[メインビジュアル] Liudmyla Dykaさん
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Liudmyla Dyka

ピアノ指導者、Kyiv Music School of Arts #5所属

戦時下の音楽教育

Liudmyla Dykaさんに、これまでのキャリアと、音楽や教育についての見解を伺いました。

私はグリエール音楽大学(Glier Institute of Music)の学生だったころに、音楽教育の道に進もうと決心しました。そして4年生の時、実務経験を得るために音楽学校で働き始めました。最初に受け持ったのは、5~6歳の子どもたちです。教えるのは簡単ではなく、経験を積む必要がありました。けれども、知識は実践を通して身に付くものです。結局、私はこの学校で47年間働き続けています。

結婚を機に別の地域に引っ越す必要がありましたが、素晴らしい職場だったので退職は選びませんでした。同僚たちは私の家族のようになっていて、経験や知識を分かち合って大いに助けてくれました。学校を出たてのころは、わからないことだらけですから。そのようなわけで、私は同僚たちに深く感謝していますし、その人たちと離れるなんて考えられませんでした。私と同僚たちは今も、キーウで指折りの強力なチームという評判を得ています。

教え子の中には、音楽の道を歩み続けることにした子も多くいました。また、音楽が他の分野で成功するための自己啓発手段として役に立った教え子も多くいました。

2022年2月24日に全面戦争が始まってからは、教え子の多くが移住していきました。

初めのうち、私たちはとにかくパニック状態でした。どうやって続けていけばよいのでしょう? レベルが落ちることは、あってはなりません。妥協するわけにはいきません。

幸い、保護者の多くは家族で避難する時、ピアノを持ち出そうという考えでいました。最初の2~3カ月間、私たちは文字どおり毎日、レッスンを行いました。私は1日のスケジュールを調整して、どの生徒にも少しずつ教えられるようにしていました。そして次の日には、またレッスンを少しだけ進めるのです。そのようにして、この困難な状況下でも、生徒たちはプログラムを進めることができました。保護者からは、本当に素晴らしい反応をもらいました。子どもたちが高い演奏レベルを保てていることに感謝されました。またそれだけでなく、まさに攻撃下の苦しい時期にあること、そして戦時下の厳しい環境全般を、音楽を学ぶことでいっとき忘れられるようでした。痛みを感じながら、私は子どもたちの進歩を目にしています。子どもたちはとても早く成長しています。このようなことが起こらなければ、ここまで早くはなかったでしょう。

私たちはオンライン・レッスンの実施を試みていますが、中には楽器を使える状況にない生徒もいます。また、ウクライナの電力インフラが爆撃を受けているために、オンライン授業は危機に瀕しています。電気がなければ、教えることもできません。けれども、レベルが落ちることは、あってはなりません。妥協するわけにはいきません。そこで、私たちは方法を模索しながらスケジュールを組み替え、遅れを取り戻そうと努めています。キーウに残っている生徒たちは、楽しそうに授業に出席しています。けれども、ひとたび空襲警報が鳴りだすと、私たちはレッスンを中止しなければなりません。

ある生徒は、ドイツに避難しました。その女子生徒はピアノを使うことができる学校を見つけました。彼女はどんな機会も見逃さずに練習しようとしていますが、時には学校が閉まっていたり、教室が他の人たちに使われていたりするそうです。

音楽教育は、個人の成長に役立つ本当に優れた手段です。

私がこれまで見た中には、勉強全般が苦手な子どもたちもいました。そして、そのような子が音楽の習得という課題に挑戦し、後々他の教科もうまくこなせるようになっていく姿を目の当たりにしてきました。音楽教育はあらゆる人間の個人的成長に貢献すると、私は心から確信しています。

音楽は人の心に安らぎをもたらします。悲しいときや寂しいとき、私たちはピアノの前に座ったり、他の楽器を手に取ったりして、力を得ます。自分の心を強めます。何か答えにつながるきっかけを見いだします。これは大切なことです。特に、今のような困難な時期に生きる私たちにとっては。

ウクライナ防衛の最前線に立っている人たちは、本当に私を鼓舞してくれます。これまで、オペラ歌手や音楽家たちも祖国を守って命を落としてきました。ウクライナの歌が響き渡り、多くの人の耳に届くよう願ってやみません。

音楽教育は幸せと喜びをもたらすものであるべきです。けれども、私はそれと同時に、ひたむきに努力するよう教え子に伝えています。その教えを達成するのは簡単ではありません。

時々、女性の教師はどこか母親に似ていると思うことがあります。母親はいつも助けてくれ、そばにいてくれます。子どもが困難を克服して気持ちが晴れるように手伝ってくれます。母親は最も思いやりと愛情に満ちた存在ですが、同時に厳格で、公正でもあります。私は男性教師も素晴らしいと思いますし、プロの男性教師はたくさんいます。けれども、問題が起きているときや失敗してしまったときに、抱きしめてくれる人も必要ですね。

ウクライナの音楽の未来について、私がどう考えているかですか? 難しい質問ですね。

今は多くの人が音楽教育を受けられない状態です。保護者は音楽の価値を心から理解してくれていますが、多くの場合、自分の子どもに音楽のレッスンを受けさせることができません。

ウクライナ人が世界で孤立しているわけではないことを、私たちは心から確信しています。私たちを理解して助けてくれる人々がたくさんいます。けれども、今この瞬間、私たちは非常に厳しい時期を過ごしています。それでも世界中からの貴重な支援のおかげで、私たちはきっとこの困難を克服できるでしょう。そう遠くないうちに、ウクライナの子どもたちが私たちの音楽学校に戻れると信じています。ウクライナの子どもたちには驚くほどの才能があります。世界の皆さんにその才能を披露する機会、彼らが奏でる音楽に耳を傾けてもらう機会を得られてしかるべきです。

歌の国ウクライナは、歌を取り戻すでしょう。

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