、主要事業の実績、重点戦略に沿った取り組みという2つの面から、中計初年度の進捗状況を振り返ります。

楽器事業は第3四半期まで全般的に堅調でした。ピアノは第4四半期のCOVID-19の影響を受け中国で減速したものの、通期で前期からほぼ横ばいの状況です。

 一方、電子楽器はデジタルピアノがけん引し、堅調に推移しました。2021年3月期に入り、ECでも入手可能なエントリーモデルが好調な売れ行きを見せています。このチャンスを生かすためには、EC対応にとどまらず、デジタルマーケティングを通じネット空間での商品価値訴求や楽しみ方の提案をさらに強化していくことが重要になります。

 ギターもこの状況下においてお客さまの裾野が広がっています。当社のギター事業は欧米での中高級価格帯のシェアに課題を抱えていたことから、2011年に若者向けの『Aシリーズ』を投入し、中級価格帯を強化してきました。米国はじめ主要地域ではこの施策が進捗し、収益性の向上に貢献しています。また、アジアでは当社製品のブランドイメージが高く、シェア拡大と単価の向上が並行して進んでいます。

 管楽器もカスタムモデルは欧州勢との競合が激しいため、プロの演奏家に向けて当社の上位機種のエンゲージメントを進め、必要な技術要件も向上させてきました。サクソフォン、トランペットではその成果が出てきましたので、今後は同様の取り組みをクラリネットなど他の管楽器でも進めていきます。業績進捗面ではこれまで少子化の進む国内以外、おおむね順調に推移していましたが、COVID-19の拡大以降、口で息を吹き込むという楽器の特性上、厳しい環境にあります。当社では、外部の専門家にも参加していただいた上で科学的根拠に基づき、安心して管楽器をお使いいただくためのガイドラインを取りまとめました。

コンシューマー向けのAV機器は、グローバルにレシーバー市場の縮小を受け苦戦しました。当社はブランド価値を損なう値引き競争には加わらず、新たな成長分野への経営資源シフトを着実に進めています。その中でもサウンドバーは、現在のステイホーム需要から追い風を受けています。また、耳への負担を軽減する独自技術「リスニングケア」を搭載したイヤホンも、日本での先行投入で高い評価をいただき、今後大きな期待が持てます。

 業務用音響機器は、ライブ市場、設備案件がCOVID-19の拡大以降伸び悩んでいますが、音楽制作用機材の販売は堅調です。
また、ICT機器ではCOVID-19の影響もあり会議システムの売れ行きが伸びています。

 2020年5月、自宅で中継を見ながらスタジアムに声援を届けられるリモート応援システム『Remote Cheerer powered by SoundUD』の実証実験を行い、大きな反響がありました。これは当社独自の音響の知見、テレビ会議システムやネット、ルーターの技術を活用した新しいソリューションです。直ちにビジネスに結び付けるというより、現段階ではこうした社会課題に応える提案を積極的にしていくことが重要だと考えています。

部品・装置事業はマクロ環境の影響を大きく受け、全体的に厳しい状況となりました。特にFA機器は、2019年3月期の特需が一段落したところに米中貿易摩擦やCOVID-19の影響が重なり、設備投資需要が大きく落ち込んでいます。自動車用内装部品も、搭載予定の新車販売の延期の影響がありました。

 一方で電子部品は、車載用モジュールが計画通り順調に進捗しています。車載オーディオ領域での新たな取り組みもお客さまから一定の評価をいただいており、期待を持っています。

 マクロ環境の回復にはまだ時間がかかるでしょうが、2022年3月期頃をめどに、取り組みの成果を形にしていきたいと考えています。

デジタルマーケティングを軸に顧客接点を整備し、お客さまと直接つながるというテーマでは、ライフタイムバリュー(LTV)の戦略の中で顧客情報基盤(CDP)の構築が進み、実用段階に入っています。また、ダイレクトマーケティングも進み、デジタルによる商品価値伝達という観点で14万人ものお客さまに実ビジネスへの送客ができ始めています。同時に、直営店は体験型店舗にシフトしており、国内では東京、大阪、名古屋の直営店をブランド・ショップに、新興国でも体験型ショップに改装する動きが加速し始めています。

 また、中国、インド、ASEANにおいても販売網の拡大が進展し、それぞれの市場施策に沿った形で3,000店近くの店舗布石ができています。

 加えて、お客さまと「広く」つながる、つまり顧客接点を拡大するため、商品ラインアップの拡充にも力を入れています。

 電子キーボード分野では、ミニキーボードの『PSSシリーズ』を国内で16年ぶりに復活させました。新興国向けのみならず、国内市場に再参入したところ、予想を上回る評価をいただいています。
ギターでは、スタイリッシュなデザインの新シリーズ『STORIA®』が、潜在的なユーザー層を掘り起こし、中級品に近い価格帯ながら支持を集めています。

 お客さまとつながるという戦略では、COVID-19の問題が生じ、遠隔ソリューションの必要性が急速に高まり、新たなLTVの軸として、戦略性が高まったと考えています。例えば、従来の音楽教室はオンラインレッスンにより、時間と空間が自由に選択できるという潜在的なニーズを満たしつつ、LTVを深掘りする新たな提案が可能になります。合奏のリモート化、音楽教育、遠隔コンサートやスポーツ応援などの機会も含め、当社の持つ遠隔コミュニケーションのさまざまな技術が、LTVの最大化に重要な意味を持ってきます。

"本質×革新"による付加価値向上という面で、最も進展があったのはAIの活用です。著名歌手やピアニストなどの演奏を再現した『VOCALOID』や自動演奏は、各方面でさまざまな論争を呼びましたが、当社が作り出したものがオリジナルに近づきつつあるレベルに達したことは評価できると思います。今後はこうした技術を具体的にビジネスに応用していく局面を迎えています。

 一方、モノづくり現場は、すでにAIの技術を導入しています。
これまで培った膨大な経験知をAI化することで、従来長時間を要した作業が瞬時にこなせるようになりました。研究開発においても、今まで想像しなかったような発見が得られるように、AIは生産・開発プロセスのあり方を大きく変える可能性を秘めています。

 収益力を強化する事業基盤整備としては、全社的なデジタル・トランスフォーメーション(DX)戦略での議論をアクションプランに落とし込む段階まできています。このような「上から」のイニシアチブとは別に、各現場の各工程でデジタル化やIoTが進んでいます。例えば製造部門では、スマートファクトリー化の取り組みを進めています。両者が合流することにより、DX戦略が力強く推進されることが重要だと考えています。

 イノベーションの源泉が「人材」であることは、いつの時代も変わりません。国ごとのコアポジションを可視化する職務グレーディングがこのほど完成したことを受け、そのスキル要件をもとに個々の能力開発を進める「CDP(キャリア・ディベロップメント・プラン)」の運用を開始しています。本社・子会社の経営人材の発掘育成も、今後はこの枠組みの中で進めていくことになります。将来的には、海外で採用した人材が本社役員になる日もくると期待しています。

コスト低減については、ネットで55億円の目標を立てていますが、初年度実績は20億円で、進捗は順調です。前中計で障害となった調達価格の上昇が落ち着き、製造工程の効率化、販売価格の適正化、経費の戦略的使用などの成果が、数字に反映されるようになりました。

 また、価格適正化に関しては、現行品の値上げだけではなく、新たな付加価値の高い差別化された新製品の価値を価格へ反映する手法をとっています。経費の戦略的使用については、経費の使途を定常的なものから戦略経費にシフトする取り組みが、販売会社にも浸透してきました。このことは販管費率の低下に表れています。

 なお、ウィズコロナの状況下における戦略経費は、段階的に執行するよう指導しています。アフターコロナを見据え、次につながる経費の使い方やブランド向上といった使途に予算を振り向けていくことが大切です。大変な時期だからこそ、思い切りメリハリを付けて使用することで、中長期的成長に向けた変革が加速できると考えています。

社会価値の創造が当社の価値創造につながるという考えのもと、事業戦略の中心にサステナビリティを据え、さまざまな社会課題の解決、SDGsの達成に貢献する取り組みを進めています。

 私たちは、音楽文化が人類にとって絶対的に不可欠であると確信しています。音楽文化の素晴らしさを伝えていくことは、将来の成長に向けた種まきであると同時に、より良い社会づくりに貢献する取り組みでもあります。

 具体的なケースとして、2015年に新興国を中心にスタートした器楽教育の導入・支援プログラム「スクールプロジェクト」があります。現中計では、7カ国・累計100万人の生徒への普及を目指しており、2020年3月末時点で5カ国・39万人まで進捗しています。採算前提の事業ではありませんが、今後ともしっかり継続していく方針です。

 事業を通じた社会貢献としては、先ほども触れた「リスニングケア」搭載のイヤホンは、WHOも警鐘を鳴らすイヤホン難聴の問題を踏まえた提案です。また、このほど立ち上げたオンライン遠隔合奏サービス『SYNCROOM(シンクルーム)』も、COVID-19の拡大以降の社会課題に応える非常に有望なビジネスです。

 環境面では、認証木材の使用比率が2021年3月末見込み46%(2020年3月期実績28%)と、中計目標の50%に近づいています。

 また、エコプロダクツ*1の投入についても、3年間で120モデルの中計目標に対し、初年度実績が46モデルと、順調に進捗しています。
 また、当社は2019年6月、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)*2提言への賛同を表明しました。こうしたコミットメントや取り組みの成果をしっかり発信していくことは、ブランド力強化の観点からも重要だと考えています。

*1. 当社独自基準で認定する環境配慮製品。業界同種製品においてトップクラスの環境性能

*2. Task Force on Climate-related Financial Disclosuresの略。主要国の中央銀行総裁や財務大臣からなる金融安定理事会(FSB)によって設立。気候変動が企業財務にもたらす影響を開示し投資家に適切な投資判断を促すよう求める提言を公表

当社は一貫してコーポレートガバナンスの強化に努めています。
2017年には指名委員会等設置会社に移行し執行役へ大幅な権限委譲を行ったことで、取締役会では経営・事業の方向性など本質的な論点に集中できるようになりました。現在、取締役7名のうち5名が独立社外取締役です。取締役会には執行役もオブザーブ出席し、ともに報告や議論を深めています。このように執行側と監督側が一堂に会することで、より実質的で活発な議論が可能となっています。

 また、従来目指していた監査委員会全てのメンバーが、独立社外取締役で構成される体制に移行できたことで、補完機能強化として監査委員会室、グループ企業を含めた監査機能を担う内部監査部のそれぞれの責任者を執行役員と同格の監査役員としました。監査委員会は、適法性監査に加え、妥当性監査を行うため、監査の実効性を高める体制強化ができました。

 これだけ社外取締役が増えた以上、リモートでの会議も当初から想定しており、COVID-19への対応もスムーズでした。こうした時期ですので、「ヤマハは社会に対して何ができるのか」といった大所高所からの意見も出ますし、COVID-19の発生に伴う事業戦略の見直しに関しても鋭い指摘を頂戴します。こうした「外」の視点にさらされることで、執行側の視点も一段引き上げられたように感じます。

先ほど中計の重点戦略をめぐって「人材」の重要性に触れましたが、風通しの良い組織風土は企業活動の大前提であり、ハラスメントの禁止などコンプライアンスはいかなる局面でも完全に順守されなければなりません。仮にそれを守らない従業員が1%でもいるなら、その会社のコンプライアンスは機能していないに等しいと私は考えます。

 そこで、全てをゼロベースで見直す決意で組織風土の改革に取り組んでいます。まず「駄目なものは駄目」という当たり前の意識・認識を徹底すること。そして、従業員に何かあった場合、早い時期に助けを呼べるよう心理的安全性を確保すること。
そのために、コンプライアンス通報社外窓口の強化、コンプライアンス専任組織の強化、ハラスメント防止に関する研修の拡充などの施策を進めています。

 また、風通しの良い組織風土を作り上げるには何といっても「対話」が重要です。「対話」の重要性は、業務のあらゆる局面に通じます。現在、私を含め、さまざまな形での交流の場を増やし、組織の縦、横、斜め全方向で「対話」の強化に取り組んでいます。

時代の大きな転換点に差しかかり、マーケットの中で企業と投資家の将来像をめぐって、さまざまな議論がなされています。ただ、どのような世の中がやってこようと、企業と株主・投資家との関係は変わりません。企業活動は株主・投資家の方々、お客さま、従業員、サプライヤー、地域社会など、多様なステークホルダーに支えられており、いずれが欠けても成立しません。それぞれのステークホルダーとWin-Winの関係を築いていくことが企業の持続的発展の要諦であり、その意味で、今後とも資本市場との建設的な対話を継続していきたいと思います。

 また、企業経営にはバランス感覚が重要です。特定の指標を絶対視するのではなく、時代の流れを見据え、今この段階で注力すべきテーマを決定することが大切です。当社の中計はこうした観点から、3年単位のグループ経営方針を示し、公約したものです。その際、企業の持続的成長が大前提となることはいうまでもありません。

 当社の株主の皆さまの多くは、長期にわたり当社株式を継続保有してくださっています。これは誠にありがたいことであり、今後ともできるだけ多くの方から、長きにわたるご支援を賜りたいと願っています。IR活動や日々の事業活動などさまざまな取り組みを通じて、当社グループへの理解を広げていきたいと考えています。

当社では以前より、リスクマネジメントの体系的強化を進めてきました。私が委員長を務めるリスクマネジメント委員会では、企業活動のリスクとなり得る要因を洗い出し、分類整理するとともに、自社の対応力を評価し数値化しています。スコアの低い項目については同委員会で認識を共有し、改善策を決定の上、年次計画に反映させています。

 リスクマネジメント委員会のもとには、現在5つの個別テーマに基づく部会を設置しています。COVID-19に関する問題では「BCP・災害対策部会」が中心に対応し、よく機能したと評価しています。ただ、今回反省すべき点として、パンデミックに関する独立した規定を設けておらず、「災害→復旧」という単純な流れのみを想定していました。時間が経つにつれダメージが回復していく通常の災害と異なり、パンデミックは終息がいつになるのか、そもそも事態が改善に向かっているのかさえ分かりません。したがって、長期戦を前提とした計画が本来は必要だったのです。こうした問題点を踏まえ、今後はパンデミックの脅威をリスク要因として織り込み、より実効的なBCPを策定していく方針です。

今般のCOVID-19の問題に際して、私が経営者として腐心したのは、従業員一人一人のモチベーションをいかに保つかということです。

 第一に、従業員の健康と安全を最優先すること。リモートワークが本当に機能するのかといった議論は抜きにして、とにかく直ちに原則リモートワークの方針を打ち出す。これにより、従業員に安心感を与えられたと思います。

 第二に、社内全体で絶えず状況を共有すること。会社のことが心配なのは皆同じです。「あそこの工場は動いているのか」「グループ内に感染者は出ていないか」といった情報を毎週のように共有しています。実際このことが、社内に安心感と「自分の会社」という意識をもたらしてくれたという声を聞いています。

 第三に、積極的なアイデアの受け皿を用意すること。当社では以前より、イントラネットを活用した新規事業アイデアの社内公募制度を設けています。この仕組みを拡充し、アフターコロナの時代を見据えた提案を募集したところ、早速さまざまな意見が上がってきました。経営者としても非常に心強い動きだと思っています。

 そして最後に、会社として目指す方向性を明確にしたこと。「こういう時期だからこそ、社会課題への対応に軸足を置こう。働き方も含め、一過性の対応に終わらせることなく、この危機を逆手にとって変革を加速させよう」というメッセージを従業員に伝えました。このような体験を通じて、ヤマハがどういう会社であるかということを再認識してもらえたのではないかと思います。

 こうした透明性や情報共有が従業員の士気を高める上でいかに大切か、私たちは今般の事態で改めて学びました。2021年3月期は厳しい1年となりますが、その中でも将来に向けた成長の芽を大切にしていきたい。逆境の中でこそ、変革のうねりや時代を先取りするチャレンジが生まれてくるはずです。今年1年の苦労を来期以降に生かすべく、私たちは全社一丸となって前進していきます。

 株主・投資家の方々をはじめ、ステークホルダーの皆さまには、引き続き変わらぬご支援を賜りますよう、お願い申し上げます。

2020年10月
取締役 代表執行役社長
[ 画像 ] 取締役 代表執行役社長 中田卓也