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音楽ライター記事

ライター:山崎│配信日:2016年3月24日│配信テーマ:洋楽  

私的追悼:キース・エマーソン(1944 - 2016)


2016年3月10日、キース・エマーソンの死に、世界は悲しみに包まれた。

エマーソン・レイク&パーマーで『タルカス』『展覧会の絵』(共に1971年)、『恐怖の頭脳改革』(1973年)などUKプログレッシヴ・ロックの名盤を生んできたキーボードの名手が4月の来日公演を前にして自らの命を絶ったことは、世界中のファンにとって大きなショックだった。

彼の死についてはあちこちで書かれており、ここでそれを繰り返すことはしないが、驚かされたのが、キースが ネットの評判を気にしていたことだ。日本では「クリエイターは匿名掲示板の自分スレを覗いてはいけない」と よく言われるが、彼ほどの巨匠がネット上のバッシングを気に病んでいたとは……。

キースが“日本でベストな演奏ができないかもしれない”と苦悩していたというのは、彼の完璧主義ぶりを証明するものだった。71歳といえば、普通のサラリーマンだったら定年退職になっている年齢である。少々指が動かなかったとしても、ご愛敬で済まされるだろう。事実、彼より年下で、はるかに衰えの激しいミュージシャンは幾らでもいる。だが彼は、自らのプレイに対して妥協を許さなかった。

キースが右手の手術の後遺症で万全なプレイを出来なかったことで精神的に自分自身を追い込んでいたことも報じられている。懐かしのプログレ名曲オンパレードを披露して、オルガンに日本刀を突き立ててみせれば、それだけで我々ファンは大喜びしただろう。だが彼はそれをよしとしなかった。彼はベストなプレイを“しなければならなかった”のである。

筆者(山崎)は一度だけキースに取材をしたことがある。1996年10月、エマーソン・レイク&パーマーの来日公演時だった。彼は筆者の質問ひとつひとつに耳を傾け、真摯に答えてくれたが、1996年といえばまだ“オルタナティヴ”の嵐が吹き荒れていた時期。同年夏にジェスロ・タルと行った北米ツアーが“オールドスクール・ツアー”と揶揄されており、その話題になるとちょっと不機嫌な表情を見せていた。

彼は自分の音楽と技術に誇りを持ち、さらなる向上を志していた。それゆえに、当時のテクニック軽視の風潮に対してシニカルな姿勢を持っていた。

「パンク? グランジ? ラップ? 時にはそういう一過性のトレンドも必要なんだよ。ああいう代物を聴かされたら、もっと良い音楽に触れたくなるだろ?」

このインタビューの2年半前に自殺したニルヴァーナのカート・コベインに対しても、彼は辛辣な一言を放っていた。

「ギターは大したことないが、銃の使い方はなかなかじゃないか」

キースが後に歩んだ道を考えると、何ともいえない気持ちになる。
一方、キースはテクニック偏重のミュージシャンに対しても厳しい発言をしていた。

「別にグランジが悪いんじゃない。あいつらのメチャクチャな速弾きに感情やメッセージが込められてないから売れないんだよ!」

キースは音楽以外のことに対しても、シリアスな姿勢を貫いていた。彼のステージ・パフォーマンスにはオルガンの下敷きになって、上下逆にキーボードを演奏するというものがあったが、彼はツアー前、親元の実家で練習していたという。

「友人のロバート・ベリーがちょうどそのとき遊びに来たんだ。私がオルガンの下敷きになって、それを母親が平然と見ているのに驚いていた」

なおロバート・ベリーはキース、カールと共に“3”を組んでいたこともあるギタリストだ。

時代を感じさせるのは、そのときキースがprogという単語を知らなかったことだ。プログレッシヴ・ロックは日本でこそ早くから“プログレ”と短縮して呼ばれるようになったが、英語圏ではしばらく“プログレッシヴ”とフルで呼ばれていた。それがprogと呼ばれるようになったのは1990年代中盤のことだった。キースは「プログ?何それ?」と言っていたが、他のミュージシャンには通じていたので、筆者の発音が悪かったのではない、と思う。

インタビュー後、『恐怖の頭脳改革』のCDにサインをしてもらったのだが、その前日グレッグ・レイクが表ジャケットに思い切りでかくサインしてしまった。キースはそれを見て「あの野郎……」と苦笑しながら、裏ジャケットにサインしてくれたのが印象に残っている。

キースにインタビューをしたのは、その一度だけだった。だが偉大なるアーティストと時間を共有し、その音楽観を語ってもらったことは、多くを学ぶ経験になった。 71年の妥協なき人生を駆け抜け、素晴らしい音楽を生み出してきたキース・エマーソンに感謝を捧げたい。

本当に有り難うございました。ゆっくり休んでください。



エマーソン・レイク&パーマー『恐怖の頭脳改革』
(ビクターエンタテインメント/VICP-75061)
発売中

2016年3月24日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載 執筆記者:山崎智之

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