研究者紹介:富永 英嗣

所属 技術本部 研究開発統括部
業務内容 ピアノの物理モデル・シミュレーション技術の開発
学生時代の専攻 機械工学
入社年度 1990年度

現在の仕事内容

思い通りのピアノを造る力を獲得すること。それが私の志です。

ピアノは、巨大で複雑な音響構造体であるため、実物試作による試行錯誤だけでは効率よく改良することが困難です。私は、十数年に及ぶピアノ設計者としての経験をベースとして、ピアノとそれを囲む空気とから成る系に対する高精度な物理モデルに基づく可聴化シミュレーション・システムの構築に継続的に取り組んでいます。

このシステムは、ピアノの設計(原因)と音(結果)との因果関係、つまり、“設計のどこをどう変えたらピアノの音がどう変わるのか”を定量的に明らかにするものであり、 ピアノ設計シミュレータとして活用されています。更に、楽器演奏の本質は、奏者と楽器のインタラクションであることから、我々は、このシステムを「楽器・空気に奏者までも含めたシミュレーション・システム」に発展させることを目標としています。

美と真実だけを追求し、他は忘れろ

2.7m以上もあるコンサート・グランド・ピアノの高周波数帯域までの音響-構造連成シミュレーションは、非常に大規模な計算となるため、市販の解析ソフトでは性能(精度や計算速度など)が不十分であるという壁に突き当ります。我々は、そのような困難な状況に屈することなく、商用ソフトを凌駕する高性能な数値解析ソフトの自社開発にも精力的に取り組んでいます。このとき、最も必要になるのは、数学(線形代数、複素関数論、微分方程式など)の確かな理解と応用力です。

私は、音楽などの芸術と数学などのサイエンスに共通して、それを深く理解し新たな価値を創造する上で最も大切なものは、「美」に対する感性だと考えています。

「美と真実だけを追求し、他は忘れろ」は、ジャズ・ピアノの巨匠ビル・エヴァンスが言ったとされる言葉です。

「楽器の科学的設計手法開発」を生業とする私の心にはいつもこの言葉があります。