研究者紹介:大嵜 郁弥

所属 研究開発統括部 第1研究開発部 技術応用グループ
業務内容 ”楽器演奏と人”の関係性解明
学生時代の専攻 生体医工学
入社年度 2019年度

現在の仕事内容

研究テーマついて

演奏科学領域の研究をしています。

あまり聞き馴染みの無い研究領域かと思いますが、音楽に古くから携わり様々なコネクションを持っているヤマハだからこそ行える研究領域の一つです。

たとえば、音楽教育の現場では先生たちの中で「腕の力を抜いて」など“こうして弾くべき”という指導が入るのが一般的です。それは、“楽曲に必要な表現を実現する”、“不必要な力を抜くことで演奏が原因の痛みを防止する“等、生徒のレベルや指導の目的に合わせて内容が選択されているはずです。
このような身体の使い方について、演奏者の中で漠然と「こうした方が良いだろう」という共通認識はあるものの、それらを計測し統計を取るような試みは十分にされていません。
そのため、演奏内容や楽器に応じてどのような戦略で身体を調整するのかを明らかにすることを目的に様々な計測・解析を行なっています。

この研究は、演奏者支援は勿論のこと、より快適な演奏ができ人体に優しい楽器筐体設計への応用が考えられます。 楽器によっては百年以上大きく姿が変わらず、成人男性の体格に合わせた形として存在しているものがあります。 より幅広い年齢や体格の方が楽しく演奏できる楽器として、再考するきっかけを作れればと思い研究を進めています。

仕事の進め方について

このような演奏科学領域では「人と楽器を含む系」の計測、データ分析を行うため、様々な方の協力が不可欠です。

MIDIなどの演奏情報を取り扱う場合、使用するピアノの仕様について熟知しているピアノ事業部の方、実験にご協力いただくピアノの先生やプロの演奏者の方々、そして条件に合うような協力者を探していただく営業の方など社内外問わず多くの方と共に仕事をしています。
実験プロトコルの設定、計測機器の選定、それらを再検討するための予備実験から、外部から協力者を呼ぶ計測スケジュールの調整など、データを得る前の段階から多くの準備が必要です。
また、この研究領域は人を含む現象を対象としているため、計測される方が不安を抱かず参加でき、そして普段通りのパフォーマンスを発揮いただけるようコミュニケーションを取りながら進めることも大切です。

演奏科学領域は演奏者の方からも興味を持っていただけることが多く、ご自身の経験踏まえ沢山のお話をしていただける点はこの研究の面白いところの一つです。
沢山の演奏者と会話し、会話から仮説や新しい研究課題が得られるため、計測までの準備は大変でもいつも計測を楽しみながら進めています。

研究成果発表について

国内に、こうした領域を研究している教育機関及び研究機関は多くはありません。
そのため海外学会へ赴き積極的に情報交換をしたり、ヤマハの取り組みを広く知ってもらうことも非常に重要な業務の一つです。

取り組みの一環として、ポーランドにて開催されたISPS:International Symposium on Performance Scienceで、ピアノ演奏姿勢とピアノ椅子の調整の関係性についてポスター発表をしました。 音楽教育に携わる先生や演奏計測を行ってきた同部署の方にご協力いただき、実験プロトコルの構築から解析まで0から取り組んだ成果を様々な研究者と議論することができました。

今後も、「演奏者を科学的に考え、サポートする」という弊社の取り組みを国内外関わらず発信していきたいです。

また滞在中、ワルシャワではInternational Chopin and His Europe Festivalが開催されていました。
業務スケジュールの折り合いがつき、ピリオド楽器を使用したリサイタルを鑑賞する機会に恵まれ、様々な面から音楽に触れた出張となりました。

このように、「目の前の業務のみ」ではなく興味があったり今後の検討に役に立つような事柄があれば都合が許す限り様々な体験し、そして幅広い領域から知見を得ることで業務の領域を増やすきっかけを得ることが出来ると私自身は感じており、部署としても大切にしている事柄かと感じています。

自分で進めていくことができる環境

私は元々、音楽に関する専攻でもなく演奏情報を取り扱った経験はありませんでした。
しかし、演奏科学的な研究テーマには長い間興味を持っており、ヤマハでまだ着手できていなかったこともあり自ら提案し、現在の研究領域の設立へと至りました。

勿論、会社の方針とマッチングが取れる前提はありますが、幅広い裁量を任され仕事を進めることができる環境です。