エンタテインメントには
世界をつなげる力がある。
<後編>

近藤 祐希/社会起業家

音楽は架け橋。

前編で「音楽や映像などのエンタテインメントの力で、社会問題を解決するためにレコード会社に就職した」と語った近藤祐希氏。現在でも初志を胸に活動し続ける氏は「世の中から“関係ない”をなくす」をミッションに掲げ、世界を繋げていく夢を追い求めています。

課外活動を通じて、初志を振り返る日々を送った。

大学卒業後は、大きな志を胸にレコード会社に入りました。しかし、与えられた業務に追われる毎日で、思い描いていたような仕事をする機会にはなかなか恵まれなかったのも事実です。だんだん「何のためにこの会社に入ったのだ?」とモヤモヤを募らせるようになりました。社外の人たちと積極的に交流し、生き方のヒントを探るようなったのは、そのころからです。そんな最中、ケニアのスラム街・コッチの若者の音楽を世界に売り出すインディーズレーベルを運営するひとりの女性に出会います。彼女は「コッチの人たちの魅力と可能性を世界に届けたい」という一心だったのですが、彼女より音楽に詳しい僕にも活動を手伝わせてくれました。「僕がしたかったのはこういう仕事だ!」と再認識したのはこのときです。

東日本大震災で被害を受けた福島県の楢葉(ならは)町の子どもたちを、フランスのNGOが開催する国際交流キャンプに引率する役目を担いました。紛争、貧困、災害などに苦しむ約25カ国から子どもが集まったこのキャンプに、僕がギターを携えていったところ「本物のギターを見るのは初めて!」と子どもたちが群がってきました。ここでは各国の伝統楽器を交えてセッションをしたり、日本の歌を歌ったりするうちに大きな輪ができます。国や人種、言葉の壁を越えて、みんなで音楽やダンスを楽しむ様子は、僕が想い描いていたシーンそのもの。人と人の心をつなぐ「音楽の求心力」に改めて感動しました。

フランスのNGOが開催する国際交流キャンプでは、ギターを手にみんなで歌ううちに「音楽に秘められた力」を再認識。

世の中から「関係ない」をなくすために、独立を決めた。

僕がやりたかったことは、勤め先のレコード会社にいてもできたかもしれません。けれどもその日が訪れるまでには、まだ何年もかかる気がしました。ちょうどその頃、旅行先のボリビアで倒れ、死を身近に感じたこともあり「何年も待ってはいられない」という思いを募らせるようになります。もっといろんな国を飛びまわり、いろんな人と繋がりを持ちながら働きたかったし、所属先に縛られず自由に生きたかった。なにより「エンタテインメントで世の中から“関係ない”をなくす」を実現したかった。当時、28歳の僕が選んだのは独立でした。音楽以外のエンタテインメントとして、映像コンテンツの企画制作を本格始動したのもこの頃です。

「関係ない」ってすごく寂しくないですか?この世の中にひとつとして意味のないものはありません。すべてが関係し合い、絶妙なバランスで支え合っているから、この世界は成立しているのです。だからこそ、ひとつひとつの存在が尊く、例外なく受け入れられるべきであると伝えていく架け橋を世界中に作っていきたい。さまざまな国の子どもたちが、エンタテインメントを通じて国際交流するお祭りを開くのもそのためです。まったく異なる境遇にある者同士が、ここでの体験を通じて大切な友人になれば、その人が住む国のことも身近で大切になります。若いうちにそんな経験をするとその後の生き方や、彼らが作っていく未来にも大きな変化があるでしょう。子どもたちが心から「この世界に生まれてきて良かった」と思える世の中にしていくためにも、エンタテインメントは大きな力になれるはずです。

ヨルダンを舞台に、パレスチナ難民・イラク難民・シリア難民の子供たち300人に、広い世界とつながって、可能性・選択肢・視野を広げてもらうお祭りプロジェクトを開催。自らの自由な発想を形にして、世界に発信した。

音楽からたくさんの恩恵を受けてきた。

僕らが考えるエンタテインメントは、歌う、聴く、観る、読む、踊る、作る、体験するなど実にさまざまですが、僕の根底に流れるエンタテインメントは間違いなく音楽です。音楽は僕の人生そのものですし、僕を育ててくれたのも音楽。いろいろな人との架け橋でもあれば、そのままの自分を肯定できるようにしてくれたのも音楽です。今、音楽を初めとしたエンタテインメントを活用して、いろんな人たちの支えになりたいと思っているのも、自分が音楽からたくさんの恩恵を受けてきたからに他なりません。

それに僕自身も人生において窮地に陥ったときには、多くの人から支えられてきました。結局のところすべての人は「繋がり」の中で生きています。そう思うからこそ、エンタテインメントの力を用いて人と人の心を繋ぎ、相互に受け入れ合える社会を生み出したいのです。国や人の違いによって、ものの考え方や捉え方、生き方が違っているのは当たり前ですが、そんな世界を繋げていく存在になりたい。僕自身も世界中のいろいろな人と繋がりたいし、繋がることで新たな発想を得たいし、世界ってこんなにも面白いのだと感じていたい。そんな思いで日々活動しています。

2016年からスタートしたレーベル活動の第一弾として、セブ島の子どもたちとともに作った楽曲を販売。世界には驚くような才能を持つ子がいるが、そういった人たちと音楽をはじめとしたエンタテインメント作品をともに制作し、広く発信していく活動だ。

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近藤 祐希/社会起業家
株式会社WORLD FESTIVAL代表取締役。「世の中から“関係ない”をなくす」をミッションに掲げ、音楽や映像などのエンタテインメントを活用した社会問題の解決を実践。国際的な教育事業や交流事業にも取り組む。2017年からはレーベル事業を始め、世界に眠る才能の発掘にも挑む。

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