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「夢中になれる」が使い手の創造性を引き出す

#2 「すぐ弾ける」が引き出す創造性

2023年12月13日

煩わしい操作や設定が不要で、演奏者が望む「どんな場所でも『いつもの音』で」を叶えたステージキーボード、それが「CKシリーズ」だ。ピアノからオルガン、モダンなシンセサウンドまで、キーボーディストが必要とする音色を網羅し、曲に合わせたサウンドメイキングも可能。直感的に操作できるインターフェースは、より演奏に集中できる環境を提供する。

「夢中になれる」が使い手の創造性を引き出す(全3回)

#1 多様な「配信したい」という想いに応える

すべてのキーボーディストのために

CKシリーズの企画がスタートしたのは、2020年リリースの新しいステージキーボードとなるYCシリーズのプロジェクトの終盤のこと。当時、「ステージキーボードの企画を考える中で、あらゆるキーボーディストに共通する課題があることに気づいた」と、電子楽器事業部 電子楽器戦略企画グループの山田祐嗣は振り返る。

その課題とは、ステージキーボード※はその場でパッと音が出せないということだ。「プロのミュージシャンからサークル活動している学生まで幅広い演奏者に話を聞いたのですが、それぞれ困りごとはバラバラでも、『すぐ音が出せれば解決する』という点は共通していました。ただ、誰もが“スピーカー”というキーワードを口に出さないのも当然で、現場では軽量でコンパクトな楽器が求められていました」(山田)。

  • ステージキーボード:ライブ演奏に特化したキーボード。ライブ演奏においては音響機器に接続して発音するため、通常スピーカーは非搭載。
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電子楽器事業部 電子楽器戦略企画グループ  山田祐嗣

一般的なステージキーボードは、演奏するまでに準備が必要だった。特にバンドメンバーと演奏するのであれば、スピーカーといった音響機材が必要であり、さらにケーブルもつながないといけない。決して、「弾きたい」と思った時に気軽に弾ける楽器ではなかった。しかし、もしアコースティックギターを手にとって弾くくらい簡単に音が出るステージキーボードがあったら、どうだろう? そんな問いから、「あらゆるシチュエーションで楽しめるステージキーボード」というCKシリーズのコンセプトが決まった。

学生時代に、芸術と工学の中間にあたる芸術工学を専攻し、新しい音表現を研究していた山田。幼少期から音をつくり出すことができるシンセサイザーに興味を持っていた彼は、既存の音楽の枠を超えて、新しい音楽のカタチの探求にのめり込んだ。そんな山田にとって、“王道の楽器メーカー”というイメージのヤマハが2008年、メディアアーティストの岩井俊雄氏と共に実験的な電子楽器「TENORI-ON」を開発したことはちょっとした驚きだった。「ヤマハってこんな楽しい楽器もつくっている会社なの?」。これがヤマハを志望するきっかけとなった。

入社後は電子ピアノや電子ドラムの設計に携わったのち、有志メンバーとのサイドプロジェクトで生み出した新コンセプト楽器「refaceシリーズ」の商品企画の担当になった。「どうせ企画するなら、自分たちが欲しい楽器をつくりたい」。学生時代には新しい音表現の可能性を探究した山田だが、プロジェクトの中でシンセサイザーに興味を持った原点に立ち戻り、わくわくするような楽器づくりを通して音楽カルチャーへ貢献できないかと考えた。

ジレンマに飛び込むものづくり

ただ、「あらゆるシチュエーションで楽しめるステージキーボード」というコンセプトは決まったものの、そのために必要な「コンパクトで持ち運べること」と「いつでもどこでもすぐに演奏できること」という二つの要素は両立しがたいものだった。それでも、「一回飛び込んでみないと、どこまで行けるかわからない」。だから、山田はそのジレンマに挑戦するためのワーキンググループをつくり、メンバーと共にプロトタイプづくりにまい進することにした。

山田の仕事は「商品企画」だが、彼は企画段階の上流でアイデアを生み出すだけでなく、具体的な仕様を考える開発ディレクションから、新しい課題に対する実現性検討まで、あらゆる段階に関与する。自身もかつて設計に携わっていたからこそ、ただコンセプトや要求仕様を設計チームに投げるだけでなく、壁にぶつかった技術者たちと一緒に突破口を見いだしたいと思っている。

「そうした話し合いの中で、最初はA・B・Cの3つしか選択肢がないと思っていたのに、『Dも考えてみよう』『Eも考えてみよう』と発想が展開していくことがあります。そうやってDとEを試してみると、最終的にFのアイデアに落ち着いたりするんです」(山田)

CKシリーズの突破口は、実装するスピーカーのサイズや位置を試行錯誤する中で、フロントグリルを設けなくとも、実装や構造の工夫によって意外と良い音が出ると気づいたことだった。「これでも十分クリアに聞こえるね」「最終的なデザインに影響することなく開発できそうだ」──そんな実感をワーキンググループのメンバーたちと共有すると、開発は一気に加速した。

創造性を育む楽器を目指して

2023年3月に発売されたCKシリーズ(CK61 /CK88)は、単体で音が奏でられることに加え、直感的に操作できるインターフェースで「ストレスのない演奏体験」を実現した。「ライブコンサートやフェスだけでなく、学園祭のような身近なステージ、さらにはYouTubeなどのオンライン配信まで、日本のあらゆるミュージックシーンにこのステージキーボードが浸透していってほしいですね」(山田)。

しかし、CKシリーズが実現したストレスのない演奏体験のほんとうの価値は、奏者に創造性を発揮させることだと山田は考えている。煩雑な操作や設定がいらないからこそ、時を忘れて夢中になれる。弾きたいと思った時にいつでも弾けるからこそ、インスピレーションをすぐさまカタチにできる。どこでも弾ける楽器だから、富士山の頂上でCKシリーズを奏でる人だって現れるかもしれないのだ。

「単にこのキーボードを買ってもらって終わりではなく、演奏者はCKシリーズに刺激されて創造性を発揮し、これまでにないアウトプットを生み出していく。そして、今度はその新たな表現に触れた人たちが刺激を受けて、自分も表現したいと思うようになる。楽器には、弾き手・聴き手をクリエイティブにするパワーがある。そんなふうに人々の創造性を刺激するような楽器を、これからもつくっていきたいですね」(山田)

いつでもどこでも弾けるステージキーボード「CKシリーズ」と、直感的な操作性を実現した配信ミキサー「AG08」。次回はいよいよ、ユーザビリティー向上によって「夢中になれる瞬間」を生み出した二つの製品のKeyに迫ります。

(取材:2023年9月)

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山田祐嗣|YUJI YAMADA

ヤマハ株式会社 電子楽器事業部 電子楽器戦略企画グループ 主幹。学生時代には、新しい音表現を研究。入社後、電子ピアノ、電子ドラムの設計に携わったのち、新コンセプト楽器「reface」プロジェクトをきっかけに商品企画を担当。これまで3シリーズのステージキーボードの企画・開発に携わる。

※所属は取材当時のもの

参考:

「夢中になれる」が使い手の創造性を引き出す(全3回)

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#3 予定調和ではない“なにか”を設計する仕事

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