社長メッセージ

[画像] 取締役 代表執行役社長 山浦敦

新規領域への挑戦を通じて事業構造を進化させ、
成長軌道への回帰を目指します。

競争に勝つ経営への覚悟

[画像] 取締役 代表執行役社長 山浦敦

2024年4月の社長就任以降、他業界の経営トップの方々との意見交換を重ねる中で、これからの経営は「時間との戦い」だという緊迫感をひしひしと感じるようになりました。自動車やIT、インフラ関連といったさまざまな業界の企業経営者が、急激な事業環境の変化や技術革新に対応しながら、顧客の高い要求水準を超えるべく知恵を絞りビジネスを組み立てている姿には、共感を覚えるだけでなく刺激を受けています。

他社の挑戦を学んだ目であらためて当社の現状を見渡すと、多くの課題が見えてきます。当社はお客さまの期待を超える価値提供ができているか。技術革新やお客さまの嗜好の変化を捉えて新たな事業領域を開拓できているか。地政学リスクも含めた経営リスクが顕在化する前に事業継続の仕組みを整備できているか。そして投資家の要請を上回る経営の効率化と成長を実現できているか。企業経営のあらゆる側面において「時間との戦い」に勝てるようスピードを追求し、ステークホルダーの期待に応えなければ明日はない、という覚悟を胸に、中長期的に当社が向かうべき方向を示す新中期経営計画「Rebuild & Evolve」(以下、新中計)を取りまとめました。

外部環境の変化を跳ね返す
実力不足が表れた前中期経営計画

新中計の狙いをご説明するに先立ち、前中期経営計画「Make Waves 2.0」(以下、前中計)の結果と明確になった課題、および重点的に進めた取り組みの成果についてご報告します。

2025年3月期の業績は、前中計スタート直前の2022年3月期の業績に比べ、財務目標として掲げた事業利益率、ROE、ROICがいずれも悪化しました。この結果は、コロナ禍での巣ごもり需要の反動となる需要減と、中国の教育政策の転換という、主に2つの外部要因による市場の急変を跳ね返す実力が当社に不足していたことを示しています。特に、中国政府が子どもの課外活動を制限する政策を導入し、入学試験における芸術加点制度が廃止されたことによる教育需要の急激な縮退で、同国でのアコースティックピアノ市場は大きな打撃を受けました。市況の冷え込みに対応すべく2024年3月期からピアノ生産構造改革を進めましたが、需要減少が想定以上のスピードで進み対応が後手に回ったことは、冒頭で述べた「時間との戦い」に負けたと言わざるを得ません。

これまで楽器業界は比較的需要の変動が緩やかだったと言えます。その比較的緩やかな時間の流れからくる油断が、近年の需要変動や新しい競争相手に対する判断と実行の遅れ、ひいては業績不振につながったのではないか。こうした当社の対応力不足を真摯に受け止め、困難や逆境から素早く立ち直るために必要な、企業としてのレジリエンスやアジリティを今一度強化しなければならないと考えています。

財務面で反省が残る一方、3つの重点方針として掲げた「事業基盤をより強くする」「サステナビリティを価値の源泉に」「ともに働く仲間の活力最大化」については、それぞれ大きな進捗がありました。事業基盤の強化に向けた取り組みとしては、デジタルのお客さま接点となる「Yamaha Music ID」の登録者数が当初の目標値を大きく超え、リアル接点として新たにオープンした体験型店舗も楽器演奏経験を問わない多様なお客さまから好評を博しています。車載オーディオ事業の成長や、新コンセプトの商品投入で新たなお客さまの獲得が進んだことに加え、将来の新たな価値創出に向けて米国シリコンバレーに事業開発法人とコーポレートベンチャーキャピタルを設立しました。

[画像] スクールプロジェクト(フィリピン)

スクールプロジェクト(フィリピン)

サステナビリティ関連では、音楽文化普及を目指す「スクールプロジェクト」がフィリピン、インドへと広がり、新興国における楽器を使った音楽教育を拡大しました。持続可能な木材の利用やCO2排出量削減の取り組みなどでも着実な成果を上げています。

ともに働く仲間の活力最大化についても、管理職女性比率の向上が進捗し、また働きやすさに関する従業員サーベイで肯定的な回答が増加傾向にあるなど、社内活力の底上げが進んでいることを実感しています。

これらの成果は、単なる数値の達成にとどまらず、未来に向けた持続可能な成長基盤の強化に直結するものであると考えています。私たちは、財務・非財務両面でのバランスの取れた成長が長期的な企業価値向上への道であると信じており、今後もそれを追求していきます。

新中期経営計画「Rebuild & Evolve」

新中計では「Rebuild & Evolve」を旗印として掲げました。ここには、Rebuild=既存事業の収益力をコロナ禍以前の水準に回復させ再び成長軌道に乗せる、そして、Evolve=事業ドメインの拡大により当社のビジネスモデルそのものの進化を図る、という2つの決意を込めています。この実現に向け、「強固な事業基盤の再構築」「未来を創る挑戦」に、「経営基盤の強化」を加えた3つの戦略方針を打ち出しました。これらの戦略方針の推進を通じて、2028年3月期までの3年間で、売上3年CAGR5%、最終年度のROE10%の達成を目指します。

[画像] 取締役 代表執行役社長 山浦敦

当社を取り巻く事業環境は、今後も急激に変化し続けることが予想されます。物価の上昇に伴う部材コストの高騰、金利上昇、為替や地政学をはじめとするリスクレベルの変動といったマクロ環境の変化に加え、お客さまの価値観やライフスタイルの多様化、そして購買のオンラインシフトも急速に進んでいます。
さらには、技術革新、とりわけ生成AIの進化はあらゆる産業のビジネスの在り方を根本から変えつつあります。このような変化に柔軟かつ迅速に対応し、逆風下においても売上・利益の成長が可能な事業基盤づくりに全力を挙げるとともに、お客さまの音・音楽の愉しみ方を広げる体験価値の創出につながる新たな事業の育成・拡充にも注力し、中長期的な成長を実現します。

新中計策定の過程においては「実効性を高める」ことをテーマとし、実現に向けたアプローチや各部門が意識すべきことについて一歩踏み込んだ表現にしていこうと議論を重ねてきました。
また「部門計画の寄せ集め」に終わらないよう、各部門の目指すところを共有、すり合わせしながら進めてきたことも今回の策定プロセスの特徴です。取締役会の議論では、執行側での議論で手薄だった外部の視点にも気づかされました。例えば、グローバルな競争環境を踏まえて当社が目指すべきポジショニングを商品別、価格帯別に明確にした上で、それを世界の各地域で実現する戦略を検討すること、また中長期的な成長に向けた新たな事業の育成に関してはお客さまへの提供価値や事業の将来規模など解像度を上げた説明が必要であることなどが指摘されました。世界にも他に類を見ない総合楽器メーカーとして多くのカテゴリで市場トップレベルを占めてきたという歴史から、比較・競争の視点に慢心が生じる余地はなかったか、市場・顧客志向の変化を真に見極められていたのかなど、あらためて顧客視点で見た当社の立ち位置を真摯に見つめ直しました。

社会価値の共創を通じて企業価値を高める

新中計の発表と併せ、当社は新たな経営ビジョン「音・音楽の力で、人々の個性輝く未来を創る 社会価値の共創を通じて企業価値を高める」を掲げました。これは、当社が中長期的に目指す姿を明確に打ち出したものです。その内容としては、1つ目に、ヤマハの強み、ヤマハらしさが十分に生きる「音・音楽」領域において、新たな価値創造の可能性を追求していくこと。
2つ目は、そのために、世界中の人々の自己表現、多様な個性の発揮を後押しする製品やサービスをたゆまず提供していくこと。
そして3つ目として、多様なステークホルダーと積極的に連携・協業し、社会課題の解決に資する新たな価値を、ともに創り上げること。

私たちはこれまで同様、音・音楽を原点に培った技術と感性で製品の本質的価値を磨き続けるとともに、そこに、より楽しい、よりクリエイティブな、あるいはより便利な体験価値を加えるための取り組みを強化し、隣接領域における事業としていきます。さらには、既存商品、既存事業の枠にとらわれない、社会課題解決につながる音・音楽の新たな可能性を追求し、さらに事業ドメインを拡大していきます。

ヤマハは、単なる製品プロバイダーではありません。総合的に自己表現を支える存在として、より良い未来のために、多様な個性が輝く社会を支援し続けたいと考えています。このビジョンの実現に向け、私たちは積極的に挑戦を続けていきます。
そしてそれらの取り組みを通じて、企業としての成長を実現すること。これが今後私たちにとって最も大事な目標であるということを明確にしたいと思います。

収益性改善に向けた優先課題

収益性改善への取り組みで特に力を入れる事業は、ピアノとホームオーディオです。ピアノでは、中国における需要の縮小を受けて、インドネシアでの生産を2025年12月までに終了し、日本と中国に生産拠点を集約・再編するという大きな決断をしました。市場規模に見合う生産体制を実現し、製造固定費を削減することに加え、高収益の高付加価値製品が販売に占める比重を高めることで収益性を改善します。

ホームオーディオでは、音質にこだわりのあるお客さまをターゲットとする高付加価値な商品構成へのシフトを進めます。収益性の高いプレミアムセグメントでラインアップを拡充し、競争が激しい普及価格帯では開発・製造固定費の大幅削減に取り組みます。

一方で成長が期待される事業領域においては、競争力を一段と高め成長加速に取り組みます。

エンターテインメント向けPA領域では、高い市場シェアを誇るデジタルミキサーと、今後さらなる市場拡大が期待されるスピーカーの機能連携を強化し、音響システム全体としての販売拡大を目指します。顧客要求へのタイムリーな対応を可能にするBtoBに最適な体制づくりを進め、コンサートをはじめとする体験型市場のグローバルな拡大を捉えて成長を加速していきます。

また電子ピアノでは、アコースティックピアノをよく知る当社ならではのリアルな表現力で高付加価値モデルの拡売を進めるとともに、オンライン販売網の強化、デジタルマーケティングの最適化で普及価格帯におけるプレゼンスも向上させていきます。

総合楽器メーカーとしての強みの発揮

今後の当社の成長と価値創造のためには、このような収益性改善に向けた事業別の取り組みに加え、総合楽器メーカーとしての強みを発揮することが不可欠だと私は考えています。
ミュージックコネクト事業はその重要な布石であり、楽器と、それをより楽しむための音楽系サービスを連携させることで、演奏体験の向上を支援していきます。

オンラインレッスンやコンテンツマーケットプレイス、コミュニティーサービスといったものの中から、顧客情報基盤に基づき一人一人に最適なサービスを設計する。異なる楽器を演奏するお客さま同士をつなげる、あるいはこれまで経験した楽器とは違う楽器を楽しむ機会を提供するなど、ヤマハならではの豊かな音楽体験の提供に取り組むことで、「モノを売る」ビジネスから「体験を売る」ビジネスへの進化を進めていきます。

新中計で「Rebuild」と並べて「Evolve」を掲げたのは、新規事業領域への挑戦を通じて既存事業を質的に変化、進化させたいという想いがあるからです。体験価値、カスタマーサクセスの向上で楽器事業の新たな機会を自ら創出し、ハードウェア単体としては成熟産業の色合いが強くなっている楽器事業を再び成長軌道に乗せることを目指します。

[画像] 取締役 代表執行役社長 山浦敦

事業ドメイン拡大に向けた「新たな挑戦」

中長期的に持続できる力強い成長を形づくるためには、事業ドメインを隣接領域へ、さらに新規領域へと拡大していかなければなりません。

前中計期間から取り組みを強化している車載オーディオ事業では、当社独自技術である「Music:AI」をフル活用してプレミアムな顧客体験を提供するとともに、開発期間を短縮できるなど自動車メーカーにとってのメリットも訴求し、採用数の拡大を目指します。

楽器・音響機器以外の新規領域での事業創出については、社内外の知見を結集したオープンイノベーション体制を整備し、社内アイデアの事業化だけでなく、外部パートナーとの連携による新たなビジネス創出を推進します。米国シリコンバレーのYamaha Music Innovationsを拠点にサードパーティーとの協業を進め、またコーポレートベンチャーキャピタル投資によるアウトサイドイン型の事業開発を進めていきます。

私たちヤマハは音・音楽の力、そして事業を通じて培ってきた技術と感性で社会課題の解決に貢献したいと考えています。
音楽で人のつながりをつくること、音があることによる安心と安全を提供すること、そして音楽文化・楽器文化が持続可能であるように地球規模での資源循環を実現すること。このような取り組みを通じて音・音楽の新たな可能性を追求し、事業ドメインを拡大していきます。

既存事業の枠にとらわれず、音・音楽による社会課題解決で新しい事業を創出する。未来に向かうこれらの挑戦こそが、当社の次なる飛躍を支えるエンジンになると信じています。

[画像] 米国シリコンバレーで、コーポレートベンチャーキャピタル「Yamaha Music Innovations Fund」を本格始動

米国シリコンバレーで、コーポレートベンチャーキャピタル「Yamaha Music Innovations Fund」を本格始動

資本・資産効率の向上

新中計では、資本・資産効率の向上を柱とする経営基盤の強化も打ち出しています。棚卸資産の圧縮、政策保有株式の縮減などを通じてBSの適正化を進め、また事業別ROICのツリー分析と対策を強化することで、事業の効率性と収益性を改善していきます。
ポートフォリオマネジメントの強化も新中計で取り組むべき大きなテーマです。既存事業および新規事業のそれぞれを「育成」「成長」「安定」「再構築」に区分し、継続的なモニタリングを通じて課題事業の早期改善と成長事業への積極投資を加速していきます。経営ビジョンなどの目指す姿との整合性、事業将来性と収益性、そしてベストオーナー視点での当社の保有意義のそれぞれを評価し、定期的な見直しを行うマネジメントプロセスを導入します。

投資と還元のバランスを意識する点はこれまでと変わりませんが、新中計では、より成長投資に重きを置いた計画としています。
還元を重視するあまり投資を劣後させて縮小均衡に陥ることは、企業価値向上の観点からも望ましくありません。積極的な投資で成長を実現することで、投資家の期待に応えたいと考えています。今後も中長期の成長戦略に関する解像度の高い説明と対話に努める一方で、短期的には、四半期ごとの実績をしっかりと積み上げていくことで、資本市場の信頼を取り戻していきます。

無形資産を価値創造につなげる

[画像] 従業員との対話(社長職場訪問企画)

従業員との対話(社長職場訪問企画)

これまで積み上げてきたブランド力はもとより、アコースティックとデジタルの領域にまたがる技術開発力、グローバルな販売網、新興国における音楽教育普及の取り組みなど、当社にはまだ企業価値に十分に結び付けられていない無形資産がたくさんあります。中でも、価値創造のドライバーとすべき無形資産の筆頭が人材です。人的資本の強化を最重要テーマの1つに位置付け、多様な価値観・バックグラウンドを持つ人材が活躍できる環境を整備します。創造的で挑戦的な組織風土の醸成、組織力強化と個の成長を後押しする仕組みの構築、事業戦略と連携した人材マネジメントシステムの構築といった取り組みを通じ、人材ポートフォリオの変革を推し進めていきます。

音・音楽に対するニーズがますます多様化する中、ヤマハがそれらにしっかりと寄り添い新たな価値を創造し続けるためには従業員一人一人が十分に力を発揮することが不可欠です。
多様な従業員が自らの持つポテンシャルを最大限に発揮できて初めて、楽器に触れた経験や演奏の得手・不得手、地域性やジェンダーなどを問わず、誰もが音・音楽を通して個性を発揮し輝く未来が創れるのだと信じています。

音・音楽の力で社会をより輝かせる

私たちは、「世界中の人々のこころ豊かなくらし」というミッションを胸に、世界中の人々がクリエイティビティを発揮できる事業活動、人々の個性を輝かせる事業活動に全力で取り組みます。

共感力高く、外部と連携しながら音・音楽の力で社会課題を解決するための新たなビジネスモデルを探索し、生み出し、成長していく。世界中の人々がクリエイティビティを発揮できるような事業活動をヤマハが行い、それを後押しすることで人々の個性を輝かせ、その光を受けてヤマハブランドが一層輝く。
そのような状況をステークホルダーの皆さんと一緒につくり出していきたいと思います。

株主・投資家の皆さまには、厳しいご意見をいただきながら、引き続き率直かつ建設的な対話を重ねていきたいと考えています。当社の挑戦を、今後もどうぞご支援ください。

2025年9月
取締役 代表執行役社長
[ 画像 ] 取締役 代表執行役社長 山浦敦