[ サムネイル ] 『楽しさと思いやりを両立する音楽のカタチ』 #3

『楽しさと思いやりを両立する音楽のカタチ』

#3 ずっと楽しむために、いまできること

2023年2月22日

静かな音から聴こえる熱い想い

何かを追求する時、別の大切な何かを諦めなくてはならないことがある。でも、そのどちらも諦めたくない時、知恵を絞り、持てる技術を結集し、大切な価値の「両立」に全身全霊で取り組む人たちがいる。音楽の臨場感をそのままに、イヤホンとヘッドホンのユーザーを難聴リスクから守る「リスニングケア」。管楽器の音を静かにすると同時に、奏者に満足感のある演奏体験を提供する「サイレントブラス™」。どちらも、楽しさと思いやりを両立させるという課題に挑んだ製品だ。自分の健康を気遣ったり、周囲の環境に配慮することも大切だけれど、その代償として、自分のこころが求める音楽の楽しみを手放さないでほしい。この想いこそが、二つの物語に共通する「Key」である。

『楽しさと思いやりを両立する音楽のカタチ』(全3回)

#1 耳の健康に配慮した音楽リスニング

#2 金管楽器をいつでも、どこでも、のびのびと

[ サムネイル ] B&O事業部 戦略企画担当 鰕原(えびはら)孝康
B&O事業部 戦略企画担当 鰕原(えびはら)孝康

「犠牲にしなくてはならないことがあると、音楽は長続きしないですよね」。そう語るのは、サイレントブラスの商品企画と戦略立案を担当する鰕原孝康だ。騒音を気にするあまり楽器を吹くことを諦めないでほしいと彼は願う。

鰕原自身、高校時代は多くの犠牲を払って演奏をしていたという。「高校入試の直前は学校が立ち入り禁止になるので、みんなで河川敷に行って寒い中で練習したこともありました。でも、屋外では音がほとんど響かないので面白くなく、すぐに疲れてしまいましたね」。吹奏楽演奏にとって、場所という制約は非常に大きい。音を気にせず演奏できる場がないことから、練習に没頭できないという人も少なくない。実際に、サイレントブラスのユーザーからは「時間を忘れるほど演奏が楽しい」「練習に没頭できるようになった」という声が多く寄せられている。

[ サムネイル ] ホームオーディオ事業部 マーケティング&セールスグループ 田中郁夫
ホームオーディオ事業部 マーケティング&セールスグループ 田中郁夫

ホームオーディオ製品のマーケティングを担当する田中郁夫もまた、「没入できることこそ豊かさだと思う」と語る。「ヘッドホンで聴く音楽の世界に入り込むことは、多くの人にとってこころ満たされる体験なのではないでしょうか」。

難聴に対する警鐘は年々高まっているが、難聴リスクをゼロにすることは不可能だ。もしリスクを完全になくしたいのなら、「音を何も聴かない」という予防策をとるしかない。だが、人は夢中になれる音楽を求めている。安全に音・音楽を楽しみたいという人に、ヤマハはどういう解決策を提示することができるだろうか。「私たちには難聴を完全に予防することも、治すこともできません。でも、音楽への没入感を求める人がいる限り、リスクを軽減しながら、アーティストをより近くに感じられる音楽体験を提供したいと思っています」(田中)。

人生に、静かに長く寄り添う

リスニングケアとサイレントブラスには、もうひとつ共通の「Key」がある。それは、「長期スパンでユーザーに寄り添い続ける」という揺るぎない姿勢である。

耳を大切にする音楽リスニングがもっと広がれば社会はもっとよくなるだろう。田中はそう信じている。「以前、耳鼻科の医師にお話を伺う機会がありました。イヤホンを使う機会が増え、外耳炎や聞こえ方に悩む患者さんが、特に若年層で増えているそうです」。時代とともに音楽の聴き方が変化し、いまではイヤホンやヘッドホンで視聴する人の方が多くなった。コロナ禍でリモート会議も一般化し、イヤホン、ヘッドホンの使用時間は増える一方だ。

だからこそ、耳への負担を軽減するイヤホン、ヘッドホンを当たり前にしていきたいと田中は語る。「2019年以降に発売したほぼすべての製品に、デフォルトでリスニングケアが搭載されています。技術改良を図りながら、企業姿勢として、耳の健康への配慮がすべての人にとって重要であることを、当たり前のこととして示し続けていきたい」。

一方、サイレントブラスは演奏者のあらゆるライフステージに寄り添う製品だと鰕原は語る。「サイレントブラスがなければ、楽器演奏をやめてしまう人も多いのではないでしょうか」。例えば、学校を卒業して練習できる場所がなくなった時。就職を機にマンションに引っ越した時。結婚や出産などで暮らしを共にする家族が増えた時。生活の変化によってそれまでの練習場所を失った人にとって、サイレントブラスは心強い味方になる。

卒業、就職、結婚などのライフイベントをきっかけに「静かな楽器」を必要とする人が常に生まれるため、サイレントブラスは一定のペースで売れ続けている。「管楽器の売れ行きには波がありますが、サイレントブラスの発売本数はそれほどブレることがありません。コロナ禍には自宅で練習する人が増え、むしろ売り上げが伸びたぐらいです」。突如練習に行けなくなってしまった人々にとって、楽器演奏のセーフティーネットを提供できたのではないかと鰕原は考える。

自分のケアと他者へのケアが響き合う

田中と鰕原はいま、ユーザーの音楽体験をさらに豊かにする方法を模索している。

社会人になってからも地元の楽団で演奏を続けている鰕原は、サイレントブラスを「人と人とをつなげるきっかけ」にしたいと考えている。「現在は練習のためにサイレントブラスを使っていただくことがほとんどですが、録音や動画投稿にも使えるようになるなどの楽しみ方をさらに広げていくことが今後の課題だと思っています」。

一方、田中はリスニング状況を可視化することが次のポイントだと考えている。「どれだけの音量でどれくらいの時間聴いているのかモニタリングし、アプリで把握できるようになれば、耳の健康をより意識してもらえると思います」。インタラクティブに寄り添うことで、音楽の楽しみをそぐことなく難聴リスクを正しく認知できると考え、取り組み始めたのだ。

「ヘッドホンやイヤホンは技術競争が激しい業界です。だからこそ、シェア獲得と同じくらい、ヤマハの想いに共感してくださるお客さまに製品を通じて寄り添うことを大切にしていきたいと思っています」(田中)。

イヤホンも、ミュートも、ヤマハが発明したものではない。しかし、ヤマハならではの着眼点と、これまで培ってきた技術と感性を駆使することで、その時々の社会課題を解決する新たな可能性を見いだしてきた。それは時に、矛盾するようにみえるユーザーの複数の願いを同時に叶えることでもあった。二者択一ではなく「両立」を目指す覚悟――その先に見えるのは、大切なものを諦めることなく、自分らしく、長く、音・音楽を楽しむ人々が、互いに響きあい、つながりを深め続ける「共奏」に満ちた世界である。

(取材:2022年12月)

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『楽しさと思いやりを両立する音楽のカタチ』(全3回)

#1 耳の健康に配慮した音楽リスニング

#2 金管楽器をいつでも、どこでも、のびのびと

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