中期経営計画の取り組み

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新たなステージに立つヤマハのギターの挑戦

中期経営計画「Make Waves 2.0」(以下、中計)の基本方針「成長力を高める」において大きな原動力となるギター事業。中計で示した事業ポートフォリオにおいては、育成事業の1つと位置付け、積極的な投資を行い、3年間でCAGR10%を目標に掲げています。

ギター市場は、楽器事業の中で最大規模であり、今後も年率2~3%の成長が見込まれます。当社のギター事業は、2023年3月期までの10年間で売上収益が約3倍に成長しました。北米において同期間中に約4倍の売上成長を実現したほか、中国ではピアノで築いた高いブランド力で顧客支持を獲得し同約8倍、2019年に工場を新設したインドでは生販一体の地産地消戦略がフィットし、今期も大幅な増収を計画しています。

今後の成長のカギは、商品ラインアップの拡充と、販売額ベースで市場の5割以上を占める中高級モデルの売上拡大です。中計の重点テーマに沿って成長戦略をけん引する事業部門の取り組み、世界最大のギター市場である米国での新たな挑戦、そして楽器づくりに不可欠な木材の調達の動きをリポートします。

  • 中計3年間の年平均成長率

ギター売上収益推移

[ 画像 ] ギター売上収益推移
[ 画像 ] 重点戦略

中高級モデルで評価されるブランドへの進化

2023年4月中旬。米国のアナハイムコンベンションセンターで開かれた世界最大規模の楽器見本市「NAMM Show」において、ヤマハは満を持して新たなギターを発表しました。販売価格が4,000米ドルクラスのアコースティックギターハイエンドモデル『FG9』です。狙いは、ギター市場におけるヤマハ製品への評価を高め、中高級モデルで選ばれるブランドへと躍進すること。期待を込めて出展した『FG9』に対する来場者の高い評価に、開発を主導したギター事業部長の阿部征治は成長戦略の実現性に自信を深めました。

ギター事業部は、本質を評価する中高級モデルユーザーに支持される製品づくりを追求しています。「耐久性や音の安定性など、基本性能の確かさが求められるエントリーモデルに対し、中高級モデルでは顧客自身が理想の音のイメージを持ち、ギターの『鳴り』を重視します。複数本の所有が珍しくない顧客層だからこそ、求められる音を届ければ、中高級モデルで圧倒的地位を築く米国ブランドと肩を並べ、市場シェアが拡大できるはずです」と阿部は言います。

『FG9』の開発には、ユーザー起点の手法を取り入れました。ターゲット層へのヒアリングから目指す音を定め、ヤマハの強みである科学的開発アプローチによって理想の構造を設計、試作品をユーザーに弾いてもらい再びヒアリングするサイクルを繰り返したのです。「木の材質・構造・塗装などの追求がよい『鳴り』につながります。工程への真摯な取り組みが、ユーザーからの信頼獲得に不可欠です」。

[ 画像 ] 2023年4月の「NAMM Show」での『FG9』の展示
2023年4月の「NAMM Show」での『FG9』の展示

ユーザーに価値を届けるコミュニケーション

米国を主戦場とする競合他社に対する強力な優位性であるヤマハのグローバルな販売網を生かし、顧客に楽器の価値を伝え、ブランドの浸透と向上を図る取り組みも強化しています。「ユーザーは自分に合う1本を探すため、フィジカルな体験を重視しており、弾き比べをしに楽器店を訪れます。来店したユーザーに楽器の特徴を伝えるのは店舗のスタッフですから、楽器店の理解と支持を得ることも重要です」。2022年には掛川工場にプレゼンテーション施設を新設、来日した楽器店オーナーらに向けて、楽器の開発過程や特徴を紹介しています。実際に訪問者の帰国後売上が急増した例も出ており、エンドユーザーへの価値伝達の効果も見え始めました。

[ 画像 ] 楽器事業本部ギター事業部長 阿部 征治

本質を追求するギターづくりによって中高級モデルユーザーの信頼を獲得し、市場シェア拡大を狙います

阿部 征治
楽器事業本部ギター事業部長

多様なブランドの掛け合わせが生むシナジー

アコースティックギターとほぼ同じ市場規模を持つエレキギターの強化も不可欠です。現在は主力シリーズである『Revstar』と『Pacifica』のラインアップ拡充による売上数量拡大を図るとともに、アコースティックギター同様、中高級レンジへのシフトチェンジを推し進めるべく、ヤマハらしい音づくりとデザインによる競合との差別化に取り組んでいます。

エレキギター・ベースの演奏は、周辺機器抜きには成立しません。アコースティックギター、エレキギターとならび、ギター市場の売上の3分の1を占める周辺機器でトップクラスのシェアを誇るのが、YamahaGuitar Group, Inc. (以下、 YGG社)傘下のブランド群です。『Line 6』は、500米ドル以上のマルチエフェクターでシェアNo.1、『Ampeg』はベースアンプでシェアNo.2のポジションにあります。

YGG社の商品企画・開発担当者は、グループシナジーを大きな強みと捉え、次のように述べます。「私たちは企画の段階で、各ブランドの強みを生かせないかという視点を常に持っています。単一のブランドを超えた議論がグローバルな共同開発に結び付いています」。地域や拠点を越えた共同戦略検討や開発コラボレーションが、成長力を生み出すのです。

ポートフォリオ強化に向けた一手

長年の課題であったクラシックギターを筆頭に、商品ポートフォリオの補完に向け強力なリソースとなるのが、2023年2月に買収したCordoba Music Group, LLC(以下、Cordoba社)です。Cordoba社が展開する4ブランドのうち『Cordoba』は、クラシックギターで米国シェアNo.1を獲得するほか、ウクレレ市場で確かな地位を築いています。また、老舗ギターブランドとして一時代を築いた『Guild』は、ヤマハのような海外グループでは参入が難しかった米国カントリーミュージックの世界でユーザーから強く支持されています。これらの製品をヤマハグループのラインアップとして加えることで、ギター顧客カバレッジを拡大していきます。

加えてCordoba社買収には、開発ノウハウや人的資本の獲得という、ギター事業の成長の要となる無形資産強化への期待もあります。これら無形資産は本質を追求するギター事業において、品質全体の底上げと市場でのプレゼンスの持続的な向上に寄与するものです。

買収を通じて、当社グループはCordoba社の持つ米国での生産拠点も獲得しました。「メイドインUSAもブランドを高める要素の一つです。将来的には米国での生産規模の拡大も視野に入れながら、Cordoba社の生産拠点を米国における成長に活用していきたい」と阿部は展望を語ります。

[ 画像 ] 新たに仲間に加わったCordoba社の従業員(Cordoba社の米国工場にて)
新たに仲間に加わったCordoba社の従業員(Cordoba社の米国工場にて)

事業活動に不可欠な安定調達の追求

「長期的な生産の観点で、持続可能な木材調達はヤマハにとって必須事項」。ヤマハの製品は木材抜きには語れず、特にギターづくりにおいては、その「鳴り」を左右する要因の一つである木材は重要です。アンディ ルギト率いる調達部門では、森林・生態系の保全はもとより、楽器に適した木材を将来にわたり安定調達するため、「おとの森」活動など持続可能な木材の利用に取り組んでいます。

「おとの森」は楽器に使われる希少樹種を、植林・育成・保全・活用のサイクルによって森林資源として循環させ、持続的な調達を目指す取り組みです。これらの樹種は育つまで数十年単位を要します。短期的なリターンが得られる訳ではないという制約を超えてヤマハを動かすのは、使命感です。「木材の持続的な調達は時間軸が長く、多くのステークホルダーが関わります。ヤマハだけでは実現できませんが、我々が率先することで森林資源の持続可能な活用を社会全体に広げたい」と「おとの森」の担当者である仲井一志は語ります。実際に、NGOや自治体、大学との共同研究という形で新たなつながりが生まれており、その中で獲得した事業とは異なる切り口・視点は、新たな価値創出へのヒントをもたらしています。希少木材のうち、従来楽器づくりに使えていなかった部分を有効に活用するための新技術の開発は、タンザニアでのアフリカン・ブラックウッドの保全活動で得た気づきから生まれた試みの一例です。

[ 画像 ] タンザニアでの森林調査
タンザニアでの森林調査

全社一体で取り組む中計達成へのマイルストーン

人類社会を支える重要な自然資本でもある森林や生態系の劣化が懸念される時代において、持続可能な木材調達に取り組むことは、木材と密接な関係にある当社の責務です。当社はこれまで、第三者認証によって持続可能と判定された木材の使用率を拡大することで、持続可能な森林資源の活用と木材の安定調達に取り組んできました。しかしながら、樹種によっては認証木材の流通量が少なく、認証木材以外の木材の持続可能性を評価できないことが課題でした。

2023 年5月には、国際環境団体「Preferred by Nature」と共同で木材の持続可能性を評価する自社基準を制定しました。これにより、認証木材の流通量が少ない樹種についても、その木材が環境や社会に配慮されたサステナブルな木材であるかを客観的基準に基づいて評価できるようになります。例えば、「認証材が存在しなかった楽器づくりに不可欠な樹種」(基準策定メンバーの高田素樹)や「調達先の半数を占める東南アジア、中でもインドネシアの植林材」(ギターの木材調達を担当する菊地建志)の持続可能性を厳格に評価できるようになったことは基準策定による成果です。この取り組みを足掛かりに、中計で非財務目標として掲げる「持続可能性に配慮した木材使用率75%」を目指します。

そして、この基準に沿って木材の持続可能性を正当に評価するためには、調達メンバーのスキル向上や、調査のための十分なリソースの確保など、より一層の注力が必要になります。調達部門メンバーの牛谷内順は「この活動は森林や生態系の保全はもちろん、企業価値の向上にもつながると信じています。その意義を社内外に伝え、支持を広げることで、目標達成を目指します」と力を込めます。

[ 画像 ] 左から、牛谷内 順、菊地 建志、仲井 一志、高田 素樹、アンディ ルギト

ヤマハが率先することで、森林資源の持続可能な活用を社会全体に広げたい

左から、牛谷内 順、菊地 建志、仲井 一志、高田 素樹、アンディ ルギト

近づいた世界No.1ギターブランドへの道

本質を追求するギターづくり、新たなブランドや知見の獲得による製品ラインアップの強化、地球の持続可能性と高品質な部材の安定的な使用を両立させる木材調達、それぞれの果断な挑戦は当社のブランド力をより一層高める道筋となるはずです。お客さまのニーズに応え、また、お客さまの期待を超える付加価値を生むことで、中計の目標達成と持続的な成長を目指します。