音そのものを伝えるデザインとは?
1音1音を堪能できる音板打楽器
2025
Overview
アコースティック楽器をデザインする
発端は、新規製品開発を目指す事業部からの公募でした。その後、デザイナーとして自主的に開発を継続する中で、「表現したいことは何か」という問いに改めて向き合いました。
この作品の説明にはいくつかのポイントがあります。例えば「子どものための初めての楽器」や、「音階ごとに分割することで生まれる自由な演奏性」など。その中で最も重視したのは、「音板」と「共鳴管」が組み合わさることで生まれる、伸びやかで豊か、奥行きのある音そのものを表現することでした。そもそもの出発点は、自分自身が初めてマリンバの音を聴いたときに強い感動を覚えたという原体験にあります。
その感動をできるだけ純粋なかたちで表現し、多くの人に届けること。それが本作品の目的です。そして結果として、長い歴史の中で受け継がれてきた楽器の構成を見つめ直し、新たな原型を提示する試みとなりました。
Works
デザインのこだわり
外観では、本来金属で作られる共鳴管をあえて透明にし、「内部が中空であること」を表現しました。内包された空間を可視化することで、共鳴管内に生じる空気の振動を感じさせることを狙っています。共鳴管は形状が重要で、素材には一定の自由度があるため、このような表現が可能となりました。アコースティック楽器特有の現象や理論を正しく伝えながら、表現として成立させている点が本デザインの特徴です。
また、透明な共鳴管の色にもこだわりました。長い時間を封じ込めたような琥珀色をイメージし、油絵のニスの色味を参考にしています。質感についても、試作はアクリル製でありながら吹きガラスのような印象を与えるため、バフ掛けであえて微妙な厚みのムラをつけ、透過像がわずかに揺らぐ仕上げとしました。これらは、マリンバの伸びやかで深みのある音を視覚的に表現するための重要な要素です。
全体形状は、当初の垂直な構成から安定性を踏まえて見直し、最終的には共鳴管を下方向に、音板を上方向に開く形状に調整しました。これにより、演奏性と「音板打楽器らしさ」を両立しています。加えて、共鳴管底面に金属パーツを用いることで、安定性と質感の向上を図りました。
音階表記には深緑色を用い、接合部のパッキンや支柱のフェルトにも同色を採用しています。「音と出会う瞬間の感動」を届けるため、細部まで一貫した表現を追求しました。
Process
外観=音
検討過程では、デザイナーのイメージに合わせて、技術者が数式から基本形状を導き、そこにデザイナーが意匠を再提案し、再び技術者が検証するというプロセスを繰り返しました。こうしたキャッチボールによって形状を洗練させていった点が、本プロジェクトの特徴です。
その結果、作品は見た目を優先した恣意的なものではなく、楽器としての機能に根ざした合理的なデザインとなりました。設計とデザインが相互に高め合うこの手法は、形状そのものが音を生み出すアコースティック楽器において、新たな形を導く有効なアプローチだったと考えています。
音板については、さらに特徴的なプロセスを採用しました。このようなコンパクトなサイズの音板は前例が少なく、私自身が試行錯誤しながら基本形状を探る必要がありました。そこでアナログチューナーで音を確認しつつ、自ら音板を削りチューニングを行いました。これは「形状がそのまま音になる」というアコースティック楽器特有の性質によるもので、チューニングのために削った形が最終的な外観になるためです。
音と外観を同時に検証しながら仕上げていく工程は難しさも伴いましたが、多くの学びと手応えを得られるプロセスとなりました。
プロトタイプの役割
一般的にプロトタイプは、新しいコンセプトや価値を伝えるためのものですが、必ずしも実物と同様に機能するわけではなく、言葉、映像に表現が委ねられることが少なくありません。
一方で本作品が届けたいのは、「アコースティック楽器の音そのものが持つ感動」です。「外観=音」である楽器のプロトタイプとして、必然的に音まで作り込んだ本作は、展示会において特異な存在となりました。その結果、来場者にプロトタイプの価値を改めて伝えることができ、楽器ならではの役割を果たせたと考えています。
展示会では活用方法に関する多くのフィードバックも寄せられました。「カフェやバーへの設置」「ホテルの呼び鈴」「乳幼児や高齢者のレクリエーション」といった提案です。音そのものが想像力を喚起し、具体的な利用シーンを自然に思い描かせた結果といえます。
また、「構造が見て分かる点が面白い」という声も多くありました。これは、アコースティック楽器特有の原理や現象を、デザインとして素直に表現できている表れだと捉えています。
気づきと、これから
今回のデザインを通して、私自身も多くの学びを得ました。マリンバの共鳴管の先端が閉じていることや、音板の裏面を削って音階や倍音を調整していること、そして豊かな響きが音板と共鳴管の組み合わせから生まれていることなど、発見が数多くありました。こうした驚きは、多くの人にも共通するものだと感じています。
楽器の構造を再解釈し、新たな形として提示することで、楽器に馴染みのない人にも発見や感動を届けられる可能性が見えてきました。また、音の仕組みがそのまま外観に現れるアコースティック楽器には、まだ大きな探求の余地があります。例えば、音階を揃えたまま素材を変えるだけでも、音の違いを引き出すことができます。
用途の面でも可能性は広がります。ホテルのフロントやカフェ、バー、教育やレクリエーションなど、場に応じた展開や、音楽から離れて、音を楽しむ用途での利用も考えられます。今後も「楽器のプロトタイプ」を通じて、新たな可能性を探求していきたいと考えています。
Designer: Ryo Suzuki/Yamaha Design Laboratory














