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「夢中になれる」が使い手の創造性を引き出す #1

多様な「配信したい」という想いに応える

2023年12月13日

楽器演奏からゲーム実況、歌唱、ASMR(聴覚などへの刺激)まで。かつては限られた人しかできなかったライブ配信を、いまでは誰もが行えるようになった。「自己表現の民主化」とも評されるこの流れを加速し、配信プラットフォームをより開かれたものにするためには、必要な機能をすべて組み込んだ新しいタイプのミキサーが必要ではないか──。そんな思いから2015年に生まれ、現在も多くの配信者に支持されているのが、ライブストリーミングミキサー「AGシリーズ」である。

2023年2月に発売した最新モデル「AG08」は、シリーズ最高峰の音質に加え、計8chの入力や直感的な音量操作が可能なミキシング機能、多彩なエフェクト、サウンドパッドによるパフォーマンス機能などを1台に備えたフラッグシップモデルだ。「魅力的な配信を手軽に実現したい」というユーザーの気持ちに寄り添うAGシリーズはいま、世界中の人たちの多様な自己表現を支えている。

多様な配信スタイルを叶える

AGシリーズは2015年、チャネル数が3つの「AG03」と6つの「AG06」からスタートした。当時、大ブームだった「ニコニコ生放送」などのライブ配信に着目した開発チームは、複数の機材を組み合わせることなく、単体で操作が完結するミキサーを志向した。製品化された「AG03」と「AG06」は思惑通り、配信市場の拡大とともに多くの人々の心をつかんだ。

それから5年たった2020年、AGシリーズの2代目「新AGシリーズ」の開発が決定した。その際あらためて市場を見回してみると、「配信者を取り巻く状況はまったく変わっていた」と、初代開発からAGシリーズの企画に携わっているクリエイター&コンシューマーオーディオ事業部 事業開発部の白井瑞之は振り返る。

[ サムネイル ] クリエイター&コンシューマーオーディオ事業部 事業開発部 白井瑞之
クリエイター&コンシューマーオーディオ事業部 事業開発部 白井瑞之

「新AGシリーズの企画が始まった頃はすでにスマホでの配信が当たり前になっていて、ニコ生時代と比べると配信スタイルも大きく変化していました。では、配信者それぞれのスタイルに合わせ、その多様な自己表現を支えるためには、どのようなラインアップが必要だろう? そう考えるところから、新AGシリーズの開発が始まりました」(白井)

高校時代には放送部に入り、当時好きだったアーティストの影響でヤマハのシンセサイザーに興味を持っていた白井は、かなり早い段階からヤマハで働くことを志していた。志望大学を選択する際には、ヤマハに電話して、「入社するにはどの大学へ進学することが近道でしょうか?」と尋ねたほどだ。その後、電子工学科でエンジニアリングを学び、サークル活動でPAを始め、「ミュージシャンと観客をつなぐ」ことに面白さを感じた白井の興味は、ミキサーへ移っていく。2005年にヤマハに入社し、1年目から希望していたミキサー設計に携わることになった。

しかし、自身もミキサーのユーザーであるがゆえに、進行中の企画に対して「ここの仕様は変更したほうがいい」「自分が担当者ならこうしたい」という気持ちがつい口に出てしまう。「そんなに言うなら、一度、企画担当に挑戦してみたら?」──こうして入社3年目で商品企画に異動。「その後はひたすら、ミキサーなどの音響機器の企画をやってきました。やりたいことをやれる自分は、本当に恵まれていると思います」。

答えはユーザーの中にある

白井らが新AGシリーズの企画をスタートさせたのは、新型コロナウイルス感染症が猛威を振るっていた頃だ。人々が自宅で過ごす時間が多くなり、配信市場が急激に伸びる中、チームは「ひたすら世の中の配信コンテンツを見ること」に時間を費やした。誰が、どんな目的で、どの機材を使って配信をしているのか。実際、「お使いの機材は何ですか?」と配信映像を見ながらコメントで聞いたこともあるし、印象的な配信者には個別に連絡をとって話を聞いたりもした。そうして多くの事例をインプットすることで、白井らは「最新の配信の裏側」を知ったのである。

チームが徹底的にユーザー観察を続けたのは、「ユーザビリティーを高めるための答えは使い手自身が持っている」と考えたからだ。白井は言う。「先入観を捨てるため、いったん自分の常識や考えは脇に置いておくべきだと思いました。AGシリーズのお客様は音響の知識がある人だけじゃない。ただ、気軽に配信したいだけの人もたくさんいる。だから、音響の知識がないお客様にも良い音で配信を楽しんでもらうためにはどうすればよいかを、ひたすら考え抜きました」。

そして、ひとたびプロトタイプができれば、一般ユーザーに外装箱を開けるところから体験してもらい、どこが使いづらいのか、再度、徹底的に観察した。そのプロセスを通して白井は、ミキサーに触れ続けてきた自分にとってはしごく当たり前のことでも、多くの人には「壁」に感じられることがあると知った。そんなふうにユーザーに寄り添いながら、チームはフラッグシップモデルAG08やマイク一体型の「AG01」を新たに開発した。「AG03MK2」「AG06MK2」と合わせ、前シリーズよりもさらに使いやすく、音響知識がなくてもこれ1台で配信が始められる新AGシリーズがついに誕生したのである。

配信は人生を変える

これまで以上の機能を持ちながら、より直感的に操作できる新AGシリーズ。「この製品を通じて、多くの人がいままで以上に配信に集中できるようになった」と白井は確信している。事実、AG08は既存のユーザー層に加え、プロミュージシャンやVTuberなど、配信をなりわいとする幅広い人々に選ばれている。

ライブ配信という自己表現の手段が普及する中で、白井は「配信によって人生が変わった」というユーザーにも出会った。あるフランスのユーザーは、趣味で絵を描く様子を配信しているうちに人気が出て、現在は美術学校で講師をしているという。「配信を通してネットワークやコネクションができた結果、思いもよらなかった“次の人生”につながっていくこともあるのです」(白井)。

今後、自己表現の世界はどのように変わっていくのだろう。白井は、アーティスト同士の創作活動がメタバース空間で行われるなど、リモートでのコラボレーションの機会がますます増えていくと予想する。言い換えれば、創作の世界では、オンラインとオフラインの境目がどんどん曖昧になるということだ。

「その境目が曖昧になっても、きちんと使えるデバイスやサービスがますます求められるようになるでしょう。だから、そうしたオンライン上での自己表現やコミュニケーションをサポートできる製品を、これから考えていきたいですね」(白井)

圧倒的なユーザビリティーによって、配信者が自己表現に集中することを可能にした「新AGシリーズ」。次回は、同じく使いやすさを向上させて“いつでもどこでも弾ける”を叶えたステージキーボード「CKシリーズ」を紹介します。

(取材:2023年9月)


白井瑞之|MIZUYUKI SHIRAI
ヤマハ株式会社 クリエイター&コンシューマーオーディオ事業部 事業開発部 コンテンツシェアリング&コミュニケーショングループ 主幹。高校時代は放送部でミキサーに触れ、大学時代にPAを始めたことでエンジニアを志す。入社後は一貫してミキサーの設計・企画に携わっている。

※所属は取材当時のもの

参考:
新AGシリーズ

「夢中になれる」が使い手の創造性を引き出す(全3回)